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幸せな思い出、そして
第69話 勉強会をしましょう
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「と、いうことがあったんだけど」
「なあ、その話今じゃなきゃ駄目か?」
そんなことを言われても、私は聞かれたから話しただけなのだけれど。
私から話を聞き出そうとした張本人の方を見ると、なんとも言えない表情をしている。なんとか言って欲しい。
今日は、皆で進藤くんのお家に集まって勉強会をしている。
例の如く、先輩のことで頭が一杯になって、また集中を切らした私を心配した真咲ちゃんと結季ちゃんが、テスト前で部活が休みになってこれ幸いと勉強会に誘ってくれたのだ。
少し休憩にしよう、とペンを置いたところで、進藤くんからこの間の冬紗先輩とのお出かけのことを聞かれたので、私はあったことを話したのだけれど、真咲ちゃんはやや不機嫌そう。
「もう、真咲ちゃんも聞きたかったんじゃないの?」
「そりゃそうだけど、こんな面倒なことになってると思わなかったんだよ。勉強の合間なんかに聞くもんじゃねえって」
「ははは。ごめんね、うちの先輩が」
結季ちゃん、真咲ちゃん、進藤くんが和気あいあいと話す様子を、私の隣で九十九くんがぼんやり眺めている。
「そういうまだるっこしいの苦手なんだよ。おい類友。お前ならなんかわかんじゃねえの」
急に真咲ちゃんに話を振られて、九十九くんがピクリと反応する。直接の接点がないはずなのに類友扱いされているが、似通っている部分があるのは否定できない。
九十九くんは真咲ちゃんが巻き込んで、それに進藤くんがついてきてこの五人になったのだが、もしかして、こうなることを見越して九十九くんも呼んだのだろうか。
「知らん」
だけど、その期待には添えないらしい。まあ、私の〝感覚〟のことは九十九くんにしか伝えていないので、先輩の心についてはうまく話せていない。
わからないのは無理もない話なのだが、彼の言い方が冷たかったのもあって、女性陣の視線は冷たい。九十九くんは仕方なく、という様子で話を続けてくれる。
「……そこで、話してもらえるってことじゃないのか」
そこ、というのはダブルデートのことだろう。
「そこで分かるかもね、とは言っていたけれど、話してくれるかは、どうだろう」
「なんか、煙に巻かれてない?」
私が不安そうにすると、結季ちゃんも心配してくれる。私もちょっと、そんな気がしている。そういう人だからね、と進藤くんも同意している。だけど、なんだかそうじゃないような気もする。
「……俺には、その先輩自身も、まだ探しているように聞こえるが」
「あん? 何をだよ」
「さあ。一透から聞いた話だけではなんとも。素直に考えるなら、諦める理由、じゃないか」
諦める理由。ファインダーを覗いて生きてはいけない理由。それを、先輩も探している。そう言われるとそんな気がした。
「やっぱり本当は、やめたくないのかな」
「どっちでもあるんだろ。だから探してるんじゃないのか」
やっぱり、九十九くんは私では気づけないことに気がつく。先輩と直接接したのは、私なのに。
どうして分かるのだろう、と彼をじっと見つめていると、煙たそうな視線を返される。
「何にしても、ニノマエくんも一緒にダブルデート行くんでしょ? そこでフォローして貰えばいいんじゃない?」
「は?」
「そうだね。進藤くんも、お願いね」
「え? 僕も?」
「うん。他にいないでしょ?」
男子二人が唖然としているが、君たちでなければ誰と行くというのか。
「四人でダブルデートかあ。どのペアとどのペアかな」
「いや、一択だろ」
「一透ちゃんと先輩さん、ニノマエくんと進藤くんペアだね」
結季ちゃんがわざととぼけて言うと、うはははは、と豪快に真咲ちゃんが笑う。勘弁してよ、と言う進藤くんは珍しく心から嫌そうだ。九十九くんも同じ顔をしている。
「九十九くんは、誰とペアがいい?」
「お前以外に選びようがあるか」
進藤くんは嫌でも、先輩とならいいと思うけれど、九十九くんも進藤くんの気持ちを知っているのだろうか。
そうだとしても。消去法でも。選んでもらえると、やっぱり嬉しい。自然と頬が緩んでしまう。
「おい、イチャつくならよそでやれ」
「二人も行く? トリプルデート」
「増やすな。部活あんだよ」
「一透ちゃん、デートってそういうのじゃないからね?」
二人は来れないらしい。元々クリスマスはギリギリ冬休みに入っていないし、部活があるとは聞いていたけれど、皆で行けたら楽しそうなのに。
「ほら、いい加減続きやるぞ。おい家主、茶、おかわり」
「場所提供させておいて、まだこき使うのかい?」
「客だろ。もてなせ」
やれやれ仕方ないなあ、と立ち上がる進藤くんを追うように、九十九くんも立ち上がる。手伝って、ついでに全員分淹れて来てくれるようだ。
「進藤くんが場所貸してくれてよかったね」
「わたし達のお家だと、ちょっとね。女子会ならいいんだけど」
男子を招くのは、ちょっと気が進まない。そう私達がわがままを言うので、場所は進藤くんのお家のリビングになっていた。九十九くんのお家は、人を大勢呼べるほど広くはないらしい。
男子二人が持ってきてくれたお茶を飲みながら勉強を再開する。
国、理は九十九くんが。英、社は私と結季ちゃんが。誰も特別得意にしている人がいない数学は、その時々で解けそうな人が対応する。
とはいえ、私と九十九くんはお互いの分からないところはお互いが教え合える。なので、私と九十九くんが並んで座り、結季ちゃんと真咲ちゃんが並んで座り、結季ちゃんと九十九くん側のお誕生日席が進藤くんという席順になった。
真咲ちゃんにほぼかかりきりになりつつ、九十九くんで対応できない英語なんかは進藤くんのフォローに入らなければならなくて、地味に結季ちゃんが一番大変そうだ。
なるべく負担を減らせるよう、私も私で教えられる範囲のことは真咲ちゃんに教えてあげて、自分の復習にもする。
人に何かを教えることで、改めて見えてくるものは結構あった。先輩も、そうだったのかな。私に写真のことを教える中で、先輩にも新しい気付きがあったりしたのだろうか。
隣の九十九くんを見る。彼も、たくさんのことを私に教えてくれる。もしかしたら、君も。
「手、止まってるぞ」
見つめていたら、窘められてしまった。サボっていたわけではないのに。
「なあ、その話今じゃなきゃ駄目か?」
そんなことを言われても、私は聞かれたから話しただけなのだけれど。
私から話を聞き出そうとした張本人の方を見ると、なんとも言えない表情をしている。なんとか言って欲しい。
今日は、皆で進藤くんのお家に集まって勉強会をしている。
例の如く、先輩のことで頭が一杯になって、また集中を切らした私を心配した真咲ちゃんと結季ちゃんが、テスト前で部活が休みになってこれ幸いと勉強会に誘ってくれたのだ。
少し休憩にしよう、とペンを置いたところで、進藤くんからこの間の冬紗先輩とのお出かけのことを聞かれたので、私はあったことを話したのだけれど、真咲ちゃんはやや不機嫌そう。
「もう、真咲ちゃんも聞きたかったんじゃないの?」
「そりゃそうだけど、こんな面倒なことになってると思わなかったんだよ。勉強の合間なんかに聞くもんじゃねえって」
「ははは。ごめんね、うちの先輩が」
結季ちゃん、真咲ちゃん、進藤くんが和気あいあいと話す様子を、私の隣で九十九くんがぼんやり眺めている。
「そういうまだるっこしいの苦手なんだよ。おい類友。お前ならなんかわかんじゃねえの」
急に真咲ちゃんに話を振られて、九十九くんがピクリと反応する。直接の接点がないはずなのに類友扱いされているが、似通っている部分があるのは否定できない。
九十九くんは真咲ちゃんが巻き込んで、それに進藤くんがついてきてこの五人になったのだが、もしかして、こうなることを見越して九十九くんも呼んだのだろうか。
「知らん」
だけど、その期待には添えないらしい。まあ、私の〝感覚〟のことは九十九くんにしか伝えていないので、先輩の心についてはうまく話せていない。
わからないのは無理もない話なのだが、彼の言い方が冷たかったのもあって、女性陣の視線は冷たい。九十九くんは仕方なく、という様子で話を続けてくれる。
「……そこで、話してもらえるってことじゃないのか」
そこ、というのはダブルデートのことだろう。
「そこで分かるかもね、とは言っていたけれど、話してくれるかは、どうだろう」
「なんか、煙に巻かれてない?」
私が不安そうにすると、結季ちゃんも心配してくれる。私もちょっと、そんな気がしている。そういう人だからね、と進藤くんも同意している。だけど、なんだかそうじゃないような気もする。
「……俺には、その先輩自身も、まだ探しているように聞こえるが」
「あん? 何をだよ」
「さあ。一透から聞いた話だけではなんとも。素直に考えるなら、諦める理由、じゃないか」
諦める理由。ファインダーを覗いて生きてはいけない理由。それを、先輩も探している。そう言われるとそんな気がした。
「やっぱり本当は、やめたくないのかな」
「どっちでもあるんだろ。だから探してるんじゃないのか」
やっぱり、九十九くんは私では気づけないことに気がつく。先輩と直接接したのは、私なのに。
どうして分かるのだろう、と彼をじっと見つめていると、煙たそうな視線を返される。
「何にしても、ニノマエくんも一緒にダブルデート行くんでしょ? そこでフォローして貰えばいいんじゃない?」
「は?」
「そうだね。進藤くんも、お願いね」
「え? 僕も?」
「うん。他にいないでしょ?」
男子二人が唖然としているが、君たちでなければ誰と行くというのか。
「四人でダブルデートかあ。どのペアとどのペアかな」
「いや、一択だろ」
「一透ちゃんと先輩さん、ニノマエくんと進藤くんペアだね」
結季ちゃんがわざととぼけて言うと、うはははは、と豪快に真咲ちゃんが笑う。勘弁してよ、と言う進藤くんは珍しく心から嫌そうだ。九十九くんも同じ顔をしている。
「九十九くんは、誰とペアがいい?」
「お前以外に選びようがあるか」
進藤くんは嫌でも、先輩とならいいと思うけれど、九十九くんも進藤くんの気持ちを知っているのだろうか。
そうだとしても。消去法でも。選んでもらえると、やっぱり嬉しい。自然と頬が緩んでしまう。
「おい、イチャつくならよそでやれ」
「二人も行く? トリプルデート」
「増やすな。部活あんだよ」
「一透ちゃん、デートってそういうのじゃないからね?」
二人は来れないらしい。元々クリスマスはギリギリ冬休みに入っていないし、部活があるとは聞いていたけれど、皆で行けたら楽しそうなのに。
「ほら、いい加減続きやるぞ。おい家主、茶、おかわり」
「場所提供させておいて、まだこき使うのかい?」
「客だろ。もてなせ」
やれやれ仕方ないなあ、と立ち上がる進藤くんを追うように、九十九くんも立ち上がる。手伝って、ついでに全員分淹れて来てくれるようだ。
「進藤くんが場所貸してくれてよかったね」
「わたし達のお家だと、ちょっとね。女子会ならいいんだけど」
男子を招くのは、ちょっと気が進まない。そう私達がわがままを言うので、場所は進藤くんのお家のリビングになっていた。九十九くんのお家は、人を大勢呼べるほど広くはないらしい。
男子二人が持ってきてくれたお茶を飲みながら勉強を再開する。
国、理は九十九くんが。英、社は私と結季ちゃんが。誰も特別得意にしている人がいない数学は、その時々で解けそうな人が対応する。
とはいえ、私と九十九くんはお互いの分からないところはお互いが教え合える。なので、私と九十九くんが並んで座り、結季ちゃんと真咲ちゃんが並んで座り、結季ちゃんと九十九くん側のお誕生日席が進藤くんという席順になった。
真咲ちゃんにほぼかかりきりになりつつ、九十九くんで対応できない英語なんかは進藤くんのフォローに入らなければならなくて、地味に結季ちゃんが一番大変そうだ。
なるべく負担を減らせるよう、私も私で教えられる範囲のことは真咲ちゃんに教えてあげて、自分の復習にもする。
人に何かを教えることで、改めて見えてくるものは結構あった。先輩も、そうだったのかな。私に写真のことを教える中で、先輩にも新しい気付きがあったりしたのだろうか。
隣の九十九くんを見る。彼も、たくさんのことを私に教えてくれる。もしかしたら、君も。
「手、止まってるぞ」
見つめていたら、窘められてしまった。サボっていたわけではないのに。
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