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君の欠片を

第21話 今までの人生で一番の

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 次の団体競技に出場するため出場者用の待機スペースに向かった私達は、そこで九十九くんと合流した。

 思い思いに声を掛けたけど、四人一度に来られて対応が大変そうだった。

 特に、最後のハードルの攻略について詰め寄る進藤くんの相手が面倒だったようで、

「最小コンボだ」

 とよくわからない事を言っていた。ゲームか何かの例えだろうか。

「さて、次はどうする?」

 進藤くんの言う次とは、これから行われる一年生の団体競技、玉入れについてだろう。

「どうもこうも、玉入れなんてとにかく投げるしかねえだろ」

「進藤くん、何か案があるの?」

「ふむ。ハジメ、どう?」

 丸投げするつもりのようだ。大野さんも小川さんも呆れた顔をする。私は始めから期待していない。九十九くんに聞く気満々だったことは分かりきっていたから。

「なくはない。が、やめとけ」

「ハジメ、何か悪いこと思いついたね?」

「ああ。だからやめとけ」

「九十九くん」

 彼に目で訴える。悪いことが何かは分からないが、聞いてみないとこちらも判断ができない。

 彼は、勝とうと約束してくれた。私の思い上がりでなければ、障害物競走もあんなに本気で頑張ってくれたのは、そのためではないのか。

 出来ることがあるなら私も頑張りたい。そう目に籠めた。

 彼は困ったような顔をしたが、今回は折れてくれなかった。

「今から言っても上手く回らない可能性も高い。普通にやったら勝てないという訳でもない。悪いことは言わないから、やめとけ」

「どのみちもう時間ねえよ。整列するぞ」

 上手くいくのか、行かないのか。それを一緒に考えて判断したかったのに、大野さんに止められて、話せなかった。

 せめて競技中は彼から目を離さないようにしよう。力になれそうなことがあれば、勝手に協力する。

 文句は後で言えばいいのだ。


---


 生徒たちはグラウンド端に一列に整列すると、開始の合図と同時に、一斉にカゴの周囲に散らばった玉めがけて走り出した。

 私も真っ先に先頭に躍り出て、一度カゴより奥に出てから、走ってくる他の生徒たちの方を向いて玉を集める。九十九くんはゆっくり走ってくるだろう。こうすれば彼の動向を気にしつつ競技に参加できる。

 いくつかの玉を拾いながら九十九くんを見る。カゴに向かって玉を投げ、手持ちがなくなったら散らばる玉と九十九くんを補足する。

 それを何度か繰り返しつつ作戦とやらを探るつもりだったけど、一周したところで何となくわかった。

 彼はなるべく遠くの玉から順に集め続けている。既に腕いっぱい貯まっているが、まだ集め続けているようだ。集まったところでまとめて投げるつもりだろうか。それとも別のやり方をするのか。

 いずれにしても、先に集めておくのは効率的だろう。私は投げるのを中断し、九十九くんと反対側のスペースの玉を集めようと動く。

 辺りを見渡すと、人の動きが激しいところに近寄れず、遠くからではカゴに届かなくて困っている小川さんを見つけたので、集めるのを手伝ってもらうことにした。

 腕の中にまとまった数が貯まった頃、九十九くんが投げ始めていることに気がついた。

 彼は立ち止まったまま、腕どころかシャツに貯めたものを片手で三、四個ずつ掴み、投げる。掴み、投げる。たまに対岸から飛んできたものを空中でキャッチし、そのまま投げる。

 狙いはよく、外れても人の密集した範囲の外までは飛んでいかないように工夫して投げているようだ。これなら効率よく、狭い範囲内で循環させられる。

 私も真似してみた。しかし私は投げるのはあまり得意ではなく、時々思いもよらない方向に飛んでいってしまう。

 どうしよう、と思っていると、今度は小川さんが集めた玉を大野さんに預けているのが見えた。

 そうだ。わざわざ自分で全て投げる必要はないのだ。

「これ、おねがい」

「えっ?」

 偶然隣にいた野球部の男子に持ち玉を全て預けて、また回収に回る。

 しかしほとんどの玉はもうカゴの近くに集まっており、すぐに拾える玉がなくなってしまった。

 カゴの近くは人が多く、無理に取りに行くと怪我をしそうだ。実際に、拾おうとした生徒と投げようとした生徒がぶつかりそうになっている場面がちらほら見える。

 これを解決するには。

「ちょっと、ごめん」

「え?」

 私は比較的密度の薄い箇所の人にずれてもらい、スペースを作ると、そこに集めた玉を落とした。

 その周辺にある玉も拾えるものから順にそこに放り込み、簡易的な補給所を作る。

 するとそこから拾って投げようと人が集まってくる。向かっていく人が元いた場所に無造作に散らかっていた玉も、補給所に放り込んでいく。やりたいことを察してくれた周囲のクラスメイト達もそれに協力してくれた。

 これをもう一つか二つか作れば完璧にサイクルが回るだろう。

 そう思って、次の補給所候補地を見繕おうと全体を見渡すと、九十九くんがやめとけと言った理由がわかった。

 一定の場所から、ただ拾って投げるを繰り返す人。外れた玉を、ただ補給所に放り込み続ける人。

 その光景はどちらかといえば、競技というより機械的な作業のようだった。

 終了の合図が鳴った。私達のクラスは他より十個以上差をつけて一位になったけど、私は喜んでいいのか分からなかった。


---

 
「楽しかったね!」

 借り人競争の出場待機スペースで、小川さんはそう言った。

 いつも控えめな彼女の声がこんなに弾んでいるのは珍しい。

「楽しかった?」

 思わず聞き返してしまった。小川さんの眩しい喜色の心に影が差す。

「……楽しくなかった?」

「ううん。ごめん。楽しかったんだけど、普通の玉入れとは、なんか違う感じになっちゃったから」

「うん。でもそのお陰で、わたしは楽しかったよ」

 それが心からの言葉であることは、私には、見ればわかる。

「自分じゃ一個も入れられなかったけど、それ以上に、鈍臭いわたしでも皆に貢献できたから。今までの人生で一番の玉入れになったよ」

 私は、また間違えてしまったと思っていた。実際に皆が皆こう思ってくれているわけではないと思うけど。

 それでも小川さんが笑顔でそう言ってくれただけで、また間違えてしまったかも知れないと思う私の心は、随分軽くなった。
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