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それがどういうことか分かって言ってるの?

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 結婚……は、少し意識しはじめたばかりだ。
 子ども……は、さすがに、そこまで想像力は逞しくない。
 だけど、目の前で繰り広げられているこの光景は、もしかしたら、自分の未来予想図ではないか。

 そう思うと、なんだか頭痛がしてきた。

「ちょ……ちょっと待って。そこの二人」
「なあに?」『なあに?』

 声を揃えてこちらを見た楽しそうな二人に、一瞬ひるみそうになる。

「盛り上がってるところ悪いんだけど、子どもに生まれ変わるとか、勝手に決められても……」
『やだ。生まれ変わるの! リュカがだめだって言っても、ぜーったい、戻ってくるんだもん!』

 ミリアンが口を尖らせる。

「え? だめなの? リュカ」

 アレットが悲しそうな顔をする。

 本格的に頭痛を感じたリュカが顔をしかめた。
 ミリアンが子どもに生まれ変わるというこの計画には、大きな前提がすっぽり抜け落ちているのだ。

「アレット、君、それがどういうことか分かって言ってるの?」
「?」

 きょとんとしているアレットに、言葉に詰まりながら説明を試みる。

「ミリアンは、俺と……き、君の子どもに、生まれ変わるって……言ってるんだよ?」
「うん。……だめ?」

 こんなに可愛い上目遣いの問いかけは、ずるい。
 顔が火照ってきて、どうにもならなくなってくる。

「いや、だめとかじゃなくて、それって、俺と……その……」

 台詞の続きは当然「結婚」だ。
 けれども、話の流れとはいえ、そんな言葉をいきなり口にする勇気がない。

 いい答えを期待して瞳を輝かせている二人に、間近からじっと顔を見つめられ、たじたじになってしまう。
 両手はアレットの手に添えていて使えないし、この体勢から動けない。
 さっきから女の子二人に、情けない顔をさらしっぱなしだ。

「あーーーっ、もう!」

 羞恥に耐えきれず、うつむいて激しく頭を振る。
 ゆっくりと息を吐いて少しだけ落ち着いてから、まだ赤い顔を上げてミリアンを見た。

「分かった。戻ってこい! ただし、そんな痩せっぽちの青白い顔じゃなくて、ふっくらした薔薇色の頬で、元気に生まれてこい!」

 半分やけくそで言った言葉に、ミリアンが落ち窪んだ目を大きく見開いた。

「ミリアン?」
『…………うんっ! ありがとう、リュカ』

 満面の笑みを浮かべた少女が、アレットの腕を離れて、力一杯にリュカに飛びついてきた。

「うわっ! …………あ」

 慌ててアレットの手を離し、彼女を抱きとめた瞬間、確信した。

 いつか、こんな風に自分の子どもを抱きしめる日が来る。
 しかも、その子はミリアンの生まれ変わりだ……と。

 自分と彼女と、二人の周りを元気に駆け回る子ども。
 そんな幸せな日常の一こまが、色鮮やかに脳裏に浮かぶ。

「それも、悪くはないかもしれないな……」

 ふっと笑って呟くと、嬉しそうに自分にしがみついているミリアンの髪を、くしゃくしゃと撫でた。

『ねぇねぇ、元気に生まれてきたら、自分だけでブランコに乗れるよね。かけっこだってできるよね。ああ、なんて素敵なんだろう』

 腕の中の少女は、元気な自分の姿を思い描き、言葉が止まらなくなってしまった。

 リュカは笑いながら「はいはい」と彼女の頭を軽く叩く。
 すると、少女の髪の感触がふわりと変化した。
 不思議に思って目をやると、ブロンドの髪が毛先から順に眩い光をまとっていく。

「え? ミリアン、お前……もしかして?」
『あ……れ……? ホントだ、光ってる』

 リュカが眩しさに眼を細めると、ミリアンが驚いた顔で自分の両手を確認した。
 それから、自分の身体をきょろきょろと見る。
 その頃にはもう、金色の輝きは彼女の全身をすっぽりと包み込んでいた。

「なんだ。お前、自分でちゃんと行けるじゃないか。……だけど、どうして?」
『分からない……。でも、リュカに元気に生まれてこいって言われて、すっごく、すっごく嬉しかったの』
「そうか……元気に生まれて来れなかったのが、心残りだったのか。こんなに、難しい望みじゃ、いつまでもさまよう訳だ。さあ、アレットのところへ行きな。彼女、寂しそうな顔してる」

 リュカは、最後にぎゅっとミリアンを抱きしめると、彼女の身体をくるりと回して、アレットの腕に押し戻した。
 そしてまた、アレットの手に自分の手を添える。

『アレット。アタシ、きっと戻ってくるからね。待ってて!』

 ミリアンがアレットの腕の中から、嬉しそうに彼女を見上げた。
 信頼と愛情に溢れた……いつの日か現実となるはずの親子の光景に、リュカも思わず頬が緩む。

「また会えるなんて、嬉しい……。約束よ、ミリアン。きっと戻ってきてね」
『うん、約束する!』

 さよならは誰も言わなかった。
 約束の言葉と笑顔を残して、ミリアンは金色の輝きの中に消えていった。

 アレットも微笑んで見送っていたが、それでも、腕の中の温もりがふっと消えてしまった時、唇を震わせて眼を伏せた。
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