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もう、終わりにしたほうがいい

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「アレット、もう、終わりにしたほうがいい。ミリアンと伯爵を無事に見送ったら、他の亡霊が取り憑けないようにしてあげるから。もう、これ以上、悲しい別れを繰り返してはいけない。君の心が壊れてしまうよ」
「そしたら、わたしは……一人ぼっちになるの?」

 ぽつりと言った、か細い声が震えている。
 アレットの腕の間に座っていたロイクが、首を伸ばして、彼女の顎に頭をすり寄せた。

「一人じゃないよ。ロイクがついていてくれるはずだ。心配しなくても、君にはこれから、生きた人間の友達が大勢できる。いつか恋をして結婚して、本当の家族もできる。ロイクはそれまで、ずっと一緒にいてくれる」
『そうだよ、アレット。昔は二人でいただろう? また、二人から始めよう』

 ロイクがなぐさめるように、アレットの頬を舐めた。

 しかし彼女はその優しい舌を感じ取れない。
 黒猫の声だけに反応し、視えない姿を探して視線をさまよわせる。

「……うん。そうね、ロイク」

 しんみりした空気が流れ、誰もが黙り込んだ。
 この場をどうしたものかと思いあぐねたリュカは、とりあえず、すっかり冷めてしまったお茶を飲み干した。

『でもさぁ、アタシ、どうやったら自分が消えるのか、分からないんだよ?』

 その場の空気を読まないミリアンが、突然、のんきに話し始めた。

『生きていたときにできなかったことを、思う存分やって、それから天国に行けばいいって思ってたの。でも、だめなの。アレットと一緒にたくさん遊んだわ。ブランコなんて、ずっと乗ってみたかったのよ。それからね、みんなでかけっこしたり、草の上で滑ったり……そうだ、湖で泳いだこともあるわ。お魚がいっぱいいてね、それから……』

 どれだけ遊んだのか、ミリアンの思い出話は尽きることがない。
 アレットの腕の間でため息をついたロイクが、延々と続くミリアンの言葉を遮った。

『ミリアンは一番最初に、アレットに取り憑いた亡霊なんだ。もう、一年近く前になる。さっき言ってたメロディも病気で亡くなった子どもだったけど、彼女は満足してすぐに消えていったのに、ミリアンはどうしてもだめなんだ』
『アタシ、欲張りなのかなぁ。もっと遊べばいいのかな? 何すればいいのかなぁ。そうだ、今度はリュカも一緒に遊ぼうよ!』

 昨日のうさぎの人形に話しかけるようにしていたミリアンが、瞳を輝かせてリュカを見上げた。

「うーん。それは、考えとく。……多分、ミリアンがこの世に残っているのは、別の理由があるんだろうな。何か、思い当たることはないかい? すごく欲しいものがあったとか、行きたい場所があったとか」
『うーん……欲しいもの? あったような気もするけど……分かんない』
「理由が分からないのは、やっかいだな。いろいろ試してみないと、いけないな」

 リュカはため息をつくと、アレットの背後にたたずんでいる伯爵に、視線を移した。

「伯爵は……ごめん、また泣いちゃうかもしれないけど……どうして、この世に残ってるんだ?」

 案の定、伯爵は眼球が落ちるかと思うほどに眼を見開き、強烈な悲しみと絶望感を立ちのぼらせながら、大粒の涙をぼろぼろとこぼし始めた。
 リュカの質問に必死に答えようとするが、言葉も詰まり詰まりになる。

『……お……王女を……アマンディーヌ様……を見つけ……たい』
「王女様? そうか、ラグドゥース王国の王女か」

 昨日見た崩れ落ちた城跡と、涙を流す伯爵の姿を思い出す。

『……私は…………彼女……うぅ……』
「王女様は、いなくなったのかい? 何か約束していたことでも?」

 涙に邪魔をされ、なかなか話が進まないからつい先回りしたのだが、あっさり核心を突いてしまったらしい。

『う……う、う……うあぁぁぁぁー!』

 伯爵は悲痛な叫び声を上げて両手で顔を覆うと、床に崩れ落ちてしまった。
 髪をかきむしりながら、激しく床に額を打ち付けて、大声で泣き喚く。
 彼の全身から発散される絶望感は昨日以上に凄まじく、リュカの肌に鳥肌が立った。

「ち、ちょっと、伯爵! ごめん、先走り過ぎた?」

 慌てて伯爵に駆け寄ると、慟哭する伯爵の頭の上に右手をかざした。

「風は凪ぎ、もはや水は波立たず。内なる闇は光に追われ足元にひれ伏す……」

 言い聞かせるように言葉を紡いでいくと、伯爵は徐々におとなしくなっていく。
 しばらくして、伯爵はゆっくりと身体を起こした。
 涙はまだ止まっていないが、あれほど発散されていた負の感情はずいぶん和らいでいた。

「悪かったよ、伯爵。でも聞かなきゃ、先へ進めないんだ」

 そう言うと、彼は弱々しく右手を上げて、テーブルの上にいるロイクを指差した。

「ロイクに聞けばいいのかい? 彼は、何か知ってる?」

 こくりと頷く彼に従いテーブルに戻ると、指名を受けたロイクが説明を始めた。
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