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黒馬の騎士の疑惑(5)
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「俺が夜中にセナンクール家の近くにいたのは、昼間、屋敷の近くで、怪しい男達を見かけたからだ」
「それは昨晩聞いた。怪しい男を見かけたってのは偶然? 本当は、あいつらは仲間なんじゃないの?」
「違う。俺はセナンクール家を張っていたんだ。正確に言うと、レナエル・クエリー、あんたのことを探っていた」
「やっぱり! じゃあ、あたしとジジの秘密を、最初から知っていたのね?」
「いや、事前には何一つ教えられていなかった。ただ、レナエル・クエリーという娘について調べろと言われただけだ。そして何か気になることがあれば、連れてくるようにと」
「連れてくるように? ふーん、思った通りね。やっぱりあたしを狙ってたんだ。それで、誰なの? 私を連れてこいと言った黒幕は」
「……シルヴェストル・エドゥアール・カルネ・リヴィエ王太子殿下」
思いがけない言葉を聞いた気がした。
長ったらしい名前の最後に付けられた、この国の国名と、王太子殿下という称号——。
レナエルは二三度瞬きしてから、ぽかんと口を開けた。
「……………………は?」
「シルヴェストル殿下だ」
でん……か?
頭の中で、その言葉を反芻する。
なかなか理解が追いつかず、思わず腕から力が抜けた。
「おい。剣先が下がっている!」
とたんに怒鳴られて、はっとする。
剣の柄を握りしめて姿勢を直すと、少し落ち着いて考えられるようになった。
確かこの男は、王太子殿下の筆頭騎士だったはず。
だけど……。
「な……んで、王太子殿下が?」
「知らん。今になれば、あんたたちの能力が目的だったんだろうと思うがな。あいつは秘密主義者だ。いちいち細かい説明はしない。今回のことも、休暇をやるからたまには実家に顔を見せてこい。そのついでに、レナエル・クエリーについて調べてこいと言われただけだ。クライトマン家とセナンクール家の関係を知っていて、俺なら入り込みやすいと思ったんだろうよ」
彼はさらりと、王太子をあいつ呼ばわりした。
おまけに、一切敬語を使わない。
まるで、悪友について話しているようだ。
相手は次の国王となる人物なのに。
「本当に、王太子殿下の命令なの?」
「さっきから、そう言ってる。疑っているのか!」
彼の態度の悪さに、思わず疑いの言葉と視線を向けると、いらついた返事が返ってきた。
「じゃあ、その王太子殿下は、あたしたちの秘密を知っていたの?」
「どうだろうな。おそらく、曖昧な情報しか持ってなかったんじゃないか。だから、俺が調べた上で、気になるようなら連れてこいという命令になったんだろう」
「王太子殿下と昨晩の事件は無関係?」
「当たり前だ! 今の言葉は不敬罪に値する」
物騒な言葉にぎょっとすると、また「剣先を上げろ」と怒鳴られた。
自分は殿下に何の敬意も示していないくせにっ!
むかつくまま、剣をしっかり構え直すと、それをぐいと前に突き出した。
彼はそれでいいとでもいうように、軽く頷くと、続きを話し始める。
「……とにかく、昨晩のような事件は想定外だったんだ。それを見越して、殿下が俺を派遣したとは思えないからな。殿下以外にも、おまえたちの秘密を嗅ぎ付けた奴がいたんだろう。きっと、奴らの方が、その秘密を正確に把握していた。たまたま俺が来ていたから、あんたは助かったというだけのことだ」
「く……」
彼の長い話に、レナエルがうめき声を上げた。
「それは昨晩聞いた。怪しい男を見かけたってのは偶然? 本当は、あいつらは仲間なんじゃないの?」
「違う。俺はセナンクール家を張っていたんだ。正確に言うと、レナエル・クエリー、あんたのことを探っていた」
「やっぱり! じゃあ、あたしとジジの秘密を、最初から知っていたのね?」
「いや、事前には何一つ教えられていなかった。ただ、レナエル・クエリーという娘について調べろと言われただけだ。そして何か気になることがあれば、連れてくるようにと」
「連れてくるように? ふーん、思った通りね。やっぱりあたしを狙ってたんだ。それで、誰なの? 私を連れてこいと言った黒幕は」
「……シルヴェストル・エドゥアール・カルネ・リヴィエ王太子殿下」
思いがけない言葉を聞いた気がした。
長ったらしい名前の最後に付けられた、この国の国名と、王太子殿下という称号——。
レナエルは二三度瞬きしてから、ぽかんと口を開けた。
「……………………は?」
「シルヴェストル殿下だ」
でん……か?
頭の中で、その言葉を反芻する。
なかなか理解が追いつかず、思わず腕から力が抜けた。
「おい。剣先が下がっている!」
とたんに怒鳴られて、はっとする。
剣の柄を握りしめて姿勢を直すと、少し落ち着いて考えられるようになった。
確かこの男は、王太子殿下の筆頭騎士だったはず。
だけど……。
「な……んで、王太子殿下が?」
「知らん。今になれば、あんたたちの能力が目的だったんだろうと思うがな。あいつは秘密主義者だ。いちいち細かい説明はしない。今回のことも、休暇をやるからたまには実家に顔を見せてこい。そのついでに、レナエル・クエリーについて調べてこいと言われただけだ。クライトマン家とセナンクール家の関係を知っていて、俺なら入り込みやすいと思ったんだろうよ」
彼はさらりと、王太子をあいつ呼ばわりした。
おまけに、一切敬語を使わない。
まるで、悪友について話しているようだ。
相手は次の国王となる人物なのに。
「本当に、王太子殿下の命令なの?」
「さっきから、そう言ってる。疑っているのか!」
彼の態度の悪さに、思わず疑いの言葉と視線を向けると、いらついた返事が返ってきた。
「じゃあ、その王太子殿下は、あたしたちの秘密を知っていたの?」
「どうだろうな。おそらく、曖昧な情報しか持ってなかったんじゃないか。だから、俺が調べた上で、気になるようなら連れてこいという命令になったんだろう」
「王太子殿下と昨晩の事件は無関係?」
「当たり前だ! 今の言葉は不敬罪に値する」
物騒な言葉にぎょっとすると、また「剣先を上げろ」と怒鳴られた。
自分は殿下に何の敬意も示していないくせにっ!
むかつくまま、剣をしっかり構え直すと、それをぐいと前に突き出した。
彼はそれでいいとでもいうように、軽く頷くと、続きを話し始める。
「……とにかく、昨晩のような事件は想定外だったんだ。それを見越して、殿下が俺を派遣したとは思えないからな。殿下以外にも、おまえたちの秘密を嗅ぎ付けた奴がいたんだろう。きっと、奴らの方が、その秘密を正確に把握していた。たまたま俺が来ていたから、あんたは助かったというだけのことだ」
「く……」
彼の長い話に、レナエルがうめき声を上げた。
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