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ファーストステージ

燻り

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 それから二週間ほど初編集を手がけた神崎春のデビュー作の事で羽津宮は忙しく、神崎にその事を聞けないまま時間が過ぎて行った。

 その日も沢山の仕事を抱えていた羽津宮は出社時間より一時間ほど早く出社し、色々と確認を行いながらコーヒーを飲んでいた。

 同僚達が次々と出社して来て静かだったフロアが少しづつ活気づいてまさに編集社の顔になって行く。

 そんな時間を過ごすのが羽津宮は好きだった。そしてその編集社の顔は椎名編集長が出社して来ると同時にまるで顔をパシッと叩いたかのように一気に仕事モードへと切り替わるのだ。

 そんな朝、少し早く出社した椎名編集長が羽津宮を見つけるなり笑顔で話しかけて来た。

「おはよう、早いね。ちょうどいい、来てくれ」

 羽津宮の肩をぽんと叩き自分の席に向かった。鞄をどさっと机の上に置きチャックになっているふたを開け、少し焦ったように何か探している。

「あったあった、見ろ羽津宮。お前が発掘した神崎のデビュー作の売り上げデータが出たぞ。初版の1万部がほぼ初日に完売だそうだ、更に予約もかなり入っている。既に5万部の増刷が決まったよ」

「本当ですか」

「あぁ、デビュー作って事でそれなりに宣伝はしたらしいがこれほどの効果が出る程ではないらしい。デビュー作でこの反響は予想外だよ。上層部でも注目されてる。彼に何か注目されるような肩書きでもあるのか」

「いえ・・肩書きはないと思います。学生ですし。ただ出版初日に会社に来た時『宣伝は自分なりにやってみます』と言ってました。彼はネットで何かやったのかもしれません。彼自身ネットを活用して生計を立てているほどですし」

「なるほど、良い新人をつかまえたな、次の作品が勝負だぞ。しっかり作家の管理を頼む」

「はい」

「よし。あっそうそう朝一に軽くミーティングをしたいんだ、みんな出社したら声をかけてくれ」

「あ、はい、わかりました。失礼します」
 椎名編集長の前を離れ緊張が解かれたとたん、喜びが全身にこみ上げる。「よっしゃ」思わず声を上げてガッツポーズをとっていた。しまったと思い振り返ると椎名編集長が優しい顔で「かまわん」と言っているようにうなずいていた。

 この神崎のデビュー作のヒットした事、それは羽津宮にとっては勿論、おそらくモモさんにとっても嬉しい誤算だろう。

 唯一確信していた人間が居るとすればそれは神崎春本人だけだと羽津宮は感じていた。

 自分のデスクに戻り先ほどチェックしていた書類を手にするが気持ちはそこに戻らなかった。今すぐにでもモモさんの元へ報告に行きたかった、その気持ちを抑えるもどかしさと喜びが入り交じり武者震いするほど興奮している。そんな自分をおちつかせようと飲みかけていたコーヒーを飲み干した。

 ほどなく椎名チーム全員が出社し羽津宮が椎名に声をかけた。

「おはよう。軽くミーティングしたいんだ、時間はかからない、急ぎのものはいないかな」

 椎名編集長はそう言って全員の顔を見渡し確認した後話を続けた。

「大丈夫かね。では、はじめよう。今色々とネットの利用のしかたで社内でも意見が分かれていて模索している状態なんだが・・まぁチーフ達には以前企画を提出するように言ってるので知ってるな。それ以外の者もそれなりに耳に入っていると思う。それで一週間後にそれについて大きな会議が在るんだ。そこで我がチームでも提案するんだが、安易な意見は出せない、しっかりとしたリーサーチを行って提案したいと思う。そこで一週間、一人私の助手をしてもらいたいんだが誰かやってくれる者はいないかな。簡単な仕事なんだが」

 編集長はもう一度、全員の顔を見渡した。

【やりたいと思う仕事はまっ先に「やります」と手をあげろ】
 
 羽津宮は皆がこの仕事は自分にとってプラスか考えるその一瞬の隙に手を挙げた。

「はい。自分がやります。やらせてください」

 椎名編集長は少し意外そうな顔をしたが、羽津宮は表情を変えなかった。

 皆は一瞬やられたと言う表情をちらつかせた。

「羽津宮、お前は神崎君のデビュー作が当ってそれに集中したい時期だと思ったが、それにこの仕事は雑用みたいなもんだ、私も誰かに頼むのに気が引けてこうして尋ねてるんだ、いいのか」

 それを聞いた同僚も勢いで手をあげなくて良かったと言う表情に変わる。

 ただでさえ口うるさい上司との仕事はさけたいものだ、その上チャンスでもない雑用など誰もやりたい人間はいないだろう。

 聞かれては断れない所、羽津宮が自分から手をあげてくれて助かったと言うのが本音だろう。

「はい大丈夫です。やらせてください」

「よしわかった、羽津宮に頼む事にしよう。皆も良いアイデアがあったらドンドン提出してくれ。では時間とらせて悪かったね。仕事に戻ってくれ。羽津宮はもう少し残ってくれ」

「はい」

そう言うと皆それぞれの仕事に戻った。

「羽津宮本当に良かったのか」

「はい、頼まれていたリサーチも途中でしたし、それに少し考えも在って」

「そうか、どんな考えだ」

「いえ、まだ答えは出ていないのですが」

「そうか、君が引き受けてくれて話が早いよ、頼みたい事と言うのはそのデータ集めなんだよ、引き続きリサーチを頼む。それと少し現状を話しておくとするか。奥のミーティングルームで話そうか。来てくれ」

 そう言うと椎名編集長は奥のミーティングルームへ足早に移動した。

 扉を閉めて羽津宮を座らせるとおもむろに話し始めた。

「少し話しておかなければならない事が在るんだ。これは単なるインターネットをどう活用するかと言う事だけではなくちょっとした派閥問題も絡んでるのでね」

 椎名編集長はいつもより少し声の大きさを落としている。

「実は山根編集長が自分の企画を直接上層部に持ちかけていて部長の座を狙っているようなんだ。あの方の性格だ、何が何でも企画を通し部長に着くつもりだろう。これは私の私情で君にまで押し付けるつもりはないんだが私はあの方のやり方があまり好きではなくてね」

「・・どういったことでですか」

「愚痴のようで私も言いたくはないんだが、あの方は自分の都合のいい人間だけを可愛がる。可愛がられる者も、可愛がられない者も私から見れば不幸だよ。彼は編集部部長に立つべきでないと考えている」

「椎名編集長は花谷編集部部長派なんですね」

「いやそう言う訳ではないんだ。私は公私混同は好きではない。ただ花谷部長を尊敬している。編集部部長にはあの方のような方が立つべきだ」

「あの、編集長が部長を尊敬する理由、聞かせて頂いて宜しいですか・・」

 椎名編集長は前かがみだった姿勢を後ろに倒しソファーに深く体を沈めた。

「ああ、話はまだ私と部長が平の時に戻るんだが、勿論花谷部長の方が先輩なんだがね。その頃の私は自分が仕事のできる人間だと思い込んで生意気だったよ。花谷先輩を先輩とも思わず失礼な態度を取っはていた、仕事では自分の方が上だってね」

 羽津宮は一瞬自分自身の事を言われているような気がして鳥肌が立った。何か相づちを打たなければと頭では思ったが返す言葉が何も浮かばない。さっきまで外の活気が流れ込んでいたミーティングルームが一瞬で静まり返ったように感じる。例えるなら懐かしい映画を上映する映画館のホールの電気が落ちた瞬間のような感じだろうか、羽津宮の中で若い頃の二人が映し出される。

「私も自分の自信を支えるために必死で働いた、それでも花谷部長には勝てなかったよ。そして花谷部長が編集長になった時、私は終わったと思った。花谷部長が私の上司になったんだ、これまでとってきた失礼な態度を思い返せば自分が出世して行く道はないと確信していたよ。だが違った。花谷部長は私をチーフに任命した。そしてこう言ってくれた『私のライバルは君だった。私が仕事を任せられるのは君しかいない』その公私混同をせず仕事で評価する花谷部長への尊敬はそこからだ」

 羽津宮はその花谷部長の考えの先に青梅部長を感じていた。

「そんなことがあったんですね」

「まぁその気持ちで花谷部長応援するのも公私混同かもしれんがね」

「いえ、素敵だと思います」

「そうか、まぁ昔話はこれくらいにしてだね」

 椎名編集長の声が明るくなったとたん、静かに感じていたミーティングルームに外の活気が再び流れ込んでくる。

「そう言った背景もあるので企画の事はあまり周りに話さないで行って欲しいんだ。それと山根編集長はおそらく携帯小説や、ネットでの小説配信などを考えているようなんだ。それとは反対に花谷部長はネットはあくまで宣伝の場として考えてる、私もその意見に賛成なんだが、効果として形に出さない事には説得力がないからね」

「なるほど、ネットを主体に考える山根編集長と、ネットはあくまで宣伝の場と考える花谷部長って事ですね」

「そういうことだ」

「少しヒントになりそうな良い考えが在ります、早速取りかかって宜しいですか」

「ああかまわんが、他の仕事もある、おろそかにするなよ」

「はい、では行って来ます」

 羽津宮はミーティングルームを飛び出すとデスクに戻り鞄を手にし会社を出た。初編集作品のヒットの喜びと、予定通りネットに関わる仕事を椎名編集長と共に出来る事で居ても立っても居られなかった。急ぎ足で歩きながら羽津宮は神崎に電話をかけていた。その足は神崎の家に向かうため近くの駅に向かっている。

 数回呼び出し音がなって神崎が電話に出た。

「はい」

「あっ神崎君。これから少し会えないかな。話が在るんだ」

「はっはい、大丈夫ですよ。家に居ますから。どうしたんですか」

「うん、すこし相談が在ってね。あっそれとデビュー作のデータが出たからその報告もしたいし」

「あっはい。わかりました。まってます」

「二十五分ほどで行けると思うんだ、よろしく」

 電話を切ると同時に駅に着いた羽津宮は新宿方面行きのホームに駆け上がり、丁度来ていた電車に飛び乗った。

 新宿に着くと急ぎ足で改札を抜け、駅から人ごみの中をかき分けるように走り続けた。雑踏を抜け神崎のマンションに着く。そして少し息を整え部屋番を押した。

 オートロックのエントランスがもどかしく感じる。

「羽津宮です」

「はい」

 羽津宮の興奮をよそにあい変わらず低いテンションで神崎が扉を開けた。

 エレベータを下りると神崎が玄関の前で待っていた。

「どっどうしたんですか急に、どうぞ入ってください」

 羽津宮は少しでも早く話したくソファーに腰掛けるより早く話し始めた。

「おめでとう、初日で1万部が出たよ。既に五万部の増刷も決まってる」

「はっはい、そっそれくらいは出てもらわないとです」

「何か確信しているようだけど・・・」

「こう見えてネットで稼いでるんですよ、自分の作品の宣伝に抜かりはないですよ」

 神崎の話し方が自信満々に変わって行く。それを確認すると羽津宮は本題に入って行く。

「あの、聞きたい事があるんだ質問して良いかな」

「はいどうぞ」

「そこまで出来る君がなぜ出版にこだわったのかな」

「意外な質問ですね、てっきりどんな宣伝をしたのかとか、そう言った質問だと思っていました・・」

「うん、それも聞きたい事なんだけど、一番知りたいのはこれなんだ」

「そうですか・・・それは・・出版しなければただのデータだからです」

「どういうこと、ネットや携帯小説とか君なら自分で配信も出来ただろうし、お金を稼ぐ事だって出来ただろ。それに宣伝まで自分で出来るんだ。なぜ出版しなければいけなかったのか、その答えが一番僕にはわからないんだよ」

「だから何度も言っているようにネットでの配信はただのデータのやり取りであって作品ではないんです。作品とは・・やはり手に取れる物でしょう。それはネットがいくら普及しバーチャルな世界が構築されても変わらない事だと思います」

「ごっごめん、よくわからないよ」

「残したいんですよ、形を」

「それならデータでも残るんじゃないの」

「いいえ、残りません。パソコンは常に進化します。それはハードウェアもソフトも。今扱っているデータが五年後も同じように扱えるはずが在りません」

「でもハードディスクやシーディーアールなんかに保存すれば永久に残るんじゃないの」

「そうですね、ハードディスクやシーディーアールは残るかもしれませんがそのデータを文章として立ち上げるソフトが今現在と五年後で互換性があるとは思えません。勿論バージョンアップするごとにデータを移行して行けば問題在りませんがネットで購入した小説をわざわざその度にデーター移行する人間が居るとは思えません。僕でもしないでしょう。つまり気が付いた時にはそのデータは開けないと言う事です」

「なっ、なるほどそう言う事か・・・」

「ですが紙に印刷された物は違います。焼けたり濡れたり、捨てない限り本棚に残ります。本人が忘れていてもそこに残ります。そして忘れた頃もう一度見つけ、懐かしみながらもう一度読む事も在るかもしれません。そう言う物を残したかったんです」

「よくわかったよ。あの・・そういう風にパソコンのデータは残らないって認識って世間一般であるのかな」

「在ると思いますよ、パソコンに詳しければ詳しい人程感じていると思います。写真なんかも今やデジカメ主流で写真もすべてデータ管理ですが大事な写真ほどプリントするじゃないですが、それと同じですよ。ビジネスマンがノートパソコンの他に手帳を持ったり、高校生でも携帯が普及してシャメとか出来るにもかかわらず未だにプリクラが廃らないのも同じような理由じゃないですかね」

「たしかにね、やっぱり未だに大切な物はデータじゃダメなんだね」

「はい、そう思います。僕だけかもしれませんがデータって所有してる実感がないんですよね、ただ在るだけなんですよ。その時だけっていうか。僕なんかでもネットでどんな小説でも読めちゃいますけど・・あっこれ内緒ですよ。売られている書籍や音楽なんかネット上で落とせない物はないですよ、まぁ別の意味で違法に落とす事、それに価値観を見いだしている連中も居ますが、僕は感動した音楽や小説はちゃんと買いますよ。」

「そうなんだ・・・正直言って意外だよ。君みたいにパソコンやネットを使いこなしているタイプの人間は本なんて買わないと思っていたし、本として出版する意味なんて感じていないと思っていたよ。そう言う人間が増えたおかげで本が売れなくなって来てるんだと思ってた」

「それは少し違うんじゃないですかね。僕みたいに情報収集の場をネットメインにしている人間に書籍の情報が伝わっていないんじゃないですかね。現に僕はネット上のコミニティーやブログなんかの皆が情報交換の場にしている所に情報を丁寧に流し込んだだけなんですがそれだけでこれだけの売り上げになる訳ですし」

「確かにデビュー作でこの反響はたいしたもんだよ。やはりネットは宣伝の場って考えは間違いじゃないんだね」

「そうですね、ただこれまでのメディアと異なる点は宣伝は効果がないんです」

「えっ、またわからないよ。宣伝の場って言ったよね」

「言いました、どう言ったら良いのかな。ネットの世界で宣伝は効果がないんです。効果があるのは情報です、口コミ性の高い情報が一番効果があるんですよ。例えば賛否意見の分かれる物に対する情報や、家電などのレビューなんかも・・・宣伝ではなくそう言った流れやすい情報として作品を紹介して行けば必ず効果はありますよ」

「なるほどね・・・良いヒントになったよ」

「そうですか、僕でよければいつでも相談に乗りますよ」

「うんありがとう、でも神崎君は会社も期待してる新人なんだから次の作品頑張ってもらわないと」

「そうですね、頑張ります。でも売る自信も在るので心配しないでください」

「はっはっは、そうだよね。ありがとう。じゃあまた来るよ。期待してるからね」

「はっはい。すっすみません。なっ生意気言って」

 神崎の話し方がまたいつものようにどもり始めた。ネット以外の話になると弱気になるようだ。

「じゃあね」

「はっはい」

 羽津宮は神崎のマンションを出るとすぐさまモモさんの元へ走った。新宿駅まで戻り、いつもの駅まで行き自転車を走らせる。仕事中にモモさんの元へ行くのはこれが初めての事だ。

 公園の中まで自転車で乗り入れ、モモさんのテントの前で自転車を芝生に倒し駆け寄って叫んだ。

「モモさん、モモさん。居る。居るんでしょ早く」

 ごそごそとブルーのテントが揺れる、そこから蝉が羽化するように背中からモモさんがゆっくりとはい出してくる。

「なんだなんだ、何があった。珍しいじゃねぇか、こんな時間によ」

「そうなんだよ、この前話してた事がいきなり目の前にやって来たんだよ」

「なんだいこの前って」

「そうそう、そうじゃなくて、それより先にヒットだよ」

「だぁぁぁ、落ち着け。意味がさっぱりわからねぇ。落ち着いて話せ」

「ふぅぅう、えっと。まず神崎君の作品が新人としては十分ヒットって言っていい位売れたんだ。一万部。更に五万部の増刷が決定したし」

「ほう、それは嬉しい誤算だね。オメェも運が良いらしい」

「それだけじゃないんだ、例のネットの件。椎名編集長の助手って形で一ヶ月手伝う事になったんだよ、そして一週間後に大きな会議があるんだって」

 羽津宮はこれまでの事をすべてモモさんに話した。

「モモさんの言った通り神崎君の意見は凄く説得力があるよ、後は椎名編集長に報告すればばっちりじゃないかな」

「バカ言え。そんな簡単な事じゃねぇよ。会社を動かすにはその程度じゃ弱すぎる。それを裏付けるしっかりとしたデータが必要だ。いいか、神崎の意見と花谷編集部部長の考えの方向は一致してる。それは良い、だがそれだけだ。これまでと状況は何にも変わってねぇ」

「そっか・・・行けると思ったんだけどな」

「あぁ、行ける」

「どっちだよ、行けるの行けないの」

「行けるさ、そのためには今はバラバラなそれぞれの出来事を一つの方向に向かっているように見せる作戦と。それを実感出来る効果、それを出せる企画が必要だ。それを一つの流れの中で会社にプレゼン出来れば説得力は十分だろう」

「そっか、今の所花谷部長の考えと神崎君のやった事が何となく同じ考えの上にあるような気がするだけだもんね。もっと具体的に結びつけて効果として説明がつかないとね」

「あぁそうだ、まず神崎が言った事を裏付けるようなデータが必要だ。例えばその写真屋でデジカメが普及してからのプリントの売り上げのデータや、そうだな音楽配信のダウンロード数とシーディー売り上げとの関係なんかも参考になるだろう。」

「うん、モモさんが言いたい事はわかるよ。ようは大切な物はデータではダメだと皆が感じてるってデータだよね」

「あぁそうだ。それとネットに上手く情報を流している物の売り上げのデータもあれば良いだろうよ、そんなデータくらい販売促進部にねぇのか」

「そっそうだ資料室にたしかそんなデータがあったよ、先輩が集めていたと思うんだ。さっそく調べてみるよ」

「そうか、そりゃあ話が早えな。とりあえずデータがないとはじまらねぇ。どうするかはそっからだ」

「うん、早速集めてみるよ、じゃあね、行くよ。仕事に戻らないと」

「まて、一つ伝えておく法則がある、それを聞いてからにしな」

【上司に自分は頑張っていますと絶対に言わない、言っていいのは頑張りましただけ】

「自分でも必死の時に「どうなってる」と上司に聞かれるとつい言ってしまいがちだが絶対言ってはいけねぇ言葉が在る『あの件どうなってるんだ』『結果が出ないがちゃんとやってるのか』そんな質問に対して絶対に言っては行けない言葉、それはな『頑張ってます』だ。

 聞く側は多少でも不安や、焦り、苛立ちが在るから確認しているんだ。その質問に対して『頑張ってます』は何の答えにもなっていない。

 余計に不安感をあおりいら立たせるだけだ。いいか、そんな質問には出来るだけ具体的に答えろ『明日には届きます』や『少しづつ効果が出て来ています』とかな。悪い報告をしなければいけない時はなおさらだ。『まだ結果が出て来ません、こういう対処していますが、他にうっておいた方が良いてはありますか』と質問で終わる、すると相手も指示を出す事で終れる。指示を出す事でとりあえず安心出来るもんだ。それに結果が出ていないのに『がんばってます』なんて答えが続くと『こいつは口だけだ』と言う風に悪い印象がついてしまう。言っていいのは上手く仕事のすべて終わった時の『頑張りました』だけだぞ。良い結果で終わった後での『頑張りました』なら上司も『よくやった』と言いやすいからな。その一言を言わせておくのもイメージの構築には有効だ」

「これからお前にもプレッシャがかかってくる。この法則は大事だぞ」

「うんわかった、じゃあ行くよ」

「ああ、気張るんだぞ」

 羽津宮は会社に戻りながらこれから自分がするべき事を頭の中で整理していた。

「これからすぐ販売促進部に行ってデータを集めたい所だけど、今日中にやらなければいけない仕事もあるし・・・まいったな気持ちばかり焦るよ。とりあえず情報収集は仕事が終わってからだな。しばらくは残業だ」

 会社に戻った羽津宮は販促部に内線で電話を入れ青梅部長に仕事終わりに資料室を借りる事の了解を得るとソワソワする気持ちを抑えながら今日中にこなさなければいけない仕事に集中した。
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