ステルスセンス 

竜の字

文字の大きさ
上 下
17 / 40
ファーストステージ

山場

しおりを挟む

【怒り方で人は人に惹かれる】

「怒り方にもコツが在ってな、それさえ守ってリゃ怒るのは人をひき付ける絶好のチャンスだぞ。
 
 怒る時のコツは『保身』を見せない事だ。まず怒る時は上司のいないところで徹底的に怒れ、そいつの将来を心配して思い切り怒るんだ。

 そして上司には『私の不注意でした』と自分の責任だと報告し一緒に頭を下げる。最後に優しさを見せるんだ。注意するべき事があるなら解決した後伝えれば言い。その順番が大事だ。

 間違っても「オレにも責任が及ぶだろう」とか「自分で責任をとれ」なんて怒り方は一番やっちゃなんねぇ、これまでの信頼も一発ですっ飛んじまう。普段から面倒見てる後輩のミスは自分の責任だって意識を持っておく事も大事だな」

「なんとか法則通りに行ったな・・・今晩の部長との食事は1つの山場だよな・・・」
そう頭の中でつぶやくともう一度法則の予習を始めた。

【愚痴は上司から言わせろ】

「愚痴を言うにも優位な立場てのが在るんだ。自分の立場をコントロールできる側だ。野球で言えば後攻だな。最初に相手に愚痴を言わせた方が優位なんだ。本音を聞き出す事も出来るし、その時の判断で同調も批判も出来る。

 ただし同僚の愚痴に無闇に同調すんなよ、思い掛けない所で『あいつも同じ意見です』と巻き込む奴がいるからな。相手に先に愚痴らせるにはな、まず質問を先にする事だ、そしてその答えの中の小さな愚痴を見つけてそれに同調する。その作業を繰り返すと相手は愚痴を止められなくなるはずだ。酒が入ってりゃ絶対だ。

【上司は酒の場で慕え】
「仕事の場では慕って来るが、プライベートで寄り付かない人間と。仕事では甘えを見せないがプライベートで慕ってくる人間、どっちに好感を持つと思う、後者だよ。人はな結局自分の人間性を認めてくれる人間の方が好きなんだ。それを表現する場が酒の場だろうな。

 酒の場での無礼講、それは表面的にでの話だ、気をつけろ。それを鵜呑みにしてよ、何人かで飲むような状況で上司に本音でぶつかり男気を見せる奴や、上司に何かと突っ込み笑いをとって親し気にしたりする奴がいるが、どっちも博打だな。当たるか外れるかのどっちかだ。

 当たりを引きゃあ良いがリスクが高けえわな。そんな博打うつ事ぁねえんだ、普通誰だって酒は上機嫌で飲みたいもんだ、機嫌良くさせる方がハズレがねぇわな。

 あと上司とサシで飲む時の理想の展開はな、持ち上げる、愚痴を聞く、同調する、弱音をはく、慕う。この展開だ。分かりやすく言うとだな。

まずは持ち上げるんだ、小さな事から感謝して行く「あの時こう言ってくださって嬉しかったです」位から始めて、最後は仕事を持ち上げる「あの部長の判断は他の誰も思いつきませんよ」とかな。

 すると得意げに苦労話も話出すさ「あれは大変だったんだぞ」ってな。そこから愚痴を聞き出し、それに同調して行く。相手に自分をシンクロさせるんだ。

 そして弱音「自分はどうしたら良いのでしょうか」と相手にゆだねるように弱音をはく。上司とお気に入りの部下を見てみろ、大体の上司は自分に似た自分より弱い奴を好んでる。

「まぁうまくやれ。ここを越えられるかでこの先大きく変わるぞ」

 羽津宮は法則がしっかり頭に入っている事を確認すると大きく息をはいた。

「ふぅうう・・・・・プレッシャーかけてくれるよ・・・・」

 そして陣の事が頭を過る

「陣君はきっとこういう事、天性の感覚でやっちゃってるんだろうな・・・」

陣の事を思い出したおかげで気持ちが落ち着いた。

「よし、残りの仕事終わらすかな」

 定時までいつもと変わらず仕事を終えると、羽津宮は大きく心のスイッチを入れた。 

 少し人見知りをする羽津宮にとって大きな仕事を任されるより、上司と二人で飲みに行く事の方が覚悟がいる。

 仕事の話であれば普通に話せるのだが、これから飲みに行くとなると話は別だ。

 法則の事がなければ、頭の中で幾つもの会話のパターンをシュミレーションしていたに違いない。

 羽津宮が入れたスイッチはそんな自分と陣のようにプライベートで気さくに話せるキャラを入れ替えるスイッチだった。

「青梅部長、仕事終わりました」

「おおそうか、よし・・・ちょっと・・・待ってくれ・・・・」

 青梅部長は何枚かの書類にサインをしクリアファイルに挟み込むとボックスに投げ入れ片付け始めた。

「毎日毎日、サインしてハンコか・・・つまらんもんだな部長ってのは、はっは・・よしっと。じゃあ行くか」

「はい」

 会社を出て飲屋街を歩く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

化粧品会社開発サポート部社員の忙しない日常

たぬきち25番
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞、奨励賞受賞作品!!】 化粧品会社の開発サポート部の伊月宗近は、鳴滝グループ会長の息子であり、会社の心臓部門である商品開発部の天才にして変人の鳴滝巧に振り回される社畜である。そうしてとうとう伊月は、鳴滝に連れて行かれた場所で、殺人事件に巻き込まれることになってしまったのだった。 ※※このお話はフィクションです。実在の人物、団体などとは、一切関係ありません※※ ※殺人現場の描写や、若干の官能(?)表現(本当に少しですので、その辺りは期待されませんように……)がありますので……保険でR15です。全年齢でもいいかもしれませんが……念のため。 タイトル変更しました~ 旧タイトル:とばっちり社畜探偵 伊月さん

RoomNunmber「000」

誠奈
ミステリー
ある日突然届いた一通のメール。 そこには、報酬を与える代わりに、ある人物を誘拐するよう書かれていて…… 丁度金に困っていた翔真は、訝しみつつも依頼を受け入れ、幼馴染の智樹を誘い、実行に移す……が、そこである事件に巻き込まれてしまう。 二人は密室となった部屋から出ることは出来るのだろうか? ※この作品は、以前別サイトにて公開していた物を、作者名及び、登場人物の名称等加筆修正を加えた上で公開しております。 ※BL要素かなり薄いですが、匂わせ程度にはありますのでご注意を。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

CHILDREN CRIME

Neu(ノイ)
ミステリー
メンタル/シリアス/自傷行為/児童虐待/殺人表現/多重人格/加虐表現/少年犯罪/ミステリー風味/etc. ボクは許されない罪を犯したーー。 法で裁かれないのなら、自分で罰を与えるしかないと、リスカを続ける少年、倶利。 オレは家族に捨てられたんだーー。 家族の記憶と言えば、虐待をされていたものばかり。それも曖昧にしか残っていない。 一家心中で家族を喪った少年、知有。 二人が出逢ったことにより、彼等を取り巻く運命が動き始める。 事件と事件が結び付き、歪んでいた現実が白日の下に曝されていく。 真相を握るのは、多重人格者の新米刑事だったーー。 初期考案:2004/01. *不定期更新。 此方の作品は、作者の妄想によるフィクションであり、実際のものとは一切の関係も御座いません。 また、犯罪を誘発する意図では書いておりません。 書き始めたのが10年以上前であることと、時代設定が些か昔のため、現在とは異なる解釈等もあるかとは思います。 作者は専門家ではありませんので、間違った解釈等あるかもしれません。 一部、同性愛表現が出てきますが(男同士、女同士)、キャラクターの設定上のことで、本編とは深く関わってはおりません。 以上のことご理解頂けたらと思います。

処理中です...