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ファーストステージ
第一章 販売促進部
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Stealth Sense -ステルスセンス-
第一章 販売促進部
「第一志望のグローバル出版・・・よし、やってやるぞ」
彼の名前は羽津宮龍之介(ハツク リュウノスケ)。
東京の大学を卒業後、第一志望であった大手出版社に入社。編集部を希望していたが、希望は通らず配属は販売促進部。
産まれもっての感の良さと要領の良さで何でも人並み以上にこなす事が出来、学生時代のアルバイトでもすぐにバイト主任のようなポジションを任されて来た。
自分の仕事ぶりには自信のあった彼にとって、上手く行かないなんて経験は初めてで少し苛立ちもあったが、それでも第一志望の会社に入れたのだから就職難の時代に恵まれている方だと自分を納得させていた。
入社して最初の仕事が花見の準備だなんて大学とたいして変わらないな、と思いつつ羽津宮は同期の新入社員と準備を進めていた。
まだお互い気を使いながらも、どことなくライバル心をちらつかせているような妙な空気だ。
就職活動の時に買った春夏スーツではまだ肌寒く、寒さが苦手な羽津宮にとって楽しい仕事では無かった。
「羽津宮君、今日来るの何人だったかな」
そう言ったのは編集部希望だった宮下信吾。親し気だが何かと細かな事を羽津宮に聞いてくる。入社したばかりの緊張感も手伝ってそんな彼を羽津宮はあまり良くは思っていなかった。
彼の質問に答えはするが内心面倒で「昨日の打合せで聞いた事位、自分で覚えていてくれないかな」とイラ立っていたのだ。それでも入社早々好き嫌いも大人気ないなと思い羽津宮は答えた。
「会社からは僕らを入れて25人だよ、それとは別に取引先の書店の方が何人か来られるかもしれないからそのつもりで準備したほうが良いよね」
「じゃあこのくらいのシートで場所取ればいけるよね」
入れ代わり聞いて来たのは泉山りか。
ハキハキとしていていかにも仕事が好きですと言った感じ。皆に指示しながらテキパキと準備を進めて行くが大事なところでは人に聞いてくる。ちゃっかりしていると言った印象だ。
「いやそれだと狭すぎると思うよ、学生時代よく花見をしていたけどちょっと広すぎるかなって位じゃないと動けないから、もう一枚用意しようよ」
「そうよね、じゃ優菜さん買って来てもらって良いかな」
「はい、同じ位の大きさので良いですか」
そう返事したのは、なんだか頼り無くて同期の皆の言う事に「はい」と言って指示通りに仕事をする堀越優菜。
小説が好きで、ただ沢山の本が読めそうだからと入社して来た彼女。ピリピリした雰囲気の中、羽津宮は彼女とだけは普通に話せた。
もう一人は寺田陣。
学生時代から書店でアルバイトをしていて彼の書く新刊の紹介ポップ等が評判良く、その事が評価され書店からの紹介で入社して来たようだ。
今日来る取引先の書店の方と言うのも彼が勤めていた書店の店長達らしい。
書店と言っても全国にチェーン展開しているブックトップと言う大型店で、出版社としても気を使う相手のようだ。
彼はベンチに腰掛けて携帯で電話をかけ始めた。
「あっ、店長お久しぶりです、はいありがとうございます、今日何人で来られます、えっマジっすか、本社の部長も来るんすか、やぁ気使うな、いやマジですって・・・」
皆が少し緊張ぎみの中、彼だけリラックスしている。書店でのバイトも長かっただけあって会社の人間も何人か知っているようだし配属も販促部でバイト時代の経験も生かせる部署なので、社員になったからと言って特別な緊張感もないようだ。
だからといってバイト気分と言う事もなく、しっかりと気持ちを入れ替えている彼には好感が持てた。
「陣君、書店の方、何人来られるって」
「店長と主任、本社の部長も来るんだって、部長は面倒見もよくて良い人なんだけど好き嫌いが激しいから気使うんだよな、イモ焼酎好きだから用意しておこうよ」
「そうなんだ、じゃあ良さそうなの買って来ておくよ、堀越さん、重くなりそうだから僕も買出し一緒に行くね」
羽津宮は歩き出しながら、さっき泉山に頼まれたシートをどこに買いに行くか分からず、聞けずにオロオロしている堀越をそれとなく店のほうに案内した。
「優しいよね羽津宮君、私がおろおろしてるの見て助けてくれたんでしょ」
「皆なんだかピリピリしていて聞き辛い雰囲気だったもんね、僕はこの辺りで良く遊んでいたから詳しいんだ。ああ見えて泉山さんもどこに買いに行って良いか分からなかったんだと思うよ、だから堀越さんに頼んだんじゃない」
「えっそうなのかな・・でも私、だれかに『これして』って言われないと何やって良いか分からないから良いんだけどね」
羽津宮は思わず笑ってしまった。入社して研修を繰り返して行く中でなんとなく皆が出世を目指しているように錯角していたので、そんなことにまったく興味の無さそうな彼女にハッとしたのだ。
「そうなんだ、だからさっきサボってずっと桜眺めてたんだね」
「あっ、ばれてた・・・だってやる事ないんだもん」
「ふっふっ・・・そうゆうのも良いね・・・さぁもう時間も無いし買い物急ごうよ」
そう言って二人は気持ち急いだふりをした。
第一章 販売促進部
「第一志望のグローバル出版・・・よし、やってやるぞ」
彼の名前は羽津宮龍之介(ハツク リュウノスケ)。
東京の大学を卒業後、第一志望であった大手出版社に入社。編集部を希望していたが、希望は通らず配属は販売促進部。
産まれもっての感の良さと要領の良さで何でも人並み以上にこなす事が出来、学生時代のアルバイトでもすぐにバイト主任のようなポジションを任されて来た。
自分の仕事ぶりには自信のあった彼にとって、上手く行かないなんて経験は初めてで少し苛立ちもあったが、それでも第一志望の会社に入れたのだから就職難の時代に恵まれている方だと自分を納得させていた。
入社して最初の仕事が花見の準備だなんて大学とたいして変わらないな、と思いつつ羽津宮は同期の新入社員と準備を進めていた。
まだお互い気を使いながらも、どことなくライバル心をちらつかせているような妙な空気だ。
就職活動の時に買った春夏スーツではまだ肌寒く、寒さが苦手な羽津宮にとって楽しい仕事では無かった。
「羽津宮君、今日来るの何人だったかな」
そう言ったのは編集部希望だった宮下信吾。親し気だが何かと細かな事を羽津宮に聞いてくる。入社したばかりの緊張感も手伝ってそんな彼を羽津宮はあまり良くは思っていなかった。
彼の質問に答えはするが内心面倒で「昨日の打合せで聞いた事位、自分で覚えていてくれないかな」とイラ立っていたのだ。それでも入社早々好き嫌いも大人気ないなと思い羽津宮は答えた。
「会社からは僕らを入れて25人だよ、それとは別に取引先の書店の方が何人か来られるかもしれないからそのつもりで準備したほうが良いよね」
「じゃあこのくらいのシートで場所取ればいけるよね」
入れ代わり聞いて来たのは泉山りか。
ハキハキとしていていかにも仕事が好きですと言った感じ。皆に指示しながらテキパキと準備を進めて行くが大事なところでは人に聞いてくる。ちゃっかりしていると言った印象だ。
「いやそれだと狭すぎると思うよ、学生時代よく花見をしていたけどちょっと広すぎるかなって位じゃないと動けないから、もう一枚用意しようよ」
「そうよね、じゃ優菜さん買って来てもらって良いかな」
「はい、同じ位の大きさので良いですか」
そう返事したのは、なんだか頼り無くて同期の皆の言う事に「はい」と言って指示通りに仕事をする堀越優菜。
小説が好きで、ただ沢山の本が読めそうだからと入社して来た彼女。ピリピリした雰囲気の中、羽津宮は彼女とだけは普通に話せた。
もう一人は寺田陣。
学生時代から書店でアルバイトをしていて彼の書く新刊の紹介ポップ等が評判良く、その事が評価され書店からの紹介で入社して来たようだ。
今日来る取引先の書店の方と言うのも彼が勤めていた書店の店長達らしい。
書店と言っても全国にチェーン展開しているブックトップと言う大型店で、出版社としても気を使う相手のようだ。
彼はベンチに腰掛けて携帯で電話をかけ始めた。
「あっ、店長お久しぶりです、はいありがとうございます、今日何人で来られます、えっマジっすか、本社の部長も来るんすか、やぁ気使うな、いやマジですって・・・」
皆が少し緊張ぎみの中、彼だけリラックスしている。書店でのバイトも長かっただけあって会社の人間も何人か知っているようだし配属も販促部でバイト時代の経験も生かせる部署なので、社員になったからと言って特別な緊張感もないようだ。
だからといってバイト気分と言う事もなく、しっかりと気持ちを入れ替えている彼には好感が持てた。
「陣君、書店の方、何人来られるって」
「店長と主任、本社の部長も来るんだって、部長は面倒見もよくて良い人なんだけど好き嫌いが激しいから気使うんだよな、イモ焼酎好きだから用意しておこうよ」
「そうなんだ、じゃあ良さそうなの買って来ておくよ、堀越さん、重くなりそうだから僕も買出し一緒に行くね」
羽津宮は歩き出しながら、さっき泉山に頼まれたシートをどこに買いに行くか分からず、聞けずにオロオロしている堀越をそれとなく店のほうに案内した。
「優しいよね羽津宮君、私がおろおろしてるの見て助けてくれたんでしょ」
「皆なんだかピリピリしていて聞き辛い雰囲気だったもんね、僕はこの辺りで良く遊んでいたから詳しいんだ。ああ見えて泉山さんもどこに買いに行って良いか分からなかったんだと思うよ、だから堀越さんに頼んだんじゃない」
「えっそうなのかな・・でも私、だれかに『これして』って言われないと何やって良いか分からないから良いんだけどね」
羽津宮は思わず笑ってしまった。入社して研修を繰り返して行く中でなんとなく皆が出世を目指しているように錯角していたので、そんなことにまったく興味の無さそうな彼女にハッとしたのだ。
「そうなんだ、だからさっきサボってずっと桜眺めてたんだね」
「あっ、ばれてた・・・だってやる事ないんだもん」
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