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ドラゴンクエストダイの大冒険と比較する古来のファンタジーと現代のファンタジーとの違いで批評、あの伝説的漫画の構造を見ていく

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 俺はティアの部屋を出様、小部屋で待機していたメイドさんに、ハンナさんを呼んでくるよう言付けた。それから、ハンナさんの手が空いたら、ライドやジャスティンさんと一緒に俺の部屋へ来て欲しいとも伝言した。
 メイドさんは「畏まりました」と頭を下げて、俺を見送ってくれる。外の近衛の兵士もそうだった。
 次の行き先は、自室のあるフィデブラジスタでは無く、ディジメンドだ。昼間は常に、貴族院だとか元老院だとかというグランディア王国のお偉方が詰めて、政務に没頭している。ディジメンドは日本でいう所の国会議事堂のような場所だと、俺は思っている。
 兎に角そこには宰相であるシリウスさんと――国王陛下が、執務に追われている筈なのだ。
 グランディア城の正面玄関へ向かえば、厳重な警備柵を臨む円形のロータリーに、馬車が一台やってくる。景観を損なうという理由でロータリーに馬車が常駐している事は少ないが、正面玄関からは離れた所にある馬車の駐車スペースから、何ともタイミング良く現れたものだと思う。この玄関で待たされた事は今まで一度もないから、何かしらの連絡網があるのだと思うけれど。
 グランディア国章の双頭の獅子が描かれた黒塗りの四等馬車に乗り込み、告げた通りの行き先に向かう。
 厚いカーテンを開けて外を覗けば、すぐに荘厳なグランディア城の尖塔が遠ざかる。
 均された道路を軽快に駆け行く馬の足音と、車輪の稼動音を聞きながら、俺は逸る心を落ち着けようと胸に掌を当てた。
 自分がひどく興奮している事は、自覚しているのだ。それも、怒りによって。
 寝台に横になった後もティアは泣きながら、うわ言のように謝罪を繰り返していた。俺がどんなに慰めても、その涙は後から後から零れ落ち、そこに同情以外の感情を持ち得なかった。
 ティアの我侭によって自分は召喚され、結婚を条件に生かされている。その事実に対して憤りはあるものの、その原因がティアにあるとはどうしても思えなかったのだ。
 元の世界に容易く戻れない、という事も理解している。親兄弟、友達に二度と会えないかもしれない。一心不乱に励んだ剣道も、大会には二度と出られないかもしれない。挙げれば色んなものを、失うだろう。けれどそこにどれだけの執着が沸くかと言われると、それ程でも無いのだ。
 不思議なもので俺は――元々、諦める事に慣れていた。失う事にも。そして、自分が望まない現実を受け入れる事にも、慣れてしまっていたのだ。
 そういう意味では異世界に召喚された事自体に対しては、あまり感慨も無い。
 許容出来ないのは命と結婚を秤にかけられている事実と、人を無駄に恐慌させる国王陛下の存在だけ。そしてそれが、唯一であり最大の問題なのだ。
 ティアを慰めるに当たり、俺はその問題を確信した上で、こう言った。
「元はといえば、陛下がティアとルークさんの仲を壊すから」
――だからティアは、幸福と安寧の為と言い聞かせて俺を召喚する羽目になった。
「元はといえば、陛下が無駄に威嚇するから」
――わざわざ脅し文句をくれたお陰で、俺は秘密を口にする機会を失った。
「そもそもは、陛下が、」
「何だかんだ、陛下が、」
 そうやってティアを落ち着かせようという名目で言葉を並べていたら、国王陛下が全ての元凶なのだと思い至ってしまった。
 誰が悪いのかと言ったら、全部、国王陛下。
 国王陛下は好きな男を結婚相手に許した筈だった。ルークさんの性格や過去に問題があろうと、彼をティアが選んだ事は事実だ。どんなにルークさんの人格が破綻していようと、ティアが選んだのだ。それを彼以外なら誰でも、なんて条件に挙げる時点でもういけ好かない。じゃあ最初から、何故ルークさんとティアに心通わせる時間を与えてしまったのか。そこまで大事な妹ならば、もっとしっかり変な男が寄り付かないようにして然るべきじゃないのか。
 その上ジンクス以外の何物でもないような理由で、わけの分からない異世界人を召喚して礼儀や作法を教え込むぐらいなら、ルークさんの性格矯正に力を入れた方がよっぽど良かったのではないだろうか。
 そんで呼ばれて来た俺には、ティアと結婚出来ない正当な理由がある。なのにこちらの事情を聞きもせず、人の生命を左右しようとする。
 そして今日に関しては、あのルークさんからの手紙。何の目的でルークさんに俺の存在とか婚約なんて事を伝えたのか知らないが、それによってティアを無意味に傷つけた。
 自分勝手で傲岸にも程がある。
 あの悪魔。いや、魔王め。
 人を無視して、あの野郎。
 つまりそうして、ここに来るまでに感じた全ての理不尽が集約して、俺の心は怒りに満ちていた。
 それは、国王陛下に向ける恐怖すら凌駕する程。
 ――記憶の中、俺を凍りつかせた国王陛下の鋭い瞳は、嫌悪に塗り潰されて何の抑止にもならなかった。



 ディジメンドの正面で馬車を降りると、番兵が二人、俺を見て驚いたようだった。グランディア城の馬車に乗ってきた、見慣れない男で、しかも着ているのはどうって事ないシャツにベスト、パンツ。質はよくても、それは貴族達が自宅で寛ぐ程度の服装なのだとは聞いていた。だから以前シリウスさんに目通る際にも正装させられたのだ。
 王城からやって来たという事からある程度の立場は推測出来ても、彼らの遂行する業務上、通すべきか通さぬべきか。
 そんな動揺が見て取れる。
 槍を片手で立てたまま、彼ら二人は俺を訝しげに見つめてきた。
 一人が御者に俺の素性を尋ね、御者は
「シゼ・ブラッドであらせます」
 咳払いの後もったいぶってそう言った。
 とは言え、それがどういう人物なのかは分からないままなのだろう。つまりはシゼと付けて身位を強調してみせても、それがどこの誰かは全くもって不明なのだ。
 御者もそれ以上は何も言わず、馬車の扉の前で畏まって直立不動。
 俺は教え込まれた毅然とした姿勢を心がけ、にこり、笑んだ。
「私は、ダ・ブラッド。アレクセス城では客人として遇して貰っている。火急の用があり、リカルド二世陛下、もしくはシリウス閣下に目通り願いたいのだが」
「……ご無礼をお許し下さい、シゼル」
 ……シゼル、というのも、貴人に対して使う尊称だ。大抵は目の前にその人物がいる時の略式で、ただミスターと呼んだぐらいのものか。ちなみにシゼラだと女性形らしい。兎に角ややこしい事この上ないが。
 甲冑を着込んだ兵士は頭を下げた後、戸惑いを潜めながらも、マニュアル通りなのだろう言葉を吐き出した。
「恐れ入りますが、紹介状はございますか?」
 俺がきょとんと瞳を瞬かせれば、
「正規の手続きを踏んで頂けない場合は、何人たりとお通し致しかねます」
「急ぎの用件だと申し上げた筈だが?」
「申し訳ございませんが、確認にお時間を頂かなければなりません」
 二人の兵士は顔色を変えず、淡々と言う。確かに城、という場所を思えば、警備は厳重であるべきだろう。
 それは分かるけれど、今は分かりたくないのが本音だ。
 以前はウィリアムさんが居たからこその顔パスだったのだろうか……。
 普段の俺だったら諦めて引き下がっただろうけど、今は感情が沸騰していて、どうしてもすんなり受け入れる事が出来なかった。
 俺は不快感を前面に出しながら、「成程」と呟く。
「それは結構。なら、確認して頂こうか。ちなみにそれはどれくらいかかる?」
「シゼ・ブラッドのご滞在はどちらでしょうか?」
「? フィデブラジスタだが」
「では、そちらでお待ち下さいませ。陛下、及び閣下の許可がおりましたら、呼びにあがります」
「……」
 自分の事を温厚な方だと自認している俺でも、呆れる程面倒なシステムにぴきり、額に青筋を浮かべてしまった。
 そりゃあ、今の自分が胡散臭いのは認める。兵士の職務に忠実なあたりも、認める。
 けれど城の中にいる本人達に聞いて戻ってくる、くらいの時間だと考えていた俺にとっては、何それ、という話なのだ。
 そりゃお忙しいお二人の事ですから!?
 手が空くまでくらい待つつもりだけどさっ!?
  申し訳ない、ともちっとも思って居ないような、ただ規則だからという姿勢を崩さない二人の兵士にまで、怒りの矛が向いてしまう。
「……ウィリアム・アンサ殿をお呼び立てする事も不可能か」
「申し訳ありません」
「では、陛下の近衛隊長殿は」
「申し訳ございません」
「……諸君の忠義には敬服するが、」
 俺は次第に声音を固くしながら、階段を上がりきり、見上げる片側の兵士を睨んだ。
 続きは殊更ゆっくり、一つ一つに重みを置いて、紡ぐ。
「私が、来た、と。そう、お伝えしろ。通せとは言わない。ただ、」
 人差し指を、甲冑の上の胸の位置に当てて。
「その身以上に、国が大事なら。……伝えろ」
 実際にそう効力があるとは思えないけれど、なるべく偉そうに――それこそ国王陛下を真似て、冷ややかに囁いた。彼らには悪いけれど俺には退く気なんて更々ない。
 陛下あたりには追い返されそうだが、シリウスさんとウィリアムさんに話が通れば、すんなりと会ってくれるだろうと思う。
 俺の言葉をどう解したのかは分からないけれど、俺が見据えていた兵士は軽く身じろいで、表情を強張らせた。一応、効果はあったようだ。
 二人の兵士は互いに目配せし、
「仰せの通りに」
と、ぎこちない礼を見せた。
 俺はそれに満足して、双眸を細める。
「ありがとう。では、馬車で待つ事にしよう」
 背後で御者は、今だ立ったままだった。王城の馬車は主を見送ってから去るものらしい。
 背筋良く階段を降りていくと、御者が馬車のドアを開けてくれる。馬車は乗り心地が良いので、多少を待つのも苦にならないだろう。
 俺はため息をつきながら、再び閉じられていくドアを見た。

 全く、腹立たしい。
 俺の怒りは沈静化する所か増す一方だった。




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