推定聖女は、恋をしない。

緋田鞠

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 ヒースの目に、鋭いものが混じる。
「ガンズネル公め…聖女召喚に関わった者はいないかと問うた時には沈黙を守っていたのにな。完全に首謀者ではないか」
「お話した事はないですけど、ガンズネル宰相は、どちらの陣営なんです?」
「表向きには中立、だな。彼は代々宰相職を与る家門の当主として、あくまでもガルダ王国の安寧こそが第一、と掲げている」
「じゃあ、裏向きには?」
 ニーナの問いに、ヒースは苦笑した。
「表向き、と聞いて、即座に裏向きを尋ねてくる所が面白い」
「裏があるから、表があるんでしょう?」
 ニーナが軽く首を傾げると、ヒースは頷く。
「まぁ、そう言う事だな。ガンズネル公は決して口には出さんが、あれは…強硬派だろうな」
「強硬派と言うのは、アイル王国に仕掛けられる前に戦争を起こそう、と言う人達ですか?」
「そうだ。私とディーン、どちらを支持するか明確にしていないのは、王が誰であろうと宰相である己の地位に揺らぎはないとの自信からだろう」
 随分ときな臭い男だ。
 一度しか見掛けた事はないが、強硬手段を取るような男性には見えなかったのだが。
「そもそも、どうしてガルダとアイルは揉めてるんですか?」
「要因はいくつかあるが、主な理由は川だ」
「川…」
「ガルダとアイルの国境は、ラヴィルと言う大河で分かたれている。ところが、このラヴィルが随分と暴れ川でな。数年に一度、氾濫しては川筋を変えるのだ。川筋が変われば、国境も変わる。河岸の領地を持つ者達は、己の領地の増減を気にしてラヴィルのご機嫌を伺うよりも、いっその事、川向うまでを我が土地としたいのだ」
「川の氾濫…」
 氾濫した河川は、すべてを飲み込んでいく。
 収穫前の畑も、家も、家畜も、何もかも。
 けれど、水が引いた後には、山から流れて来た栄養たっぷりの土が残り、そこに肥沃な大地を作るのだ。
 命すら危険に晒される河岸の地から人々が立ち去らないのは、それが大きな理由だった。
「五百年前の戦争では、聖女の力もあってガルダが辛くも勝利したのだが、それ以降も安定した関係とは言えない。その時の王の方針にもよるが、互いに顔を背けて不干渉を貫くか、少しでも領土を増やすべくいがみ合うかで、友好的な時期は長く続いた試しがない。先王である父の代では、友好的な関係を築こうと働きかけた。その結果、ディーンの母、アイル王国第五王女だったロレッタ様が嫁いで来られたのだ。何の打診もなかった為、当時の中枢部は相当慌てたと聞くが、婚姻外交はよくある話だからな。その折に、ガルダとアイルの間でラヴィルを巡る協定が結ばれている。『国境はラヴィルの川幅を丁度二分する位置と定める』と言うものだ。ラヴィルの所有権をきっちり半分としよう、と言う事だな。この協定により、両国の民は川の真ん中まで船を出し、漁をする事ができるのだが、毎年何件も、『国境を侵された』との訴えが上がって来る」
「あぁ…」
 何しろ、向こう岸が見えない程に広大な川である為、『真ん中』が曖昧だ。
 数年に一度の頻度で氾濫する事もあり、目印となる杭を数百キロに渡って打つ事も現実的ではない。
「ガンズネル公の領地は、ラヴィル河岸にある」
「なるほど…」
 ニーナは考え込むように視線を巡らすと、ひた、とヒースを見つめた。
 女官や侍女は主の目を直接見ないものだし、目が合う女性はヒースに対して何らかの欲を抱いた熱い想いを込めてくるものだから、ニーナのいっそ無垢と言ってもいい位の視線が新鮮で、ヒースの胸が知らず、どきりと音を立てる。
「私は、土木工事の知識も技術もないし、政治的に起こり得る問題の解決方法も知りません。単純に、『こうだったらいいのにな』と思っただけの事なんですけど、話してもいいですか?」
「あぁ、勿論。異世界の知識を持つ君の話なら、何でも聞いてみたい」
「まず、前提として、私はラヴィル川をガルダとアイル、どちらか一方のものにする事に反対です。水は、生きる為に絶対必要なものだから、一時的にどちらかの国の所有になったとしても、再び、争いが起きます」
「そうだな、それは懸念点だ。長い歴史が、専有する無謀さを語っている。私とディーンも、アイルとの戦争は避けたい」
 決して、怯懦で言っているわけではない。
 終わりの見えない争いに、人命を賭ける意味がないからだ。
 ヒースには、王としてガルダの民を守る義務がある。
「強硬派は、アイル全土をガルダに帰属させる事を望んでいるのだろうが、現実的な話ではない。それ故の聖女召喚だったのだろうな。ガルダにとっては勝利の女神であり、アイルにとっては圧倒的優勢の戦局を引っくり返した疫病神なのだから」
 国力に大差のない二国だ。
 過去に数百年の争いの歴史があるのだから、それこそ、ヒースの代で何十年と争っても決着はつかないだろう。
 ーーそこに、聖女がいなければ。
「ラヴィルに関しては、本で読みました。幸いにも豊かな水を持っているので、少ない水を生き残る為に奪い合う必要はありません。ならば、均等に分け合う事を前提に考えるべきかと」
「だからこそ、川の真ん中で二分する、と言う協定が組まれたのだと思うが…」
 ロレッタが嫁いで来たのは、ヒースがまだ乳児の頃。
 当時、どのようなやり取りがあったのか、実際を知らない。
「ラヴィル全域を両国で共有する、と言う考えはできませんか?」
「全域を共有?」
「国境はラヴィルの岸、ラヴィルの流域は両国の共有にするんです。そうすれば、知らずに国境を侵す民は減りませんか?」
「…確かに、明確な国境にはなるな…」
 ヒースは、ニーナの言葉に顎に手を当てて考え込む。
「もちろん、細かい問題は色々考えられますけど、どんな問題が起きるのか、それに対してどんな対処が考えられるのか、調査する価値はあるんじゃないかと」
「ふむ。まず考えられるのは、ラヴィル全域で漁ができる事によって、魚の奪い合いが起きないか、結果として食糧不足が発生しないか、と言う事だな。現状を報告させよう」
「それと…川の氾濫を防ぐ為に、これまで、どのような対策をして来ましたか?」
「氾濫を…防ぐ?」
 ヒースの戸惑うような声に、ニーナは、治水と言う考えがガルダでは一般的ではない事を知った。
 それは恐らく、氾濫後の肥沃な大地が、民の食を支えているからだ。
 ラヴィル河岸の民にとって、氾濫は恐怖そのものではなく、未来への希望でもあるのだ。
「ラヴィルの氾濫で栄養豊富な土が運ばれる利点はあります。でも、同時に、氾濫によって失われる命や財産も多いでしょう。それまでに築き上げたものを、また一から作り直すのは、金銭的にも精神的にも、大きな負担です。それに、氾濫した水がもたらすのは、栄養豊富な土だけじゃありません。流された家畜や魚の死骸は腐って病気の元となる魔を振りまきます。本には、河川の氾濫後は魔術師を派遣して浄化魔法を使用している、と書いてありましたけど、それだけの仕事ができる魔術師の人数を考えると、効率的ではないです。国境を巡る争いをなくす意味でも、人的負担を減らす意味でも、川筋が乱れない、と言うのは利点かと」
「それは、そうだな」
「だったら、ラヴィルに流れる水を管理する為に、ダムを造る方法があります」
「ダム?」
「川の上流で水を堰き止めて、貯めておける場所を作るんです。水を一旦貯めておく事で、下流に流す量を調整できます。他には、ラヴィルの支流を人工的に作って、水量を分散させると同時に、水の必要な地域まで届ける方法も考えられます」
 指先で空中に絵を描くと、ヒースは、ほぅ、と感嘆の溜息を吐いた。
「どうやって作るか、は聞かないでくださいよ?専門的な知識はないので」
「いや、十分だ」
 現実的な運用には詰めなければならない点はいくつもあるものの、これまでになかった着眼点は、発想として面白い。
 アイルの中の穏健派と手を結ぶ事ができれば、決して、実現不可能な空論でもないだろう。
 ヒースは、言い切った、と言う顔をしているニーナを、改めて見遣った。
「まずは、有識者会議にニーナの案を上げてみる。私は良い案だと思うが、より、両国の現実に即したものにすべきだからな」
「一つの参考意見として考えてください」
「ガンズネル公が、それを聞いてどう動くか…聖女召喚を企ててまで、自陣営に世論を傾けようとしたのだ。真に国と民を思った故か、己の利益を求めた故か…注視する必要はあるだろうな」
 ヒースが即位し、ディーンが王弟として表舞台に立つ事で、表面上はヒース派とディーン派の争いは落ち着いているように見える。
 けれど、決して盤石なものではない。
 ガンズネルの考えは、把握しておく必要がある。
「度々、ガンズネル公爵令嬢の茶会にも招かれているようだが、どうだ?」
「う~ん…呼ばれはするんですけど、ガンズネル公爵令嬢と言葉を交わす事は余りないです。精々、ディーンについて聞かれる位ですかね?ディーンに会うのが目的なのかも」
 公爵令嬢らしく常に感情の波が穏やかだけれど、ディーンがニーナに付き添っている時と、所用で同行していない時の出迎え時の温度差は、ニーナにも感じ取れる。
「ふむ…ガンズネル公は、令嬢を私の妃候補に挙げていた筈だが…本人の気持ちはディーンに向いていると言う事か」
「え、ヒースのお妃様候補なんですか?」
 確か、ガンズネル公爵令嬢は十九歳。
 ヒースが二十五歳だから、十分にあり得る年齢差だ。
 ニーナが学んだガルダの知識に拠れば、ガルダ貴族女性にとって、二度目の成人を迎える十八歳から二十五歳が結婚適齢期。
 公爵令嬢ともなれば、とうに婚約者が決まっていておかしくないのに独身なのは、国王であるヒースと、王弟であるディーンが決まった相手を見つけていないからなのだろう。
 お茶会で顔を合わせる高位貴族の令嬢は、その傾向が強い。
 ヒースとディーンが婚約する前に相手を決めてしまえば、王族の妃になる機会を逃す事になるからだ。
「私の結婚は、どうしても諸々のしがらみに囚われてしまう故、単なる好悪で選べないのだが…ニーナ、君はそうではない。この城で暮らすようになって半年。行動範囲も交友関係も広がった事だろう。…誰か、想う相手はいないのか」
 ヒースの問いに、ニーナは苦笑を返した。
「皆、それが気になるんですね」
「ニーナ…?」
「そんなに、結婚ってしないとダメですか?」
「…正直な所、君を独り身のままにしておくのは危険だ。城でいつまでも安全を確保する、と言い切りたい所だが、今は後宮で暮らしているのが母上とニーナだけだからいいものの、妃が後宮入りすると、簡単な話ではなくなる。恐らくは、妃の生家がニーナに対抗意識を燃やすだろうからな」
「あぁ…」
 後宮に匿われているけれど、ニーナはヒースやディーンの寵を得て、ここにいるわけではない。あくまでも、安全確保の為だ。
 だが、それを理解しろ、と言うのが難しい事は、ニーナにも判る。
 誰が、己の住まう宮に、赤の他人を住まわせたいものか。
 それも、ニーナは結婚適齢期の女性であり、落ち人と言う他に比類なき存在なのだから。
「じゃあ…二人の結婚に合わせてお城を出る、と言うのは…」
「却下だ。それこそ、身の安全が確保できない」
 きっぱりと言い切られて、ニーナは閉口する。
「ニーナが望む相手なら誰でもいい、と言ってはいるが、護衛の点から考えると、相手は貴族、可能ならば高位貴族か武門の家系が望ましい。私が会議でニーナの提案を挙げたら、君の価値は一層高まる。誰もが、君の関心を惹き、家門に加えようと躍起になるだろうな」
 ニーナが語る異世界の知識は、この国に新たな発見をもたらす。
 ニーナ本人は、技術の知識が伴っていない分、現実に即していない、とどこか自信なさげだけれど、これまでにない発想と視点は貴重だ。
 弟ディーンの元に、突如現れた聖女。
 彼女は、『魅了』なんて異能は持ち合わせていない、と言い切ったものの…『魅了』と言う言葉の意味を、自分達が取り違えているのならば。
 目を惹く華やかさはなくとも、彼の地では、恐らく相当に高位の地位にいたであろう事が容易に推測される手入れされた容姿に美しい振る舞い。
 仕えられる事に不慣れなのは、ニーナの国には貴族や平民などの身分制度がなく、従者を持つ事が一般的ではないからと聞いた。
 控えめな微笑みを浮かべる一方で、臆する事なく、自分の意見を口にする。
 宝石やドレスよりも、書物を喜ぶ女性。
 これまで接して来た女性達とは異なり、異性であるヒースに対しても自然体で接する彼女に、女性との付き合いには慎重なヒースも、いつしか、目が奪われている。
 ヒースばかりではない。
 ヒースやディーンの側近である将来有望な令息達も、後宮でニーナに仕える従者達も、いつの間にやら、彼女を慕うようになっている。
 ニーナと親しく接する機会のある人物が、こぞって彼女に心を奪われる事こそが『魅了』の正体ならば、やはり、ニーナは聖女なのだろう。
 国王であるヒースの伴侶は、政治的なバランスや縁を結ぶメリットを考えて選ばなくてはならない。
 けれど、聖女と公表はできずとも落ち人であるニーナならば、国益に適う、と人々を納得させられるのではないか。
 王妃であれば誰も手出しできない存在になるし、護衛もこれまでより増員する事が可能だ。
 彼女の身を守る為にも、国王の伴侶は相応しい。
 しかし。
 ふぅ、と溜息を一つ吐くと、ヒースは軽く頭を横に振って、考えを追い出した。
 弟が…ディーンがニーナを望んでいるのだから、ヒースは距離を置くべきだ。
 類希な魔力量を持つ故に、十年の歳月を塔に引き籠って過ごしたディーン。
 彼は、その間、すべてをヒースに背負わせてしまった、と負い目を感じているようだけれど、ヒースにも、ディーンが表舞台に立つ機会を奪ったのは自分だ、との負い目がある。
 人々との交流すら碌に経験できないままの彼を、政治の表舞台に引きずり出したのはヒースだ。
 ディーンは、単に条件や欲得ずくでニーナを慕っているわけではない。
 『ニーナ』と言う一人の女性に魅力を感じているのだろうから、二人の関係を見守ってやらなくては。
 後押しも、少しならできるだろう。
「…私、元の国では十年間、一人暮らししてた、って話をしましたよね?」
 ニーナの言葉に、ヒースは顔を上げる。
「あぁ…聞いた」
「一人暮らしの経験があっても、ダメですか?平民女性と結婚して、街で商売人として暮らした落ち人の男性もいるんですよね?」
「それは、男性だから許された事だ。君の話を聞く限り、ニーナの住んでいた国…ニホン、と言ったか。その国は、ガルダよりも治安がいい。ガルダは残念ながら、女性が一人で暮らせる程には治安がよくない。それは、君が落ち人であるかどうかにはよらない。平民女性であっても、決して一人では暮らせないのだ。君が一人暮らしをするとすれば、ディーンのいた塔位しか方法がない。だが、軟禁された状態を、一人暮らしとは呼べないだろう?」
 ニーナは、下唇をきゅっと噛むと、
「だからって…身の安全の為だけに結婚するのは…」
と、小さく零した。
「だからこそ、君の想う相手と添うて欲しいと願っているのだ。元の世界に戻してあげる事はできないが、この地で好いた相手と新たな人生を送る事はできるだろう」
「……無理です」
「…無理?」
「私は…誰かを好きに、なれませんから」
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