婚約破棄は、まだですか?

緋田鞠

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 カンカーンカンカーンカンカーン!
 静寂を、人を不穏な気持ちにさせる金属音が切り裂く。
 早朝、エディスは聞き慣れた警鐘で飛び起きた。
 夜着として着ていた簡易な衣服に騎士服を羽織り、手櫛で髪をまとめて、口に咥えていた革紐で髪を結ぶ。
 皮製の急所のみを覆う軽鎧を身に着け、脛を守る為の鉄板が入ったブーツの紐を結び、部屋を出た所で、丁度、身支度を終えたジェレマイアと顔を合わせた。
 階下でも、バタバタと大勢が走り回る音がする。
「!エディス!」
 ジェレマイアの顔は、厳しく引き締められていた。
 エディスが西域騎士団に来てから、三週間。
 これまで、警鐘が鳴った事はない。
 ジェレマイアに取っても、久し振りの緊急事態だろう。
「お供します。騎獣は?」
「この鳴らし方は、北西方面だ。騎獣で行く方がいい」
「了解」
 その後は、無言で階段を飛び降り、厩舎でそれぞれの愛騎を引き出した。
 厩務員のハインツが、緊張の面持ちで、鞍と手綱を用意してくれる。
「ついて来い!」
「はっ!」
 ヴァージルの背に飛び乗ったジェレマイアに続き、エディスもポチに一飛びで跨ると、同じように騎獣に乗った騎士達、騎獣がなく、馬車に乗り合って現場に向かう者達と共に、一路、現場を目指した。
 騎士団では、二十四時間、常に深淵の森の見張り番が立っている。
 多少、魔獣が出て来ようと、基本的には当番だけで対処出来る量でしかない。
 だが、対処しきれないだけの量、もしくは強敵が現れた際に、警鐘を鳴らして緊急動員されるのだ。
 騎獣の中でも足の速いヒポグリフと飛竜に乗った二人は、一番早く、現場に辿り着いた。
 夜番の騎士達が、森に押し返そうと必死に立ち向かっているのは…。
「バシリスク…?!」
 大型の蛇は、成人男性二人が手を繋いで、やっと抱えられるかどうかの太さの胴体を持っていた。
 森からずるりと体を伸ばしているが、まだ尾は木々に隠れて見えない。
 口元が煙っているのは、毒息を吐くからだ。
 騎士達は、鼻と口を布で覆った状態で戦っているものの、十全の力が出せているようには見えなかった。
 硬い鱗を示すように、どんな攻撃も目につくようなダメージを与えられていない。
「西域でバシリスクの出現頻度は」
 エディスの問いに、ジェレマイアが緊張の色を隠しもせずに答える。
「極めて希だ」
「では、討伐経験者は」
「俺も含めて、いないだろう」
 バシリスクは集団で生活する魔獣ではない。
 何しろ、蛇の王とまで言われる存在なのだ。
 一匹いれば、その周辺は全て、その個体のテリトリーと考えていい。
「地竜の魔力に中てられて、此処まで降りて来たようですね」
 エディスはそう言うと、ポチから飛び降りて、腰に佩いていた細剣を手に取った。
 森に押し返すか討伐出来なければ、バシリスクはこのまま、人里まで突き進むだろう。
 大きな蛇体は畑を潰し、建物を破壊し、吐いた毒息で命が失われる。
 極めて危険性の高い強敵だ。
「副団長殿は、風魔法がお得意ですね?」
「あぁ。何か、策があるか」
「まず、厄介なのは毒息です。バシリスクの顔周辺の風を操って、毒息が団員に到達しないようになさって下さい」
「判った」
 布で口元を覆ったまま戦うのでは、呼吸が浅くなって十分な力が振るえない。
 それに、毒息に触れてしまうと、例え、直撃を避ける事が出来たとしても、掠るだけで皮膚が爛れ、激しい痛みを齎すのだ。
「皆さんは、現在戦っている部隊と交代、四方八方から攻撃を仕掛け、バシリスクの注意を散らして下さい。攻撃方法は、剣でも魔法でも構いません」
 漸く追いついた騎獣乗り達に告げると、彼等はジェレマイアの顔を見た後に頷いた。
 エディスが、西域に来て三週間。
 新人騎士の訓練をしている姿は見ているが、彼等のうち、誰も、エディスが実際に魔獣討伐している様子を見た事がない。
 この場を任せていいものなのか、判断がつきかねた。
 だが、ジェレマイアが真剣にエディスの指示を聞いている姿を見て、ここは従うべきだと心を決めた。
「では、散開!」
 エディスの有無を言わさぬ声に思わず駆け出した後、作戦の全容を聞いていなかった事に気づいたが、既に場は動き始めている。
 誰が止めを刺すのか、そもそも、討伐なのか撃退なのか、それすらも知らないまま、外野である東域騎士団のエディスの言葉に従ってしまった彼等は、儘よ、と、バシリスクに狙いを定めた。
 疲労困憊の夜番部隊と交代し、縦横無尽に駆け回って、バシリスクの注意を一点に集中させないようにする。
 右から攻撃し、顔が右に向けば左から、左から攻撃し、顔が左を向けば前方から。
 騎獣に乗るような騎士は、経験値の高い者が多い。
 互いに声を掛けずとも、阿吽の呼吸で攻め続ける。
 大きなダメージは与えられずとも、小さなダメージの蓄積をバシリスクが鬱陶しく思っているのは確かで、苛立ったように激しく動いている。
 その間、ジェレマイアは、繊細な調整をしながら、バシリスクの頭部周辺の空気をぐるぐると渦のように回していた。
 暴れ回るバシリスクの動きに合わせて、頭部周辺に渦を留めるのは、並大抵の能力では不可能だ。
 だが、ジェレマイアは一筋の毒息も漏らさずに己の仕事に専念する。
 どうせなら、自分の毒息で気絶でもしてくれればいいものを、自身の生み出す毒はやはり効かないらしい。
 そのジェレマイアの隣で、エディスはじっと、バシリスクの動きを見つめていた。
 漸く追いついた馬車隊が、集中しているエディスを見て、
「あ」
と、声を上げる。
「しっ!エディス様は集中してるんだから、静かにしろよ」
「ご、ごめ…っ」
 エディスの緋色の目は、煌々と明るく光っていた。
 目に魔力を集中し、通常の視力では見えざるものを探っているのだ。
「…見つけた」
 不意に、低く呟く。
 細剣を低く構えたまま、翻弄を続ける団員達の背後に回り、バシリスクの視界から外れると、エディスはその背に飛び乗った。
 バシリスクは、蛇体。
 つるつると滑る鱗を、危なげもなく一気に駆け上る。
 頭から二メートル弱、中心から左に半歩ずれた、そこに何が?と周囲の人間が首を傾げる場所で、一息に細剣を根本まで突き刺した。
 硬い鱗と鱗の隙間を、細い剣先が貫き通している。
 途端に、勢いよく暴れ回っていたバシリスクが、全身をビクリと大きく硬直させた。
 一瞬。
 全ての音が、途切れる。
 そのまま、断末魔の叫びもないままに、どう、と轟音と共に横倒しに倒れる体から、慌てて団員達が飛びのいた。
「エディス?!」
 濛々と舞う土埃に、止めを刺した筈のエディスの姿が掻き消える。
 ジェレマイアの呼ぶ声に、
「はい、此処です」
 エディスが手を挙げて、霞んだ視界から現れると、ジェレマイアは、ホッと大きく息を吐いた。
「魔核を破壊したのか」
「はい」
 確かにエディスは、魔核を見つけるのが得意だ、と話していた。
 魔核は常に、魔獣の体内を移動している。
 その動きを見定める為に、バシリスクの気を逸らさせたのだろう、と、漸く理解が追いついて、団員達の間から、最初はパラパラと、次第に盛大な拍手が沸き起こった。
 エディスは少し驚いたようにその称賛を受けていたが、最後に、ふにゃ、とした笑みを浮かべる。
 普段、穏やかに微笑む顔か、新人達を指導する厳しい顔しか見た覚えのない団員達が、その笑みに気を取られたのにも気づかず、エディスは照れたように笑った。
「すみません、作戦の全容をお伝えしていませんでしたね。東域では大体、こんな流れで動いているもので。魔核の破壊で褒められたのは、久し振りです」
「エディスは、バシリスクと対峙した事があるのか?」
「いいえ。文献だけです。ですが、解体に参加した事はあります。その時に、魔核が一つである事は確認しました」
 誰もがバシリスクの巨体に気を飲まれていた中、エディスは最初から冷静に、魔核のみを破壊する事に集中していたと言う事だ。
「副団長殿も、有難うございました。最も厄介なのは毒息だと思っていましたから、魔核の走査に集中出来て助かりました」
「いや…本来なら俺が指示を出さねばならなかった所を、助かった。…まぁ、だが、魔核を一撃で破壊等、エディスでなければ出来ないだろうけどな」
 もしも、此処にエディスがいなければ、ただひたすらに攻撃を繰り返すしかなかっただろう。
 だが、それでは激しい消耗戦になる。
 エディスがいた結果、夜番部隊にこそ怪我人がいるものの、バシリスクが相手と思えば、被害は極めて軽微だ。
 ジェレマイアが苦笑すると、ベテラン騎士達もまた、深く頷く。
 原理は、判る。
 目に魔力を集中して視覚を強化し、常に移動をし続ける魔核を見つける。
 しかし、誰にでも出来る芸当ではない。少なくとも、彼等はエディス以外にそんな事が出来る者を聞いた事がなかった。
 その上で、移動中の魔核を一撃で破壊するのだ。
 繊細な魔力操作と、一分の乱れもない剣捌きが求められる。
「う~ん…こればっかりは、教えようがないんですよね…。こう、ジーッと見ていると、魔力の素みたいな塊が、膚の下を動き回っているのが、見えるんですが…」
 首を捻って苦笑するエディスに、ジェレマイアが近づくと、血の滲んだ右頬に、そっと手を伸ばした。
「血が」
「あぁ。バシリスクの尾が掠めました」
「『いたいのいたいのとんでいけ』」
「は」
「弟達に、してやってるんだろ?たまには、貴方がされる側になったらどうだ?」
 にこ、と笑ったジェレマイアの笑顔が、昇って来た朝日のせいなのか眩しくて、エディスは目を見開いて、小さく口を「あ」の形に開けたまま、固まる。
 こんな掠り傷、今まで、気にしてくれたのは、家族だけだった。
 東域の団員には、せいぜい、「唾つけとけ」と言われるだけなのに。
 触れられた頬が、熱を持ったように熱い。
 同時にジェレマイアが、他団からの助っ人とは言え、一騎士の掠り傷を気にした上に、自ら触れた事に驚いた団員達も固まった。
「…え?副団長って、まさか…」
「だ、だから、お見合い全部蹴ってるのか…?!」
 女性を傍に近づけない事で有名なジェレマイアが、騎士としては少々華奢で、涼やかに整った顔立ちのエディスを心配し、自ら近づき、優しく接している。
 その、意味とは。
 不穏な噂が出始めた事になど気づかず、ジェレマイアはダメ押しのようにエディスに笑い掛けると、一転して厳しい表情を浮かべ、
「バシリスクの解体までが仕事だ。新たな魔獣の出現に気を払いつつ、素材回収してくれ」
と、周囲に命じた。
「バシリスクは、皮も牙も毒袋も使えますから、丁寧に作業して下さいね」
 エディスが付け加えた言葉に、バシリスクの余りの巨体にげんなりした声が上がる。
「素材回収が得意、ね…」
「はい」
 微笑んだエディスは、そう言えば、今朝方からずっと、ジェレマイアに呼び捨てで名を呼ばれているな、と気が付いた。
「そう言えば、副団長殿」
「何だ、エディス」
「いつの間に、呼び捨てに。いえ、いいんですけど」
「ダメか?」
「いや、ですから、構いませんよ」
「じゃあ、エディスも、そんな堅苦しい呼び方ではなく、名で呼んでくれ。ジェレマイアが呼びにくければ、ジェレミーでも、ジェリーでも」
 エディスは、思い掛けない言葉にまたしても固まる。
 名で呼ぶだけならまだしも、愛称?
 ジェレマイアの言葉が耳に入った団員達もまた、固まった。
 副団長、やっぱり?!
「ぇ、え…?」
 ジェレマイアは、他意なく言っているのだろう、と、思い掛けない言葉に動揺しながら、エディスは決めつける。
 異性が愛称で呼ぶと、他人に関係性を穿って見られる。
 ましてや、ジェレマイアは幼い子供ではなく、婚約者をこれから探さねばならない身。
 そんな勘違いを起こさせるような振る舞いをしてはならない。
 けれど、同性の友人ならば、名で呼び合う事も、愛称で呼ぶ事も、普通だ、普通。
 いや、だけど、でも…。
 想定外の要求を受けて珍しく慌てるエディスに、ジェレマイアは、ふ、と笑うと、くしゃり、とエディスの頭を撫でた。
「困る貴方は、可愛らしいな」
 何だそれーーー!
 ジェレマイア以外の人々の心が、一つになった瞬間だった。

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