23 / 31
<22>
しおりを挟む
父達との面会は、リタとの話し合いから三日後に行われた。
家族とはいえ、父も兄上も多忙の身。
なかなか、時間を合わせてもらう事は難しい。
それでも、「婚約者に関してご相談したい事があります。先日、遠出して調査した内容も含みます」と伝えたところ、即、日程調整をしてくれた。
父とリタが会ったのは、婚約式の一度きり。
兄上とリタに関しても、先日の茶会の一度きり。
六年も婚約しておきながら、彼らにとってもリタは謎の令嬢のままだ。
王家の私的な応接室。
一人掛けのソファに父が、その横の二人掛けのソファに兄上が、向き合う位置に置かれたソファに俺とリタが腰を掛けると、まず、口火を切ったのは父だった。
「よく来てくれた、フレマイア嬢。改めて、ルシアンとの婚約関係を続けてくれている事に感謝する」
父は、俺とリタが卒業パーティ直前まで没交渉で来た事を知っている筈だ。
今の言葉には、俺の不義理に対して、リタが、フレマイア侯爵が、なんの不満も漏らさなかった事を指しているのだろう。
父もまた、過去の俺同様、リタがアシュトンと同じようにフレマイア侯爵夫妻に大切にされている娘だと思っているから。
ちら、と横目でリタを見ると、軽く頷いてくれる。
今回、父達と面会するにあたって、リタといくつか約束をした。
リタが人生を繰り返している事は、秘密にする事。
それ以外は――魔導器官の移植手術を含め――隠し立てせず、明かす事。
フレマイア侯爵への免罪は、求めない事。
最後の項目は俺自身の希望ではあったが、フレマイア侯爵は曲がりなりにもリタの父親だ。
本当にそれでいいのかと確認したけれど、リタは穏やかな顔で頷いた。
「フレマイア家の人々は、わたくしの家族ではありませんでしたから」
今回の人生に限らず、リタはずっと、本邸で暮らした事がないのだという。
過去の三回の人生では、侯爵令嬢に相応しい身なり、家具、調度品を手にしてはいたものの、食事は別で、社交に招かれた先に訪れる馬車も別。
アシュトンとともにアカデミーに通っていた時期も、それぞれに馬車が用意されていたというのだから、徹底している。
余程、リタとアシュトンを疎遠なままにいさせたかったのだと思われる。
フレマイア侯爵夫人とは、四回の人生すべてを合わせても、顔を見たのは片手に数えるほど。
それもすべて、社交の場にフレマイア家が一家で招かれた時の話で、言葉を交わした事はない。
「わたくしが白の娘だから、仕方のない事だと思っておりました。ですが、その原因を知り、誰もわたくしに感謝も謝罪もしない事を理解してしまえば、彼らに家族どころか人としての情も湧きません」
魔導器官の移植手術そのものは、違法ではない。
研究が途中で封印され、論文が禁書になったが、法律上、「禁止する」と明文化するだけの材料が不足していたからだ。
実際の術式を把握しているのが、考案者であるケニス・ロードしかいなかったのも理由の一つだろう。
だから、魔導器官の移植手術を強要したとして、フレマイア侯爵を罪に問う事はできない。
しかし。
「兄の事、手術の事を口外させないために、多くの使用人が姿を消しました。貴族が平民を害しても、大きな罪に問えない事は存じております。けれど、騎士団を率いる立場として清廉潔白を求められる身の上では、醜聞となるのではないでしょうか。父には、犯した罪に相応しい罰を受けて欲しいと願っております」
姿を消した使用人達に手を下したのがフレマイア侯爵である、との決定的な証拠を掴むには、時間が経ち過ぎている。
だが、圧を掛ける事はできる筈。
こくり、と喉を鳴らしてから、父の顔をまっすぐに見つめて切り出す。
「父上。まず、リタの抱える事情から、説明させていただきたいと思います」
「フレマイア嬢の事情?」
時折、リタに視線で確認しながら、できるだけ私情を挟まないように冷静に伝えていく。
リタは、闇属性を持って誕生した事。
戸籍上、母親はフレマイア侯爵夫人となっているが、その可能性は低いと考えられる事。
フレマイア家の領地ダナイドの離れで、メイドと二人、教育を受ける事もなく生活していた事。
リタが九歳の時に、ケニス・ロード医師により手術を受けている事。
なんの手術か説明は受けていないが、術後、髪が真っ白に変化した事。
ケニス・ロード医師は、魔導器官を移植する事により、魔力量を増大させる研究をしていた研究者である事。
移植手術の相手は、フレマイア侯爵令息であるアシュトンの可能性が高い事。
術後、侯爵夫妻とアシュトンは王都に居を移したが、リタは一人、捨て置かれていた事。
王太子妃に相応しくない令嬢との婚約を望んでいた俺に、フレマイア侯爵自ら、リタを売り込んで来た事。
父の顔つきが段々と険しくなり、兄上の顔に呆れの色が濃くなっていく。
「……なるほどな」
先に口を開いたのは、兄上だった。
「道理で。時折、魔法騎士団でアシュトン・フレマイアの鍛錬を見ているが、フレマイア侯爵と比較すると、恵まれた魔力量を活かせていない、と感じていた。病弱だったと聞いていたし、成長期に魔力量が爆発的に増えた人間にありがちな事ではあるから、彼もそのうちの一人なのだろうと思っていたが……そもそもが、彼自身の魔力ではなかったという事か。持て余しているんだな」
俺が感じていた違和感を、兄上もアシュトンに対して抱いていたらしい。
「ルシアン。証拠はあるのか。今の発言だけでは、フレマイア侯爵に対する誹謗中傷と捉えられても仕方がないぞ」
父の言葉に、俺は首を横に振った。
「物的な証拠となると、難しいです。リタの胸に手術の痕が残っていますが、魔導器官の移植手術の際についたものではない、と言い逃れはできるでしょうから」
「手術の痕……? まさか、治癒魔法を使わなかったと……?」
「手術自体が、極秘のものです。手術が行われた当時、ダナイドのフレマイア邸に奉公に上がっていた使用人は、全員が命を落とすか所在不明になっております」
「……!」
父達の顔に、衝撃が走る。
「先日、ケニス・ロード医師の関係者を探し出し、証言を得る事ができました。ケニス・ロード医師は、魔力の定着を確認した後、口封じをされたとの事です。私が接触した人物もまた、追われる身であったため、固有名詞の確認は避けました。完全に保護できる準備が整っていなければ、危険と判断したからです。おそらくは、彼以外に、リタが元は闇属性であった事、魔導器官を移植した相手がアシュトンである事を証言できる人物は、残っていないかと思われます」
アシュトンやリタを取り上げた産婆、フレマイア家の乳母の行方を捜しているが、いずれも消息不明。
平民である産婆はともかく、乳母は下位貴族の夫人であったというのに、ある日、突然、姿を消している。
乳母の所在がわかれば、フレマイア侯爵を罪に問いやすくなるのだが、まだ、見つかっていない。
そう説明を加えると、父は溜息を吐いて腕を組み、こちらを睥睨した。
その眼差しは厳しく、決して、好意的なものではない。
「……それで? その話をして、お前はどうしたいのだ? 王太子の座に名乗りを上げようとでもいうのか?」
「父上……!」
兄上が、咎めるように父を呼ぶ。
あぁ……やはり、父はずっと、俺の真意を疑っていたのか。
……わかっている。
父にとって大切なのは、愛したアラーナ様との子であるクリフォード兄上だけである事は。
わかってはいたけれど……胸のどこかが軋む音がした。
膝の上に置いた手に、知らず、力が入る。
強張って冷え切った手の甲に温もりを感じて目を遣ると、リタの小さな手がそっと重なっていた。
(……俺が傷ついたと思って、慰めてくれているのか……)
その温もりと、こちらを一瞥もせずにまっすぐ前を見据えたリタの姿が、心を落ち着けてくれる。
「……違います。兄上が父上の跡を継ぐ事は、私にとっても最大の願いです。ですが……今の私には、もう一つの願いがあります。その願いを、叶えていただきたいのです」
「もう一つの願いだと?」
「リタの安全です」
「フレマイア嬢の安全? だが、彼女は王族の婚約者、ひいては王族となるのだ。フレマイア侯爵といえども、容易には手を出せんからこそ、今も無事なのだろう?」
「これまで、数多くの証人を消してきたフレマイア侯爵が、アシュトンの秘密の最大の証拠となるリタを生かしておいたのは、」
一度、言葉を切って目を閉じる。
この事を告げるのは、少しばかり勇気が要った。
「……兄上の立太子が無事に成立したら、リタとの婚約は破棄すると、私と口約束を交わしていたからです」
婚約破棄後、王家と関係のないところで処分できると思っていたから。
「なんだと⁉ お前は、なんて事を……!」
母の事があってから、政略結婚を疎むどころか憎むほどになっていた父。
俺とリタの婚約を認めたのは、ひとえに兄上のために過ぎない。
人生を左右する約束を安易に破棄しようとしていた俺に対して、憤りを覚えるのも当然だ。
だが。
「父上」
そう、父に静かに声を掛けたのは、兄上だった。
「……」
「父上。言葉にせねば伝わりませんよ」
黙り込む父にそう告げると、兄上は俺に顔を向け、少し寂しそうに笑った。
「お前には、うまく伝わっていなかったようだがな。父上も私も、お前が身を引く事を望んでいたわけではない。王太子の座を望むというのならば、それでもよかった」
「⁉」
「もちろん、私も譲るつもりはない。正々堂々と王太子の座を巡って争い、実力で勝ち取るつもりでいたさ。私にだって、その程度の自負はある。……お前は、幼い頃から聞き分けがよかったな。いつもにこにこと愛想のよい笑みを振りまいて、与えられるものに不満を漏らさず、父上達の望む通りに勉学に励み、求められる側妃の息子、第二王子の役割を果たし続けた。そんなお前を見て、我儘の一つも言ってくれない、と母上が寂しがっていた事にも気づいていないだろう?」
「アラーナ様が……?」
物心ついた時には、己の立場を嫌というほど理解していた。
母を嫌い、リーストーム公爵家の横暴に憤りを抱えていた者達は、王城の内部にも多数存在していたから。
俺が生かされているのは、兄上の命を守るため。
王族の名に相応しく振る舞う一方で、決して兄上よりも目立ってはいけない。
一つでも何か間違えたら、捨てられる。
そうして縮こまっていた俺を、もどかしく思っていたのだと……兄上は、そう言った。
「だから、お前が『婚約を結びたい相手がいる』と言った時には、内心、歓喜した。お前が何かを、誰かを望むなんて、初めてだったからな。ようやく、欲しいものができたのか、と嬉しかった。だが……その婚約は、私の立太子を後押しするためとしか思えないもので……」
兄上が、リタにちらりと視線を流す。
『白の令嬢』は、王族の婚約者として相応しくない、と兄上は判断していたという事。
それは、俺も同じだ。
「お前が、自分の心を殺して私の犠牲になっているのではないかと心が痛んだ。だが、実際に会って話をしたフレマイア嬢は聡明な令嬢で、私は自分の中に偏見があった事に気がついた。実際に白の者と対面した事はなかったのにな。なぜ、そのように思い込んでいたのか。母上から、人の価値は魔力だけではない、と散々聞いていた筈なのに。さすが、ルシアンだと思ったよ。お前は誰が何を言わずとも、魔力以外の価値を理解していたのだな、と……」
「それは違います。私がリタとの婚約を結んだのは、兄上の想像なさった通りの理由です。私は身勝手な理由でリタを望みました。そして、身勝手な理由で、リタとの婚約を破棄するつもりでいました。私は……生涯、結婚するつもりはなかったので」
「なかった、という事は過去形だな。今は?」
兄上が、答えは知っている、とばかりに俺の顔を見る。
そっと外されようとしたリタの手を、俺は逆に握り返した。
「リタと、この先の未来を歩んでいきたいと願っております」
例え、どこで生きていくとしても。
リタが隣にいてくれれば、それでいいと思うようになったから。
「当初の口約束を違えて、婚約を破棄しないとなると、フレマイア侯爵がフレマイア嬢の命を狙うと思っているのか?」
「はい。……これまでの、リタの扱いを見る限りでは、まず間違いないかと」
リタの過去の人生がそうだったから、とは説明できないが、兄上は大きく頷いた。
「まぁ……確かに、危ない橋ではあるな。何よりも雄弁な証拠を、王家の手に渡す事になるのだから」
「それと……もう一点、お伝えしておかねばならない事が」
今度は、父の顔をまっすぐに見て告げる。
「リタは、光属性の者の魔力量に影響を与える可能性があります」
「どういう事だ?」
レキサンド伯爵令嬢とともに辺境を回った一ヶ月半の間に、随行していた光属性の者達の魔力量が増大した事。
増大した量には個人差があるが、リタと過ごした時間の長い者の方がより多く変化している事。
他の属性に影響を与えている様子はない事。
「詳しい事は、王宮魔法師の調査に委ねたいと思っています。もしも、本当にただ、リタとともに過ごすだけで魔力量が増大するのであれば、治癒魔法師の増員に極めて有用でしょう。そして、結果が出れば、白の者達の印象もよくなると考えられます」
父と兄上が顔を見合わせて、こくりと頷く。
国のこの先を考える為政者の顔で。
「ですが、」
この先が、重要だ。
「私はリタに、『国のためになるのだから』と一方的に命令し、協力を要請したくはありません」
訝しげな顔で、父達がこちらを見る。
「だが、フレマイア嬢に活躍の場ができ、目に見える成果が出せれば、お前の妃として反対する者はなかろう。白の者がシャルイナの王族になるのは史上初。十分に注目を浴びる。白の者の地位向上にもなるのではないか?」
「そもそも、そこがおかしいのです。我が国で白の者の地位が低いのは、魔力を絶対的なものとして扱っているからです。すべての道具が魔力を必要とし、就職も出世も、魔力量の多寡に左右されています。フレマイア侯爵がアシュトンの手術に踏み切った理由も、彼が高位貴族の令息としてはありえないほどに少ない魔力の持ち主だったからです。フレマイア侯爵は、魔力偏重のシャルイナでは、アシュトンが生き延びられないと考えたのでしょう。しかし、魔力は人を構成する要素の一つに過ぎない。他の能力と同じです。得手な者はそれを誇り、磨けばいいし、不得手な者は他に得意な能力を伸ばせばいい」
一度、リタに視線を向けて。
「私が幼い頃、アラーナ様が話してくださいました。『魔法は便利ですが、人には手があり、足があり、頭があります。魔力に頼らず生きる方法を知る事も、大切なのですよ』と。ラーメルには、魔力で起動する以外の道具もあると聞きました。シャルイナよりもリタにとって暮らしよいのであれば、ラーメルに移住する事も考えております。いえ、ラーメルに限定せず、他の国でも構いません」
「国を出ると申すか……⁉」
「父上にご迷惑をお掛けする事はいたしません。エバーレストの名を捨てても構わないのです。貴族の籍があれば便利でしょうが、平民であっても、騎士に登用されるのはそう難しい話ではないと自負しております。彼女が、日の当たるところを歩いていけるのであれば、私はどんな労苦も厭いません」
リタはまだ、俺とともに未来を歩んでくれ、と請うた言葉に返事をくれていない。
だから、伴侶としてリタの隣に立つ事はできないかもしれない。
それでも。
リタが、その手に幸せを掴むまでは、俺が守ると決めている。
「兄上」
平民になるのも厭わないと聞いて、唖然とした顔の兄上に、微笑みかける。
「兄上は、私が幼い頃、何も欲しがらなかったと思われていたようですが、それは違います」
「……何?」
「私は、平穏な日々が欲しかったのです。ここにいていい、と思える居場所が。そして、己の欲するものを得るために、行動してきました。ですから、兄上が負い目を感じるような事は何もありません。ただ……リタと出会い、彼女を知り、私にとっての一番が変わっただけの事です」
「ルシアン……」
「リタが、笑顔でいられる毎日が欲しい。それが、今の私の願いです」
きっぱりと言い切ると、リタの手を、ぎゅっと強く握り直す。
俺が本気なのだと、彼女の幸せを何よりも願っているのだと、少しでも伝わればいい、と思いながら。
家族とはいえ、父も兄上も多忙の身。
なかなか、時間を合わせてもらう事は難しい。
それでも、「婚約者に関してご相談したい事があります。先日、遠出して調査した内容も含みます」と伝えたところ、即、日程調整をしてくれた。
父とリタが会ったのは、婚約式の一度きり。
兄上とリタに関しても、先日の茶会の一度きり。
六年も婚約しておきながら、彼らにとってもリタは謎の令嬢のままだ。
王家の私的な応接室。
一人掛けのソファに父が、その横の二人掛けのソファに兄上が、向き合う位置に置かれたソファに俺とリタが腰を掛けると、まず、口火を切ったのは父だった。
「よく来てくれた、フレマイア嬢。改めて、ルシアンとの婚約関係を続けてくれている事に感謝する」
父は、俺とリタが卒業パーティ直前まで没交渉で来た事を知っている筈だ。
今の言葉には、俺の不義理に対して、リタが、フレマイア侯爵が、なんの不満も漏らさなかった事を指しているのだろう。
父もまた、過去の俺同様、リタがアシュトンと同じようにフレマイア侯爵夫妻に大切にされている娘だと思っているから。
ちら、と横目でリタを見ると、軽く頷いてくれる。
今回、父達と面会するにあたって、リタといくつか約束をした。
リタが人生を繰り返している事は、秘密にする事。
それ以外は――魔導器官の移植手術を含め――隠し立てせず、明かす事。
フレマイア侯爵への免罪は、求めない事。
最後の項目は俺自身の希望ではあったが、フレマイア侯爵は曲がりなりにもリタの父親だ。
本当にそれでいいのかと確認したけれど、リタは穏やかな顔で頷いた。
「フレマイア家の人々は、わたくしの家族ではありませんでしたから」
今回の人生に限らず、リタはずっと、本邸で暮らした事がないのだという。
過去の三回の人生では、侯爵令嬢に相応しい身なり、家具、調度品を手にしてはいたものの、食事は別で、社交に招かれた先に訪れる馬車も別。
アシュトンとともにアカデミーに通っていた時期も、それぞれに馬車が用意されていたというのだから、徹底している。
余程、リタとアシュトンを疎遠なままにいさせたかったのだと思われる。
フレマイア侯爵夫人とは、四回の人生すべてを合わせても、顔を見たのは片手に数えるほど。
それもすべて、社交の場にフレマイア家が一家で招かれた時の話で、言葉を交わした事はない。
「わたくしが白の娘だから、仕方のない事だと思っておりました。ですが、その原因を知り、誰もわたくしに感謝も謝罪もしない事を理解してしまえば、彼らに家族どころか人としての情も湧きません」
魔導器官の移植手術そのものは、違法ではない。
研究が途中で封印され、論文が禁書になったが、法律上、「禁止する」と明文化するだけの材料が不足していたからだ。
実際の術式を把握しているのが、考案者であるケニス・ロードしかいなかったのも理由の一つだろう。
だから、魔導器官の移植手術を強要したとして、フレマイア侯爵を罪に問う事はできない。
しかし。
「兄の事、手術の事を口外させないために、多くの使用人が姿を消しました。貴族が平民を害しても、大きな罪に問えない事は存じております。けれど、騎士団を率いる立場として清廉潔白を求められる身の上では、醜聞となるのではないでしょうか。父には、犯した罪に相応しい罰を受けて欲しいと願っております」
姿を消した使用人達に手を下したのがフレマイア侯爵である、との決定的な証拠を掴むには、時間が経ち過ぎている。
だが、圧を掛ける事はできる筈。
こくり、と喉を鳴らしてから、父の顔をまっすぐに見つめて切り出す。
「父上。まず、リタの抱える事情から、説明させていただきたいと思います」
「フレマイア嬢の事情?」
時折、リタに視線で確認しながら、できるだけ私情を挟まないように冷静に伝えていく。
リタは、闇属性を持って誕生した事。
戸籍上、母親はフレマイア侯爵夫人となっているが、その可能性は低いと考えられる事。
フレマイア家の領地ダナイドの離れで、メイドと二人、教育を受ける事もなく生活していた事。
リタが九歳の時に、ケニス・ロード医師により手術を受けている事。
なんの手術か説明は受けていないが、術後、髪が真っ白に変化した事。
ケニス・ロード医師は、魔導器官を移植する事により、魔力量を増大させる研究をしていた研究者である事。
移植手術の相手は、フレマイア侯爵令息であるアシュトンの可能性が高い事。
術後、侯爵夫妻とアシュトンは王都に居を移したが、リタは一人、捨て置かれていた事。
王太子妃に相応しくない令嬢との婚約を望んでいた俺に、フレマイア侯爵自ら、リタを売り込んで来た事。
父の顔つきが段々と険しくなり、兄上の顔に呆れの色が濃くなっていく。
「……なるほどな」
先に口を開いたのは、兄上だった。
「道理で。時折、魔法騎士団でアシュトン・フレマイアの鍛錬を見ているが、フレマイア侯爵と比較すると、恵まれた魔力量を活かせていない、と感じていた。病弱だったと聞いていたし、成長期に魔力量が爆発的に増えた人間にありがちな事ではあるから、彼もそのうちの一人なのだろうと思っていたが……そもそもが、彼自身の魔力ではなかったという事か。持て余しているんだな」
俺が感じていた違和感を、兄上もアシュトンに対して抱いていたらしい。
「ルシアン。証拠はあるのか。今の発言だけでは、フレマイア侯爵に対する誹謗中傷と捉えられても仕方がないぞ」
父の言葉に、俺は首を横に振った。
「物的な証拠となると、難しいです。リタの胸に手術の痕が残っていますが、魔導器官の移植手術の際についたものではない、と言い逃れはできるでしょうから」
「手術の痕……? まさか、治癒魔法を使わなかったと……?」
「手術自体が、極秘のものです。手術が行われた当時、ダナイドのフレマイア邸に奉公に上がっていた使用人は、全員が命を落とすか所在不明になっております」
「……!」
父達の顔に、衝撃が走る。
「先日、ケニス・ロード医師の関係者を探し出し、証言を得る事ができました。ケニス・ロード医師は、魔力の定着を確認した後、口封じをされたとの事です。私が接触した人物もまた、追われる身であったため、固有名詞の確認は避けました。完全に保護できる準備が整っていなければ、危険と判断したからです。おそらくは、彼以外に、リタが元は闇属性であった事、魔導器官を移植した相手がアシュトンである事を証言できる人物は、残っていないかと思われます」
アシュトンやリタを取り上げた産婆、フレマイア家の乳母の行方を捜しているが、いずれも消息不明。
平民である産婆はともかく、乳母は下位貴族の夫人であったというのに、ある日、突然、姿を消している。
乳母の所在がわかれば、フレマイア侯爵を罪に問いやすくなるのだが、まだ、見つかっていない。
そう説明を加えると、父は溜息を吐いて腕を組み、こちらを睥睨した。
その眼差しは厳しく、決して、好意的なものではない。
「……それで? その話をして、お前はどうしたいのだ? 王太子の座に名乗りを上げようとでもいうのか?」
「父上……!」
兄上が、咎めるように父を呼ぶ。
あぁ……やはり、父はずっと、俺の真意を疑っていたのか。
……わかっている。
父にとって大切なのは、愛したアラーナ様との子であるクリフォード兄上だけである事は。
わかってはいたけれど……胸のどこかが軋む音がした。
膝の上に置いた手に、知らず、力が入る。
強張って冷え切った手の甲に温もりを感じて目を遣ると、リタの小さな手がそっと重なっていた。
(……俺が傷ついたと思って、慰めてくれているのか……)
その温もりと、こちらを一瞥もせずにまっすぐ前を見据えたリタの姿が、心を落ち着けてくれる。
「……違います。兄上が父上の跡を継ぐ事は、私にとっても最大の願いです。ですが……今の私には、もう一つの願いがあります。その願いを、叶えていただきたいのです」
「もう一つの願いだと?」
「リタの安全です」
「フレマイア嬢の安全? だが、彼女は王族の婚約者、ひいては王族となるのだ。フレマイア侯爵といえども、容易には手を出せんからこそ、今も無事なのだろう?」
「これまで、数多くの証人を消してきたフレマイア侯爵が、アシュトンの秘密の最大の証拠となるリタを生かしておいたのは、」
一度、言葉を切って目を閉じる。
この事を告げるのは、少しばかり勇気が要った。
「……兄上の立太子が無事に成立したら、リタとの婚約は破棄すると、私と口約束を交わしていたからです」
婚約破棄後、王家と関係のないところで処分できると思っていたから。
「なんだと⁉ お前は、なんて事を……!」
母の事があってから、政略結婚を疎むどころか憎むほどになっていた父。
俺とリタの婚約を認めたのは、ひとえに兄上のために過ぎない。
人生を左右する約束を安易に破棄しようとしていた俺に対して、憤りを覚えるのも当然だ。
だが。
「父上」
そう、父に静かに声を掛けたのは、兄上だった。
「……」
「父上。言葉にせねば伝わりませんよ」
黙り込む父にそう告げると、兄上は俺に顔を向け、少し寂しそうに笑った。
「お前には、うまく伝わっていなかったようだがな。父上も私も、お前が身を引く事を望んでいたわけではない。王太子の座を望むというのならば、それでもよかった」
「⁉」
「もちろん、私も譲るつもりはない。正々堂々と王太子の座を巡って争い、実力で勝ち取るつもりでいたさ。私にだって、その程度の自負はある。……お前は、幼い頃から聞き分けがよかったな。いつもにこにこと愛想のよい笑みを振りまいて、与えられるものに不満を漏らさず、父上達の望む通りに勉学に励み、求められる側妃の息子、第二王子の役割を果たし続けた。そんなお前を見て、我儘の一つも言ってくれない、と母上が寂しがっていた事にも気づいていないだろう?」
「アラーナ様が……?」
物心ついた時には、己の立場を嫌というほど理解していた。
母を嫌い、リーストーム公爵家の横暴に憤りを抱えていた者達は、王城の内部にも多数存在していたから。
俺が生かされているのは、兄上の命を守るため。
王族の名に相応しく振る舞う一方で、決して兄上よりも目立ってはいけない。
一つでも何か間違えたら、捨てられる。
そうして縮こまっていた俺を、もどかしく思っていたのだと……兄上は、そう言った。
「だから、お前が『婚約を結びたい相手がいる』と言った時には、内心、歓喜した。お前が何かを、誰かを望むなんて、初めてだったからな。ようやく、欲しいものができたのか、と嬉しかった。だが……その婚約は、私の立太子を後押しするためとしか思えないもので……」
兄上が、リタにちらりと視線を流す。
『白の令嬢』は、王族の婚約者として相応しくない、と兄上は判断していたという事。
それは、俺も同じだ。
「お前が、自分の心を殺して私の犠牲になっているのではないかと心が痛んだ。だが、実際に会って話をしたフレマイア嬢は聡明な令嬢で、私は自分の中に偏見があった事に気がついた。実際に白の者と対面した事はなかったのにな。なぜ、そのように思い込んでいたのか。母上から、人の価値は魔力だけではない、と散々聞いていた筈なのに。さすが、ルシアンだと思ったよ。お前は誰が何を言わずとも、魔力以外の価値を理解していたのだな、と……」
「それは違います。私がリタとの婚約を結んだのは、兄上の想像なさった通りの理由です。私は身勝手な理由でリタを望みました。そして、身勝手な理由で、リタとの婚約を破棄するつもりでいました。私は……生涯、結婚するつもりはなかったので」
「なかった、という事は過去形だな。今は?」
兄上が、答えは知っている、とばかりに俺の顔を見る。
そっと外されようとしたリタの手を、俺は逆に握り返した。
「リタと、この先の未来を歩んでいきたいと願っております」
例え、どこで生きていくとしても。
リタが隣にいてくれれば、それでいいと思うようになったから。
「当初の口約束を違えて、婚約を破棄しないとなると、フレマイア侯爵がフレマイア嬢の命を狙うと思っているのか?」
「はい。……これまでの、リタの扱いを見る限りでは、まず間違いないかと」
リタの過去の人生がそうだったから、とは説明できないが、兄上は大きく頷いた。
「まぁ……確かに、危ない橋ではあるな。何よりも雄弁な証拠を、王家の手に渡す事になるのだから」
「それと……もう一点、お伝えしておかねばならない事が」
今度は、父の顔をまっすぐに見て告げる。
「リタは、光属性の者の魔力量に影響を与える可能性があります」
「どういう事だ?」
レキサンド伯爵令嬢とともに辺境を回った一ヶ月半の間に、随行していた光属性の者達の魔力量が増大した事。
増大した量には個人差があるが、リタと過ごした時間の長い者の方がより多く変化している事。
他の属性に影響を与えている様子はない事。
「詳しい事は、王宮魔法師の調査に委ねたいと思っています。もしも、本当にただ、リタとともに過ごすだけで魔力量が増大するのであれば、治癒魔法師の増員に極めて有用でしょう。そして、結果が出れば、白の者達の印象もよくなると考えられます」
父と兄上が顔を見合わせて、こくりと頷く。
国のこの先を考える為政者の顔で。
「ですが、」
この先が、重要だ。
「私はリタに、『国のためになるのだから』と一方的に命令し、協力を要請したくはありません」
訝しげな顔で、父達がこちらを見る。
「だが、フレマイア嬢に活躍の場ができ、目に見える成果が出せれば、お前の妃として反対する者はなかろう。白の者がシャルイナの王族になるのは史上初。十分に注目を浴びる。白の者の地位向上にもなるのではないか?」
「そもそも、そこがおかしいのです。我が国で白の者の地位が低いのは、魔力を絶対的なものとして扱っているからです。すべての道具が魔力を必要とし、就職も出世も、魔力量の多寡に左右されています。フレマイア侯爵がアシュトンの手術に踏み切った理由も、彼が高位貴族の令息としてはありえないほどに少ない魔力の持ち主だったからです。フレマイア侯爵は、魔力偏重のシャルイナでは、アシュトンが生き延びられないと考えたのでしょう。しかし、魔力は人を構成する要素の一つに過ぎない。他の能力と同じです。得手な者はそれを誇り、磨けばいいし、不得手な者は他に得意な能力を伸ばせばいい」
一度、リタに視線を向けて。
「私が幼い頃、アラーナ様が話してくださいました。『魔法は便利ですが、人には手があり、足があり、頭があります。魔力に頼らず生きる方法を知る事も、大切なのですよ』と。ラーメルには、魔力で起動する以外の道具もあると聞きました。シャルイナよりもリタにとって暮らしよいのであれば、ラーメルに移住する事も考えております。いえ、ラーメルに限定せず、他の国でも構いません」
「国を出ると申すか……⁉」
「父上にご迷惑をお掛けする事はいたしません。エバーレストの名を捨てても構わないのです。貴族の籍があれば便利でしょうが、平民であっても、騎士に登用されるのはそう難しい話ではないと自負しております。彼女が、日の当たるところを歩いていけるのであれば、私はどんな労苦も厭いません」
リタはまだ、俺とともに未来を歩んでくれ、と請うた言葉に返事をくれていない。
だから、伴侶としてリタの隣に立つ事はできないかもしれない。
それでも。
リタが、その手に幸せを掴むまでは、俺が守ると決めている。
「兄上」
平民になるのも厭わないと聞いて、唖然とした顔の兄上に、微笑みかける。
「兄上は、私が幼い頃、何も欲しがらなかったと思われていたようですが、それは違います」
「……何?」
「私は、平穏な日々が欲しかったのです。ここにいていい、と思える居場所が。そして、己の欲するものを得るために、行動してきました。ですから、兄上が負い目を感じるような事は何もありません。ただ……リタと出会い、彼女を知り、私にとっての一番が変わっただけの事です」
「ルシアン……」
「リタが、笑顔でいられる毎日が欲しい。それが、今の私の願いです」
きっぱりと言い切ると、リタの手を、ぎゅっと強く握り直す。
俺が本気なのだと、彼女の幸せを何よりも願っているのだと、少しでも伝わればいい、と思いながら。
532
お気に入りに追加
923
あなたにおすすめの小説
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……
藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」
大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが……
ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。
「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」
エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。
エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話)
全44話で完結になります。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
幸せは、歩いて来ない。ならば、迎えに行きましょう。
緋田鞠
恋愛
【完結】 『もしも、あの時、あの決断をしていなければ』。誰しも一度くらいは、考えた事があるのではないだろうか。
不仲の夫に突き飛ばされ昏倒した事で、実加と言う名で生きた人生を思い出した男爵家の娘ミカエラ。実加もまた、夫にモラハラを受け、不幸な結婚生活を送っていた。疎遠になっていた幼馴染の公爵ダリウスとの再会をきっかけに、実加のように人生を諦めたくない、と決意したミカエラは、離婚、自立への道を歩み始める。「可愛い妹分だから」と、ミカエラを何かと気に掛けるダリウスに対し、募っていく恋心。身分差を理由に距離を置かざるを得なかった彼への想いは、ミカエラを変えていく。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる