3 / 16
冷たい現実
しおりを挟む
机の上で携帯が鳴ってる。頭が痛く、重い身体で腕を伸ばした先で触れた画面から心配そうな龍也の声が聞こえて来る。
「ヒロ、大丈夫か?」
「・・・・・・」
「ヒロ、聞いてるか?」
「ああ・・・すまん。」
「ほんとに大丈夫なのか?担任には俺が話しておいた。明日はどうする?」
「・・・・・当分休むって言っておいてくれるか」
「それは、いいけど・・・ヒロ、昨日何があったんだ?」
「・・・・・」
「ヒロ・・・・」
「龍也・・・サンキュ。昼休みも終わりだろ!切るぞ!またな。」
画面に触れた指と共に通話中からホーム画面に変わり静かになった。
仕方なく起き上がった俺は空腹に負けキッチンに向かう。
料理なんかあまりした事がない。直ぐに食べれそうな物を探していたら、冷凍庫に母の作り置き料理がまだ、残っていた。
あれから何日たった?食べれなくなったおかずを処分しながら、頬を流れる涙に体がやっと悲しみに追いついたんだと思った。
今まで作ってくれた料理に感謝なんかしたことなかった。俺が食べてなくても、もう愚痴をこぼす母の声も、そんな母を慰めてる父の声も、文句を言う妹の声も聞くこともできない。
ほんとに俺は一人になってしまったんだと。
一人になってみて解るなんて、俺ってダメな奴だ。そんなダメな俺でもこれからの事を考えないといけない。
いつまでも寂しさに負けていても誰も助けてはくれない動き出さないと!!
先ずは働かないといけない。保険金とか貯金とかあるけど、生活費だけじゃなく、来年には高校だし、入学金やら物入りだ。
一人で生きていくと決めたんだから。
卵とウインナーだけの簡単な食事を済ませ、本屋で求人雑誌を買い求めた。
子供達が賑やかに遊ぶ公園で俺は、紙面に目を走らせバイト先を探す。いくつか印をつけたところに行ってみたけど、どこでも同じ扱いを受ける。
俺が見た目は大人に見えるが、正直に年齢を告げると誰もが顔をしかめ、首を横に振る。
年齢を誤魔化したほうが良かったのだろうか?繁華街の店だとあまり詳しくは聞かれないだろうから大丈夫の様な気がする。
明日は夜に探してみようと、気づけばあたりはもう真っ暗!!
着崩した格好の男や着飾って男達の腕にぶら下がり笑ってる女達。
いい年をしたサラリーマン風の男が、俺と変わらないぐらいの男の腰に腕を回し、俺の前を通り過ぎていく。
俺も男でもナンパするのもありか?恋愛対象が男だと気づいても経験はない。
そんなことを過ぎゆく人を見ながら思う。出来もしないくせに・・・・そんな事を考えていた俺に
「君、一人。誰かと待ち合わせかな?」
そんな声が俺の思考を現実に引き戻した。顔を上げた先にはGパンを履いた背の高い20代の男がいた。
その男は、自分を見てるだけで返事をしない俺に重ねて
「3万でどうかな?」
俺は、現実に引き戻されたと感じたが、実際はまだ、思考停止状態のままだったみたいだ。
「5万なら」
と、返していた。
「解った。じゃ~行こうか」
何故、俺はあんな返事を返したんだろう。何故、俺はこの男について行くんだろう、出来もしないのにと思っていたではないか・・・。
もう、考えるのはよそう。疲れた。
ホテルにはいるまで、俺たちは何も話さなかった。話す必要もなかった。
ただ、金で買われた少年と、買った男。それだけの間柄だからだ。
「シャワーは?」
安っぽい部屋だった。
ただ、性交渉のみを行うだけの、部屋。
「どっちでもいいよ。」
もう、開き直ったというか、どうでもよかった。
「一緒に入ろう。」
男はクスクス笑いながらそう言った。
「OK」
俺はそう答えると、ガラス張りのバスルームに足を向けた。腰には男の腕が回っている。
シャワーヘッドから俺の体へと流れる暖かい水。男の手が泡にまみれ俺の体を滑っていくが、冷え切った心までは暖かくならない。
多分、抱く為の、抱かれる為の準備を男の手は俺の体に施していく。不思議と嫌悪感も違和感も感じない。男が施す事は慣れたもので、不思議と体は快感を感じている様だ。
キシッと安っぽい音を立てるベッドの上、全裸の男が二人、ベットに片膝を乗せ、俺を組み敷く男、見ず知らずの男。
今宵一夜、全てを忘れてただ快楽のみを貪ろうとする男。
男も女も知らない俺には、全てが初めての感覚。
視線を窓に向ければほのかな明かりのもとガラスに映される、ベットの上で折り重なる2人。
その一人が俺なんだと、不思議な気持ちで眺めていた。感情が伴わなくても、身体は簡単に欲望に従順だ。
そんな俺を眺め、男が満足そうに微笑む。まるで俺を支配したかのように、俺には感じられた。
男は、ぐったりとベットに沈む俺をそのままにシャワールームに消えていった。一人残された俺は、笑っていたかもしれない。
男に抱かれるなんて、たいした事じゃない。簡単な事だ。俺は、何も変わっていない。言い聞かすように心の声が繰り返される。
それからの俺は、数日休みはしたが学校に行き、それまでと変わりない生活を送っている。
時々、夜にふらりと出掛けては男の身体を欲しがる男達を渡り歩く生活が当たり前のようになっていった。
少しずつ俺の心が凍りついていくのに気づきつつあるが無視を決め込んだ。その方が、傷つかなくていいから。
現実から逃げてばかりの俺がいた。
「ヒロ、大丈夫か?」
「・・・・・・」
「ヒロ、聞いてるか?」
「ああ・・・すまん。」
「ほんとに大丈夫なのか?担任には俺が話しておいた。明日はどうする?」
「・・・・・当分休むって言っておいてくれるか」
「それは、いいけど・・・ヒロ、昨日何があったんだ?」
「・・・・・」
「ヒロ・・・・」
「龍也・・・サンキュ。昼休みも終わりだろ!切るぞ!またな。」
画面に触れた指と共に通話中からホーム画面に変わり静かになった。
仕方なく起き上がった俺は空腹に負けキッチンに向かう。
料理なんかあまりした事がない。直ぐに食べれそうな物を探していたら、冷凍庫に母の作り置き料理がまだ、残っていた。
あれから何日たった?食べれなくなったおかずを処分しながら、頬を流れる涙に体がやっと悲しみに追いついたんだと思った。
今まで作ってくれた料理に感謝なんかしたことなかった。俺が食べてなくても、もう愚痴をこぼす母の声も、そんな母を慰めてる父の声も、文句を言う妹の声も聞くこともできない。
ほんとに俺は一人になってしまったんだと。
一人になってみて解るなんて、俺ってダメな奴だ。そんなダメな俺でもこれからの事を考えないといけない。
いつまでも寂しさに負けていても誰も助けてはくれない動き出さないと!!
先ずは働かないといけない。保険金とか貯金とかあるけど、生活費だけじゃなく、来年には高校だし、入学金やら物入りだ。
一人で生きていくと決めたんだから。
卵とウインナーだけの簡単な食事を済ませ、本屋で求人雑誌を買い求めた。
子供達が賑やかに遊ぶ公園で俺は、紙面に目を走らせバイト先を探す。いくつか印をつけたところに行ってみたけど、どこでも同じ扱いを受ける。
俺が見た目は大人に見えるが、正直に年齢を告げると誰もが顔をしかめ、首を横に振る。
年齢を誤魔化したほうが良かったのだろうか?繁華街の店だとあまり詳しくは聞かれないだろうから大丈夫の様な気がする。
明日は夜に探してみようと、気づけばあたりはもう真っ暗!!
着崩した格好の男や着飾って男達の腕にぶら下がり笑ってる女達。
いい年をしたサラリーマン風の男が、俺と変わらないぐらいの男の腰に腕を回し、俺の前を通り過ぎていく。
俺も男でもナンパするのもありか?恋愛対象が男だと気づいても経験はない。
そんなことを過ぎゆく人を見ながら思う。出来もしないくせに・・・・そんな事を考えていた俺に
「君、一人。誰かと待ち合わせかな?」
そんな声が俺の思考を現実に引き戻した。顔を上げた先にはGパンを履いた背の高い20代の男がいた。
その男は、自分を見てるだけで返事をしない俺に重ねて
「3万でどうかな?」
俺は、現実に引き戻されたと感じたが、実際はまだ、思考停止状態のままだったみたいだ。
「5万なら」
と、返していた。
「解った。じゃ~行こうか」
何故、俺はあんな返事を返したんだろう。何故、俺はこの男について行くんだろう、出来もしないのにと思っていたではないか・・・。
もう、考えるのはよそう。疲れた。
ホテルにはいるまで、俺たちは何も話さなかった。話す必要もなかった。
ただ、金で買われた少年と、買った男。それだけの間柄だからだ。
「シャワーは?」
安っぽい部屋だった。
ただ、性交渉のみを行うだけの、部屋。
「どっちでもいいよ。」
もう、開き直ったというか、どうでもよかった。
「一緒に入ろう。」
男はクスクス笑いながらそう言った。
「OK」
俺はそう答えると、ガラス張りのバスルームに足を向けた。腰には男の腕が回っている。
シャワーヘッドから俺の体へと流れる暖かい水。男の手が泡にまみれ俺の体を滑っていくが、冷え切った心までは暖かくならない。
多分、抱く為の、抱かれる為の準備を男の手は俺の体に施していく。不思議と嫌悪感も違和感も感じない。男が施す事は慣れたもので、不思議と体は快感を感じている様だ。
キシッと安っぽい音を立てるベッドの上、全裸の男が二人、ベットに片膝を乗せ、俺を組み敷く男、見ず知らずの男。
今宵一夜、全てを忘れてただ快楽のみを貪ろうとする男。
男も女も知らない俺には、全てが初めての感覚。
視線を窓に向ければほのかな明かりのもとガラスに映される、ベットの上で折り重なる2人。
その一人が俺なんだと、不思議な気持ちで眺めていた。感情が伴わなくても、身体は簡単に欲望に従順だ。
そんな俺を眺め、男が満足そうに微笑む。まるで俺を支配したかのように、俺には感じられた。
男は、ぐったりとベットに沈む俺をそのままにシャワールームに消えていった。一人残された俺は、笑っていたかもしれない。
男に抱かれるなんて、たいした事じゃない。簡単な事だ。俺は、何も変わっていない。言い聞かすように心の声が繰り返される。
それからの俺は、数日休みはしたが学校に行き、それまでと変わりない生活を送っている。
時々、夜にふらりと出掛けては男の身体を欲しがる男達を渡り歩く生活が当たり前のようになっていった。
少しずつ俺の心が凍りついていくのに気づきつつあるが無視を決め込んだ。その方が、傷つかなくていいから。
現実から逃げてばかりの俺がいた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
「短冊に秘めた願い事」
悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。
落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。
……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。
残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。
なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。
あれ? デート中じゃないの?
高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡
本編は4ページで完結。
その後、おまけの番外編があります♡
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか
柚ノ木 碧/柚木 彗
BL
夏休み中に家族で田舎の祖母の家に帰省中、突如Ωになりヒートをおこした僕。
そして豹変したように僕に暴言を吐き、荒れ狂う祖母。
呆然とする父。
何も言わなくなった母。
そして、僕は今、田舎の小さな無人駅で一人立ち尽くしている。
こんな僕だけど、ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか。
初BL&オメガバース連載で、オメガバースは三ヶ月前に知った、超が付く初心者です。
そのため、ふんわり設定です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる