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二章 複雑な恋模様

第四走者、俺

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 クラスメイトの声を聞いた俺らは、一目散に教室を出て亘理くんがいる保健室に向かった。

 ガラガラと優しげな音ではなくガタンッ! という強く開けられたドアの悲鳴が俺らの今の状況と心境をうまく表してくれていたのではないかと思う。

 それくらいまでに今の俺らの心境は驚きと不安で入り乱れていた。
 しかし驚いたのは俺らだけでなく、保健室にいた先生やその場で処置を受けていた亘理くんもまた同じだったようだ。

「静かに開けなさいっ! 驚くでしょっ!」

 普段は気の優しい先生もさすがに怒声を上げる。
 亘理くんは驚いた様子でこちらを見たものの「あはは」と申し訳なさそうに笑ってこちらを見ている。

「ご、ごめんなさい! 先生」

 先生の怒った様子にぴょんとポニーを揺らした悠里はそのまま頭を下げる。
 それに倣って俺と正樹も「すみません」と頭を下げる。

「気をつけてね」

 それだけ言うと先生は亘理くんの処置へと戻る。

「三人とも、本当にごめん」

 申し訳なさを顔一面に表し、亘理くんは頭を下げる。

「足はどうなの?」
「うーーん、なんとも言えないけれど少なからず酷く捻挫していると思うわね、もっと酷ければ骨に異常があるかもしれない」

 亘理くんに代わって先生が答える。

「この様子だと、リレーは流石にキチいな……」

 正樹に悪気があったわけがない。ただ、この発言に対し誰よりも酷く表情を曇らせたのは亘理くんだった。

「本当にごめん……」
「いーや、別に亘理が悪いわけじゃねえからさ、こっちもなんかごめん」
「ありがとう」
「とりあえず俺らは一旦教室に戻るけど、亘理くんは安静にしなよ!」

 俺らが長くこの場にいても亘理くんの罪悪感が増すばかりだと考え、撤退の意を示す。



 

「実際のとこ、どうするよ」
「こればっかりは仕方ないけど代役を入れるしかないな」
「っていってもいきなり参加って言われてもキツいんじゃ……」
「とはいってもこれは団体の種目に当たるわけだしメンバーを変えるしか方法なくねえか?」
「それはそうだけど……」

 どちらの主張も分かる俺としてはなんとも言えない。
 悠里はきっとせっかく四人で練習したのに、いきなりこの四人の中に入ってきて息が合うのかという心配のようなものを抱いているのだろう。

 それに対し正樹は、どのみちやらないって手段を選ばないんだから誰かを代役に入れてやるってことしかないんじゃないかという意見を持っている。

 どちらの主張も奥底、根本の部分には亘理くんに走って欲しかったと言う気持ちがあるのは間違いない。それが分かるだけに俺は意見を言いあぐねていた。

 ただ、俺の意見としてはどちらかと言うと正樹に近いもので、ここで諦めると言う気持ちは毛頭ない。だからこそここは、亘理くんには申し訳ないが誰か入れそうな人を募って走ってもらうことにする。

「どうやら、駿は俺よりの意見っぽいな」
「よく顔だけでわかったな」
「何年友達やってると思ってんだよ」

 軽くデコピンを受ける。
 悠里もそれに納得したのか何も口を出すことはなかった。




「とりあえず、もう一人は俺と悠里に任せて正樹は決勝頑張ってこい」
「悪いな、そっちに参加できなくて」

 そう言うと時間より少し早く正樹は体育館へと向かう。

「さてと、じゃあ俺らは空いているやつにさらっと声かけてみるか」
「うん……」
 悠里は終始浮かなそうな顔だったけれどそればっかりはもう彼女次第だ、本番までにモチベーションが戻ってくれることを願うしかない。


 結果的に言うと補充のメンバーはすぐに見つかった。
 というのも、亘理くんが気を利かせてくれて仲のいい部活のメンバーを紹介してくれた。

 亘理くんの現状を本人から聞いて、参加を表明してくれた。
 ただ、やっぱり問題は……。

「走順だよね~」

 これまでは悠里が一番目、二番目に俺、三番目に正樹、そしてアンカーに亘理くんといったように、アンカーのポジションに亘理くんがいた。

 アンカーは他の人よりも少しだけ距離が長いこともあってサッカーの種目後に参加してもらうのにいきなり長い距離を走るなんてのはさすがに申し訳ないし、本人としても注目の浴びるアンカーをいきなりやるのも申し訳ないとのことで、どこと入れ替えるのかと言う部分が議論の中心になっていた。

「正直な話、一番アンカーを走れるのは駿だろ」
「それは私としてもそう思うな」
「まじか……」

 といったような形で、アンカーのポジションに俺が収まると言う形で話が進む。

「いや、といっても何もなんの確証もなくそういっているわけとかじゃなくて、単純に二走目と四走目の走り出しの位置が同じってことだと適任は駿しかいないだろ」
「うんうん、それに、少しとは言え長くなるんだし素人よりも少しは走ったことのある駿の方が私たちがやるよりいいと思う。ひゅ~っ! 注目の的ですぜ!」
「いや、まあ確かにそうだけど……」
「むしろ、それだけ俺らが信頼してるんだ。お願いだ駿」
「無茶言ってるのはわかってる。だけどお願い駿」

 二人が珍しく真剣な面持ちで俺に頭を下げる。それだけこの二人にとってもこのリレーは重要なものであって、その重要なアンカーを俺に任せると言っているのだ。ここでできないと言うのは流石にダサい。

「しゃーねー、その代わり、俺にトップで回せよ!」
「おう」「うん!」

 そんな形で、実質最終走者と二走目を入れ替える形で決着がつく。








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