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第五章 人身売買
31話
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馬車を降りて入口にいた男の他に別の男がもう二人、シイナたちを連れて森の中を歩いた。どこに行くのだろうと男達の目を盗みながら周りを見渡していると、突然開けた場所に着いた。そこにはポートランド家よりは小さいが、そこそこ大きい屋敷が森の中に隠れるように建っていた。
先頭を歩いていた男が屋敷の入り口に近づくと、決められた合図なのか、リズムに乗ったノックをする。すると扉が少しだけ開き、誰がきたのか確認するように中から顔が現れた。虚な目をした大きな男だった。男の首元には革製の首輪がつけられており、どうみても普通の使用人ではなかった。
男は光が灯らない瞳を入口に立っていた男に向けた後、その後ろにいたシイナ達を一瞥する。そしてそっと中に顔を引っ込めると扉をしっかりと開けた。
男は勝手知ったる様子で開けられた扉から中に入っていく。戸惑う子供達はどうしたらいいのかわからずその場で立ち尽くすが、後ろや横にいた他の男達に「中に入れ」と命令されて、おずおずと歩き出す。ただの扉が大きな口を開けたモンスターのように見えた。この中に入ってしまえば、二度と日の光を見ることができなくなるのではないか、そう思わせるような威圧感を放っていた。
シイナは周りの子供達が動き出したのに合わせるように足を踏み出す。歩きながら手を開いたり握ったりを繰り返す。
まだこの世界のことを何も知らない子供の自分にできることなんてないかもしれない。だけど、助かることを諦めてしまうことだけはしたくなかった。シイナは父であるアルベリヒの元に帰るのだから、と心を強く保つ。
屋敷の中はとても暗かった。外から中が見えないように全ての窓にカーテンがつけられており、日の光が中に入り込まないようになっていた。玄関の正面には二階へと続く階段があり、その階段に等間隔で燭台が置かれていた。玄関の光はその燭台に灯る蝋燭の灯りのみで、広い玄関ホールを照らすにはとてもじゃないが十分とは言えなかった。
ぱたん、と扉が閉じられた音をシイナの耳が拾い、そっと後ろを確認する。怖い顔をした男がちょうどシイナの方を向いており、目が合った。シイナはびくりと体を震わせて、慌てて前を向く。ばくばくと跳ねる心臓がうるさかった。
シイナ達は男達に連れられて二階へと続く階段の下の部分に連れてこられた。そこには隠し通路があり、地下へと続く階段があった。先頭を歩いていた男はその入口に置かれていた、年期の入ったランタンに灯を灯すと地下へと続く階段を降りていく。
子供達も戸惑いながらもその後ろをついて歩く。不用意に立ち止まって男達の機嫌を損ねるのが怖かったのだ。
階段を下りると鍵のついた扉があった。先頭を歩いていた男がその扉の鍵を開けて中へと進む。扉の向こうにはさらに階段が続いていた。既にかなり深いところまできたはずなのに、まだ下にいくのかとシイナの不安はより大きくなる。
さらに地下へと続く階段を下りていく。その先には鉄格子で作られた牢屋がたくさん並んでいた。思わず中を覗くと、虚な瞳で脱力して座る子供や大人がいた。生気のないその様子にシイナは思わず悲鳴をあげそうになった。
シイナはこの光景を知っていた。シイナが孤児院を転々とする中で、ここよりはマシな場所で似たような扱いを受けたことがあったのだ。その時のシイナも明日への希望を抱くことができず、虚な瞳でただ目の前で過ぎていく現実を眺めていることしかできなかった。
震えそうになる体を抱きしめる。大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせながら前の子供について歩く。
とても広い空間に、たくさんの牢屋が並んでいた。シイナがそっと後ろを振り返っても下りてきた階段が見えないほど進んだとき、先頭を歩いていた男が止まった。
「お前から、あー……お前。お前達はここに入れ」
男が振り返って子供達を指差す。虚な瞳をした子供達は慣れたように男の指示に従ったが、怯える子供達は入ることを拒むようにその場に立ち尽くす。この牢屋に繋がれてしまえば、二度と外に出られないことを本能的に悟っているようだった。
「おら、早く入れって」
しかし男はそんな子供達の気持ちをわかっているのか、立ち尽くす子供の一人の服の襟を掴むと強引に中に引き入れた。
どさっと音を立てて牢屋の中で蹲った子供を見た他の子供達も、耐えられなくなったように泣きながらゆっくりと牢屋へと足を向ける。
「初めから言うこと聞いとけばいいんだよ」
男はめんどくさそうに舌打ちをした。その舌打ちにまた子供達はびくりと体を震わせる。
そうしてどんどんと牢屋に子供達を詰め込んでいく。徐々に前にいる子供達が減っていき、やがてシイナの番がやってきた。
「あー、お前達はこっちだ。獣人様は他の奴らと一緒にはすんなってさ」
乱暴に頭を掻き乱しながら男は牢屋のさらに奥を指差す。シイナと一緒にいた他の獣人は指示された場所にゆっくりと歩いていく。そして牢屋に入ると男は鍵を掛け、何事かを呟いた。
ぽわっと淡い光が灯ったかと思うとかちゃりと音がなる。シイナはそれが魔法だと気がついた。
獣人は普通の人よりも力が強い。だから特別に魔法を上から重ねがけをしてより厳重に閉じ込めるのだろう。
シイナはそのことに思い至り思わず眉を顰めた。シイナ自身、力が強い方ではなかったが、これでは逃げ出すことがより難しくなったのではないかと思ったのだ。
男はシイナの表情の変化には気が付かず、残った子供達の振り分けに戻った。シイナは鉄格子の間からそっとその様子を窺う。
泣きじゃくる子供、逃げ出そうとする子供を男達が躾をするように殴りつけている。その様子をシイナは胸が締め付けられるような気持ちで見つめる。
(どうしてこんなことができるんだろう)
シイナ達は特殊ではあるが、少なくともそこのいる子供達は彼らと同じ人間であるはずだ。同じ人間なのに、痛めつける手に容赦はなく、泣きじゃくる子供をあやすこともしない。どうしてそんな酷いことができるのか、シイナには不思議でたまらなかった。
シイナはそっと鉄格子から顔を離す。彼らのこともどうにかしたいが、今は何よりも自分のことだった。どうにかしてここから逃げ出さなければいけないが、どうすればいいのか見当もつかなかった。
「……シイナ?」
その時、名前を呼ばれてシイナははっと顔を上げる。顔を上げて、牢屋の中を見渡すと、隅の方の獣人がシイナの方をじっとみていた。牢屋の隅には蝋燭の灯りが届かないのか、とても薄暗く名前を呼んだのが誰なのか判別できなかった。
そのことをその人も理解しているのか、ゆっくりと前に、灯りの届くところまで出てきた。
「あっ!」
そしてその顔が灯りの元に躍り出ると、シイナは驚いたように声を上げた。
そこにいたのはシイナと同じ髪と瞳の色をした獣人の青年がいた。その青年は仲間からエランと呼ばれていて、シイナが街に出かけた日にシイナのことを攫おうとした人だった。
エランはあの日会った時よりも薄汚れた格好をしており、服もみずぼらしかった。輝くような金髪は長いこと水浴びをしていないのか汚れてくすんでいた。しかしその瞳だけは青々と光っており、ここにいるどの子達もよりもしっかりとした意志を感じた。
「どうして……」
シイナは戸惑った様子で呟く。その声をエランの耳がきちんと拾い上げ、エランはところどころ汚れている顔を歪めた。
「それはこっちのセリフだ。なんで君がここにいるんだ」
エランはシイナの手を取る。痛いくらいに握りしめられたその手をシイナは眉間に皺を寄せて見つめる。その表情にエランはハッとしたように手を離す。そして小さく「ごめん」と言ってそっぽを向いた。
「ううん。大丈夫」
シイナは小さく首を振った。エランはちらりとシイナを見ると、言葉にするのを迷うように口を開いたり閉じたりを繰り返す。そして意を決したようにシイナの方を向く。
「あの男に、売られたのか?」
「うら……?」
エランの言ったことがうまく理解できず、シイナは首を傾げる。そしてその言葉を理解した時、慌てて首を横に振った。
「ち、ちがう……!お父さんは、そんなこと、しない……!」
それは願望にも近い言葉だった。シイナは気がついたらここに連れてこられていたが、それがアルベリヒの命令だとは思いたくなかった。アルベリヒの優しさや温もりを疑いたくなかった。
「たぶん……違う……」
「そうか」
きゅっと服の裾を握って俯いたシイナにエランは小さく答える。そしてエランはシイナの肩を叩く。
「俺はあの男のことを信じていないが、君のことは信じてる。だから今は君の言葉を信じるよ」
エランの言葉がシイナの心の中にスッと入ってくる。その言葉がシイナに勇気をくれる。
シイナは小さく頷くと、手の力を抜いた。
「こっちに来て、今の状況について話そう。ここで立って話してるとどうしても目立つからね」
エランがシイナ越しに男達のいる方を見る。男達はまだ子供達を牢屋に入れるので忙しそうにしており、二人が話している様子は見つかっていなかった。だけど、それも時間の問題だろうとシイナにもわかった。
シイナはエランの言葉に小さく同意するように頷く。そしてエランに牢屋の隅へと連れて行かれる。
この牢屋にはシイナとエランの他にシイナと一緒に牢屋に入れられた獣人と、もとからここにいたであろう四人の獣人が入れられていた。シイナと一緒に来た獣人は牢屋に入れられるなり早々に壁に背を付けて座り込み、馬車の中でしていたように膝の間に顔を伏せていた。他の四人の獣人も似たような姿勢で座っていた。みんなその目に光は灯っていなかった。
その様子にシイナはぞっとするような恐怖を感じながらもエランの後に続いて牢屋の隅に座り込む。牢屋は簡素な石でできており、ごつごつとしたむき出しの石がお尻に当たって痛かった。
牢屋の隅には廊下にある燭台の光が届かないのか、より薄暗く、近くにいるエランの顔もよく見ないと見えないほどだった。
先頭を歩いていた男が屋敷の入り口に近づくと、決められた合図なのか、リズムに乗ったノックをする。すると扉が少しだけ開き、誰がきたのか確認するように中から顔が現れた。虚な目をした大きな男だった。男の首元には革製の首輪がつけられており、どうみても普通の使用人ではなかった。
男は光が灯らない瞳を入口に立っていた男に向けた後、その後ろにいたシイナ達を一瞥する。そしてそっと中に顔を引っ込めると扉をしっかりと開けた。
男は勝手知ったる様子で開けられた扉から中に入っていく。戸惑う子供達はどうしたらいいのかわからずその場で立ち尽くすが、後ろや横にいた他の男達に「中に入れ」と命令されて、おずおずと歩き出す。ただの扉が大きな口を開けたモンスターのように見えた。この中に入ってしまえば、二度と日の光を見ることができなくなるのではないか、そう思わせるような威圧感を放っていた。
シイナは周りの子供達が動き出したのに合わせるように足を踏み出す。歩きながら手を開いたり握ったりを繰り返す。
まだこの世界のことを何も知らない子供の自分にできることなんてないかもしれない。だけど、助かることを諦めてしまうことだけはしたくなかった。シイナは父であるアルベリヒの元に帰るのだから、と心を強く保つ。
屋敷の中はとても暗かった。外から中が見えないように全ての窓にカーテンがつけられており、日の光が中に入り込まないようになっていた。玄関の正面には二階へと続く階段があり、その階段に等間隔で燭台が置かれていた。玄関の光はその燭台に灯る蝋燭の灯りのみで、広い玄関ホールを照らすにはとてもじゃないが十分とは言えなかった。
ぱたん、と扉が閉じられた音をシイナの耳が拾い、そっと後ろを確認する。怖い顔をした男がちょうどシイナの方を向いており、目が合った。シイナはびくりと体を震わせて、慌てて前を向く。ばくばくと跳ねる心臓がうるさかった。
シイナ達は男達に連れられて二階へと続く階段の下の部分に連れてこられた。そこには隠し通路があり、地下へと続く階段があった。先頭を歩いていた男はその入口に置かれていた、年期の入ったランタンに灯を灯すと地下へと続く階段を降りていく。
子供達も戸惑いながらもその後ろをついて歩く。不用意に立ち止まって男達の機嫌を損ねるのが怖かったのだ。
階段を下りると鍵のついた扉があった。先頭を歩いていた男がその扉の鍵を開けて中へと進む。扉の向こうにはさらに階段が続いていた。既にかなり深いところまできたはずなのに、まだ下にいくのかとシイナの不安はより大きくなる。
さらに地下へと続く階段を下りていく。その先には鉄格子で作られた牢屋がたくさん並んでいた。思わず中を覗くと、虚な瞳で脱力して座る子供や大人がいた。生気のないその様子にシイナは思わず悲鳴をあげそうになった。
シイナはこの光景を知っていた。シイナが孤児院を転々とする中で、ここよりはマシな場所で似たような扱いを受けたことがあったのだ。その時のシイナも明日への希望を抱くことができず、虚な瞳でただ目の前で過ぎていく現実を眺めていることしかできなかった。
震えそうになる体を抱きしめる。大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせながら前の子供について歩く。
とても広い空間に、たくさんの牢屋が並んでいた。シイナがそっと後ろを振り返っても下りてきた階段が見えないほど進んだとき、先頭を歩いていた男が止まった。
「お前から、あー……お前。お前達はここに入れ」
男が振り返って子供達を指差す。虚な瞳をした子供達は慣れたように男の指示に従ったが、怯える子供達は入ることを拒むようにその場に立ち尽くす。この牢屋に繋がれてしまえば、二度と外に出られないことを本能的に悟っているようだった。
「おら、早く入れって」
しかし男はそんな子供達の気持ちをわかっているのか、立ち尽くす子供の一人の服の襟を掴むと強引に中に引き入れた。
どさっと音を立てて牢屋の中で蹲った子供を見た他の子供達も、耐えられなくなったように泣きながらゆっくりと牢屋へと足を向ける。
「初めから言うこと聞いとけばいいんだよ」
男はめんどくさそうに舌打ちをした。その舌打ちにまた子供達はびくりと体を震わせる。
そうしてどんどんと牢屋に子供達を詰め込んでいく。徐々に前にいる子供達が減っていき、やがてシイナの番がやってきた。
「あー、お前達はこっちだ。獣人様は他の奴らと一緒にはすんなってさ」
乱暴に頭を掻き乱しながら男は牢屋のさらに奥を指差す。シイナと一緒にいた他の獣人は指示された場所にゆっくりと歩いていく。そして牢屋に入ると男は鍵を掛け、何事かを呟いた。
ぽわっと淡い光が灯ったかと思うとかちゃりと音がなる。シイナはそれが魔法だと気がついた。
獣人は普通の人よりも力が強い。だから特別に魔法を上から重ねがけをしてより厳重に閉じ込めるのだろう。
シイナはそのことに思い至り思わず眉を顰めた。シイナ自身、力が強い方ではなかったが、これでは逃げ出すことがより難しくなったのではないかと思ったのだ。
男はシイナの表情の変化には気が付かず、残った子供達の振り分けに戻った。シイナは鉄格子の間からそっとその様子を窺う。
泣きじゃくる子供、逃げ出そうとする子供を男達が躾をするように殴りつけている。その様子をシイナは胸が締め付けられるような気持ちで見つめる。
(どうしてこんなことができるんだろう)
シイナ達は特殊ではあるが、少なくともそこのいる子供達は彼らと同じ人間であるはずだ。同じ人間なのに、痛めつける手に容赦はなく、泣きじゃくる子供をあやすこともしない。どうしてそんな酷いことができるのか、シイナには不思議でたまらなかった。
シイナはそっと鉄格子から顔を離す。彼らのこともどうにかしたいが、今は何よりも自分のことだった。どうにかしてここから逃げ出さなければいけないが、どうすればいいのか見当もつかなかった。
「……シイナ?」
その時、名前を呼ばれてシイナははっと顔を上げる。顔を上げて、牢屋の中を見渡すと、隅の方の獣人がシイナの方をじっとみていた。牢屋の隅には蝋燭の灯りが届かないのか、とても薄暗く名前を呼んだのが誰なのか判別できなかった。
そのことをその人も理解しているのか、ゆっくりと前に、灯りの届くところまで出てきた。
「あっ!」
そしてその顔が灯りの元に躍り出ると、シイナは驚いたように声を上げた。
そこにいたのはシイナと同じ髪と瞳の色をした獣人の青年がいた。その青年は仲間からエランと呼ばれていて、シイナが街に出かけた日にシイナのことを攫おうとした人だった。
エランはあの日会った時よりも薄汚れた格好をしており、服もみずぼらしかった。輝くような金髪は長いこと水浴びをしていないのか汚れてくすんでいた。しかしその瞳だけは青々と光っており、ここにいるどの子達もよりもしっかりとした意志を感じた。
「どうして……」
シイナは戸惑った様子で呟く。その声をエランの耳がきちんと拾い上げ、エランはところどころ汚れている顔を歪めた。
「それはこっちのセリフだ。なんで君がここにいるんだ」
エランはシイナの手を取る。痛いくらいに握りしめられたその手をシイナは眉間に皺を寄せて見つめる。その表情にエランはハッとしたように手を離す。そして小さく「ごめん」と言ってそっぽを向いた。
「ううん。大丈夫」
シイナは小さく首を振った。エランはちらりとシイナを見ると、言葉にするのを迷うように口を開いたり閉じたりを繰り返す。そして意を決したようにシイナの方を向く。
「あの男に、売られたのか?」
「うら……?」
エランの言ったことがうまく理解できず、シイナは首を傾げる。そしてその言葉を理解した時、慌てて首を横に振った。
「ち、ちがう……!お父さんは、そんなこと、しない……!」
それは願望にも近い言葉だった。シイナは気がついたらここに連れてこられていたが、それがアルベリヒの命令だとは思いたくなかった。アルベリヒの優しさや温もりを疑いたくなかった。
「たぶん……違う……」
「そうか」
きゅっと服の裾を握って俯いたシイナにエランは小さく答える。そしてエランはシイナの肩を叩く。
「俺はあの男のことを信じていないが、君のことは信じてる。だから今は君の言葉を信じるよ」
エランの言葉がシイナの心の中にスッと入ってくる。その言葉がシイナに勇気をくれる。
シイナは小さく頷くと、手の力を抜いた。
「こっちに来て、今の状況について話そう。ここで立って話してるとどうしても目立つからね」
エランがシイナ越しに男達のいる方を見る。男達はまだ子供達を牢屋に入れるので忙しそうにしており、二人が話している様子は見つかっていなかった。だけど、それも時間の問題だろうとシイナにもわかった。
シイナはエランの言葉に小さく同意するように頷く。そしてエランに牢屋の隅へと連れて行かれる。
この牢屋にはシイナとエランの他にシイナと一緒に牢屋に入れられた獣人と、もとからここにいたであろう四人の獣人が入れられていた。シイナと一緒に来た獣人は牢屋に入れられるなり早々に壁に背を付けて座り込み、馬車の中でしていたように膝の間に顔を伏せていた。他の四人の獣人も似たような姿勢で座っていた。みんなその目に光は灯っていなかった。
その様子にシイナはぞっとするような恐怖を感じながらもエランの後に続いて牢屋の隅に座り込む。牢屋は簡素な石でできており、ごつごつとしたむき出しの石がお尻に当たって痛かった。
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