98 / 106
幕章Ⅱ -逢瀬-
蓮見 透 逢瀬④
しおりを挟む
バスに揺られながら、まるで巻き戻しのように元来た道を家に向かう。
でも、それは全く退屈なんかじゃなくて、むしろずっと続いて欲しいと思えるような幸せな時間だった。
「来るときね。編み物でもしようかなって考えてたんだ」
「へー。何作るんだ?」
「誠君の帽子と、マフラーと、セーターと、手袋と……」
「待った。下着までとか言わないよな?」
「…………誠君が欲しいって言うなら、作ってもいいよ?」
さすがに、そこまでは考えていなかったものの、思わず想像してしまい顔の火照りが増していく。
別に、変なことは考えていない。
でも、ほとんど女性としか関わってこなかった上に、父親もいない私にとっては少し刺激的に過ぎたのか恥ずかしさを抑えることができなかった。
(……なんでだろう。抱き着くのとかは、平気なのにな)
ふと湧き上がった疑問。
もしかしたら、それは異性よりも父性というものを強く感じているからなのかもしれない。
誠君自身も、私が川や海でいたずらをした時以外にそういった目を向けてくることはほどんどなかったし。
「いや、下着まではいいや。というか、一つだけでいいよ。たくさんは大変だろ」
「別に、そんなに大変じゃないよ?」
「いいんだ。俺が、何となく嫌なだけさ」
「ふふっ。誠君らしいね」
「そうか?自分じゃよくわからないが」
心を見なくてもわかる。
これは、いらないという本音を隠すための綺麗に取り繕った言葉では無く、純粋に私のことを考えてくれているからこそ出てきた言葉だ。
それに、こういった時に口にする主体はあくまで自分。
私が少しでも責任という名の荷物を持とうとすると絶対にそう言ってきてくれる。
(……こうやって、たくさん見つけていきたいな)
他の誰も知らないこと、私だけが知っていること、それを増やしていきたい。
そして、一緒にいて一番居心地がいいのは私だと、想って貰うのだ。
優しい彼を、自分の重たい愛で無理やり縛りつけるなんてことは、したくないから。
「そういえば、途中でお昼ご飯の材料でも買ってこうか?」
「そうだな。というか、何か家でしたいことあるか?」
「んー、特にはないかな。一緒にいられれば、それでいい」
「…………一応デートの予定だったしな。なんか、映画でも借りてくか」
「あ、それいいかも。うちのテレビ、確か再生機能付いてるやつだし」
誠君なりに今日という日を大事にしてくれているのだろう。
少し考えこんでいたようだった彼が出した提案に、私も同意する。
(なんか、おうちデートって感じだよね)
一緒にご飯を食べて、映画を見る。
悪くない…………いや、とてもいい。
想像するだけで、もう今から楽しさがこみ上げてくるようだった。
「じゃあ、決まりだな。とりあえず、ここら辺の店はあんま知らないから場所は任せるよ」
「うん、ガイドさんは任せて。なんなら、旗でも振って歩こうか?」
「もしやるなら、お子様ランチくらいの目立たない旗にしてくれよ」
「ふふっ、残念。みんなにデートを見せつけてあげたかったのに」
「学校のやつにはあんま見られたくないんんだろ?それはいいのか?」
「それは大丈夫。私、けっこー人の視線には敏感なんだ。きっと、バレるより先に逃げられるよ」
「……そっか」
事実、周りの視線を気にしながらずっと生活してきたので、その方面に関してはかなりの自信がある。
それに、一応帽子も被っているし、メイクも普段とは違う印象を与えるようなものにしているので、遠目から判断するのは容易ではないだろう。
しかし、どうやら誠君は私のことを心配してくれているようだ。
恐らくそれは、学校の人に知られてしまうということに対して向けられたものではない。
きっと、視線を気にして生きてきたという過去を慮ってくれているのだと、なんとなくわかった。
「心配しないで。今は、そのことに感謝してるくらいなんだから」
「……なら、いいんだけどさ」
「ほら、今はそんなこといいから楽しもうよ。せっかくのデートだもん」
悲しませたいわけじゃない、心配させたいわけじゃない。
だから、心臓の音が伝わるように体をさらに近づけていく。
もう私は、大丈夫。
だって、こんなにも楽しくて、こんなにも嬉しくて、今はもう破裂してしまいそうなほどに胸が高鳴っているのだから。
「……………………そうだな」
お互いの温度が触れ合った部分を通して伝わっていく。
ただ無言で、ゆっくりと。
そして、誠君はしばらくしてからそれだけを言うと、そっと私を抱き寄せて、鼓動の音を聞かせてくれた。
まるで、俺も一緒だとでも伝えるように。
でも、それは全く退屈なんかじゃなくて、むしろずっと続いて欲しいと思えるような幸せな時間だった。
「来るときね。編み物でもしようかなって考えてたんだ」
「へー。何作るんだ?」
「誠君の帽子と、マフラーと、セーターと、手袋と……」
「待った。下着までとか言わないよな?」
「…………誠君が欲しいって言うなら、作ってもいいよ?」
さすがに、そこまでは考えていなかったものの、思わず想像してしまい顔の火照りが増していく。
別に、変なことは考えていない。
でも、ほとんど女性としか関わってこなかった上に、父親もいない私にとっては少し刺激的に過ぎたのか恥ずかしさを抑えることができなかった。
(……なんでだろう。抱き着くのとかは、平気なのにな)
ふと湧き上がった疑問。
もしかしたら、それは異性よりも父性というものを強く感じているからなのかもしれない。
誠君自身も、私が川や海でいたずらをした時以外にそういった目を向けてくることはほどんどなかったし。
「いや、下着まではいいや。というか、一つだけでいいよ。たくさんは大変だろ」
「別に、そんなに大変じゃないよ?」
「いいんだ。俺が、何となく嫌なだけさ」
「ふふっ。誠君らしいね」
「そうか?自分じゃよくわからないが」
心を見なくてもわかる。
これは、いらないという本音を隠すための綺麗に取り繕った言葉では無く、純粋に私のことを考えてくれているからこそ出てきた言葉だ。
それに、こういった時に口にする主体はあくまで自分。
私が少しでも責任という名の荷物を持とうとすると絶対にそう言ってきてくれる。
(……こうやって、たくさん見つけていきたいな)
他の誰も知らないこと、私だけが知っていること、それを増やしていきたい。
そして、一緒にいて一番居心地がいいのは私だと、想って貰うのだ。
優しい彼を、自分の重たい愛で無理やり縛りつけるなんてことは、したくないから。
「そういえば、途中でお昼ご飯の材料でも買ってこうか?」
「そうだな。というか、何か家でしたいことあるか?」
「んー、特にはないかな。一緒にいられれば、それでいい」
「…………一応デートの予定だったしな。なんか、映画でも借りてくか」
「あ、それいいかも。うちのテレビ、確か再生機能付いてるやつだし」
誠君なりに今日という日を大事にしてくれているのだろう。
少し考えこんでいたようだった彼が出した提案に、私も同意する。
(なんか、おうちデートって感じだよね)
一緒にご飯を食べて、映画を見る。
悪くない…………いや、とてもいい。
想像するだけで、もう今から楽しさがこみ上げてくるようだった。
「じゃあ、決まりだな。とりあえず、ここら辺の店はあんま知らないから場所は任せるよ」
「うん、ガイドさんは任せて。なんなら、旗でも振って歩こうか?」
「もしやるなら、お子様ランチくらいの目立たない旗にしてくれよ」
「ふふっ、残念。みんなにデートを見せつけてあげたかったのに」
「学校のやつにはあんま見られたくないんんだろ?それはいいのか?」
「それは大丈夫。私、けっこー人の視線には敏感なんだ。きっと、バレるより先に逃げられるよ」
「……そっか」
事実、周りの視線を気にしながらずっと生活してきたので、その方面に関してはかなりの自信がある。
それに、一応帽子も被っているし、メイクも普段とは違う印象を与えるようなものにしているので、遠目から判断するのは容易ではないだろう。
しかし、どうやら誠君は私のことを心配してくれているようだ。
恐らくそれは、学校の人に知られてしまうということに対して向けられたものではない。
きっと、視線を気にして生きてきたという過去を慮ってくれているのだと、なんとなくわかった。
「心配しないで。今は、そのことに感謝してるくらいなんだから」
「……なら、いいんだけどさ」
「ほら、今はそんなこといいから楽しもうよ。せっかくのデートだもん」
悲しませたいわけじゃない、心配させたいわけじゃない。
だから、心臓の音が伝わるように体をさらに近づけていく。
もう私は、大丈夫。
だって、こんなにも楽しくて、こんなにも嬉しくて、今はもう破裂してしまいそうなほどに胸が高鳴っているのだから。
「……………………そうだな」
お互いの温度が触れ合った部分を通して伝わっていく。
ただ無言で、ゆっくりと。
そして、誠君はしばらくしてからそれだけを言うと、そっと私を抱き寄せて、鼓動の音を聞かせてくれた。
まるで、俺も一緒だとでも伝えるように。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる