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幕章Ⅰ -シン・氷室家の人々-
女子会
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家の中に入ると、冷えた空気が体を包み込んでくれてとても気持ちがよかった。
「暑かっただろ?すぐ中にいれられなくて悪いな」
「……ううん、全然大丈夫。そんなことどうでも良くなるくらい、嬉しかったから」
丁寧に描かれたことが容易に伝わってくる私の絵。
嫉妬して怒った顔や、褒められて得意げな顔、たった一回会っただけなのに本当によく特徴が捉えられていると思う。
そしてなにより、早希ちゃんの中で、ちゃんと私が息づいていることがとても嬉しかった。
「透ちゃんは、もう私の才能にメロメロだね」
「あははっ、そうだね。本当に、魅力的な絵だと思うよ」
「ほんとっ!?やったー!」
飛び上がって抱き着いてくる早希ちゃんにバランスを崩しかけると、そっと誠君の手が背中に添えられ、支えてくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
お互いの笑顔が交差し、重なる。
誠君のは、ちょっと苦笑い混じりな気がするけど、それでも幸せに包まれてどうしようもないくらいに心が満たされていく。
「あー!二人ともイチャイチャしてるー」
かけられた言葉に、一瞬のぼせかけていた頭が元に戻る。
ダメだ。今日は、そういったことはある程度抑えないといけないのに。
「おい、言い方」
「ほんとのことじゃん。でも、今日は私の番だからダメだよ?お兄ちゃんは旅行も一緒に行ってたもん」
二人の会話がされているうちに、心を落ち着ける。
元々、早希ちゃんと話したいこともあったので、そちらの方が都合がいいし。
「はいはい。わかったよ」
「透ちゃんも、わかった?」
「……うん。わかった」
「なら、よしっ。行こ?」
手を引かれ、二階への階段を二人で登る。
そして、可愛らしいプレートのかかった部屋の扉を開けると、どうしてか前よりも部屋が片付けられていた。
「あれ?なんか、前より物が少ないね」
「まぁね~。とりあえず、今日は漫画の方はメインじゃないから」
「え?そうなの?」
以前は、止まらない漫画談義がされていたので少し拍子抜けしていると、ニヤニヤとした顔の早希ちゃんが、何故か扉に鍵を掛けた。
「ほら、透ちゃん。レッツ、恋バナだよっ!」
「あー、そういうことね。でも、誠君から聞いてないの?」
「お兄ちゃんに聞いても、全然ウキウキする話してくれないんだもん。透に好きって言った、以上!って感じ」
「はは、それは、うん。誠君らしいね」
あまり、そう言ったことを話すタイプでは無いので、どんな様子だったかが何となくイメージできる。
きっと、早希ちゃんがしつこく聞いてくるのを適当に流しながら、端的に話をしただけなんだろう。
「そうなのっ!どこが好きなのって聞いても、『とりあえず、全部』って言っただけなんだよ?いい事だけど、もうちょっと話してくれてもいいよね」
「…………そう、なんだ」
それは、早希ちゃんが期待していたものとは違うものだったのかもしれない。
だけど、私にはやっぱりとても素敵な言葉で、家族に対しても同じように言ってくれているのが余計に嬉しかった。
「…………他には、何か言ってた?」
「うーん。次のデートプランを聞いたら、『透の行きたいところに行く』とか言ってた」
「っ…………他は?」
「え?あー、恋人らしいことだと何したいって聞いたら、『透のしたいことをする』って言ってた」
「っ…………そっかぁ」
あまりに簡潔すぎて、漠然とし過ぎて、伝わりにくい誠君の話。
でも、一緒の時間を共有してきた私には――私だからこそ、それが彼の優しさをこれ以上無いほどに表していることが伝わってくる。
自分の想いを押し殺して、周りの声を気にして生きることしかできない私に、やりたいことをさせてあげたいという、その気持ちが。
「でも、まぁ。ある意味お兄ちゃんらしくて、安心した。ぜんぜん、なにも変わらなかったから」
「ふふっ。これでも、私は頑張ったんだからね?」
「透ちゃんは頑張ったと思うよ。ほんと、よくぞって感じ」
「あははっ。そうなんだ」
「うん。お兄ちゃん、中学の時も何回か告白されたことあったらしいんだけど、結局一度も付きあったことないし」
その話は初耳だ。
しかし、確かにそう言われると誠君にそういった話があってもぜんぜんおかしくない。
話してみるとノリもいいし、何より優しい。
それに、妹がいるからかわからないけど、細かい変化によく気づいてくれる。
「……………………知ってる範囲でいろいろと教えて貰ってもいい?私も、後で早希ちゃんの聞きたいこと教えるから」
「ふっふっふ。お主も悪よのう」
「いえいえ、お代官様ほどでは」
「「あははっ」」
そして、私達はいろいろなことを話していった。
昔の話や、今の話、これからの話。
たくさんのことを。まるで、本当の姉妹のようにじゃれつき、笑い合いながら。
「暑かっただろ?すぐ中にいれられなくて悪いな」
「……ううん、全然大丈夫。そんなことどうでも良くなるくらい、嬉しかったから」
丁寧に描かれたことが容易に伝わってくる私の絵。
嫉妬して怒った顔や、褒められて得意げな顔、たった一回会っただけなのに本当によく特徴が捉えられていると思う。
そしてなにより、早希ちゃんの中で、ちゃんと私が息づいていることがとても嬉しかった。
「透ちゃんは、もう私の才能にメロメロだね」
「あははっ、そうだね。本当に、魅力的な絵だと思うよ」
「ほんとっ!?やったー!」
飛び上がって抱き着いてくる早希ちゃんにバランスを崩しかけると、そっと誠君の手が背中に添えられ、支えてくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
お互いの笑顔が交差し、重なる。
誠君のは、ちょっと苦笑い混じりな気がするけど、それでも幸せに包まれてどうしようもないくらいに心が満たされていく。
「あー!二人ともイチャイチャしてるー」
かけられた言葉に、一瞬のぼせかけていた頭が元に戻る。
ダメだ。今日は、そういったことはある程度抑えないといけないのに。
「おい、言い方」
「ほんとのことじゃん。でも、今日は私の番だからダメだよ?お兄ちゃんは旅行も一緒に行ってたもん」
二人の会話がされているうちに、心を落ち着ける。
元々、早希ちゃんと話したいこともあったので、そちらの方が都合がいいし。
「はいはい。わかったよ」
「透ちゃんも、わかった?」
「……うん。わかった」
「なら、よしっ。行こ?」
手を引かれ、二階への階段を二人で登る。
そして、可愛らしいプレートのかかった部屋の扉を開けると、どうしてか前よりも部屋が片付けられていた。
「あれ?なんか、前より物が少ないね」
「まぁね~。とりあえず、今日は漫画の方はメインじゃないから」
「え?そうなの?」
以前は、止まらない漫画談義がされていたので少し拍子抜けしていると、ニヤニヤとした顔の早希ちゃんが、何故か扉に鍵を掛けた。
「ほら、透ちゃん。レッツ、恋バナだよっ!」
「あー、そういうことね。でも、誠君から聞いてないの?」
「お兄ちゃんに聞いても、全然ウキウキする話してくれないんだもん。透に好きって言った、以上!って感じ」
「はは、それは、うん。誠君らしいね」
あまり、そう言ったことを話すタイプでは無いので、どんな様子だったかが何となくイメージできる。
きっと、早希ちゃんがしつこく聞いてくるのを適当に流しながら、端的に話をしただけなんだろう。
「そうなのっ!どこが好きなのって聞いても、『とりあえず、全部』って言っただけなんだよ?いい事だけど、もうちょっと話してくれてもいいよね」
「…………そう、なんだ」
それは、早希ちゃんが期待していたものとは違うものだったのかもしれない。
だけど、私にはやっぱりとても素敵な言葉で、家族に対しても同じように言ってくれているのが余計に嬉しかった。
「…………他には、何か言ってた?」
「うーん。次のデートプランを聞いたら、『透の行きたいところに行く』とか言ってた」
「っ…………他は?」
「え?あー、恋人らしいことだと何したいって聞いたら、『透のしたいことをする』って言ってた」
「っ…………そっかぁ」
あまりに簡潔すぎて、漠然とし過ぎて、伝わりにくい誠君の話。
でも、一緒の時間を共有してきた私には――私だからこそ、それが彼の優しさをこれ以上無いほどに表していることが伝わってくる。
自分の想いを押し殺して、周りの声を気にして生きることしかできない私に、やりたいことをさせてあげたいという、その気持ちが。
「でも、まぁ。ある意味お兄ちゃんらしくて、安心した。ぜんぜん、なにも変わらなかったから」
「ふふっ。これでも、私は頑張ったんだからね?」
「透ちゃんは頑張ったと思うよ。ほんと、よくぞって感じ」
「あははっ。そうなんだ」
「うん。お兄ちゃん、中学の時も何回か告白されたことあったらしいんだけど、結局一度も付きあったことないし」
その話は初耳だ。
しかし、確かにそう言われると誠君にそういった話があってもぜんぜんおかしくない。
話してみるとノリもいいし、何より優しい。
それに、妹がいるからかわからないけど、細かい変化によく気づいてくれる。
「……………………知ってる範囲でいろいろと教えて貰ってもいい?私も、後で早希ちゃんの聞きたいこと教えるから」
「ふっふっふ。お主も悪よのう」
「いえいえ、お代官様ほどでは」
「「あははっ」」
そして、私達はいろいろなことを話していった。
昔の話や、今の話、これからの話。
たくさんのことを。まるで、本当の姉妹のようにじゃれつき、笑い合いながら。
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