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四章 -近づく関係-

蓮見 透 四章②

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 玄関を開けた彼が何故か変なところで立ち止まる。彼のほうが背が高いので中はあまり見えないが何かあったのだろうか。

 だが、奥から女の子の声が響いてきて妹が前にいるのだと気づいた。


「ようこそいらっしゃいました。妹の早希です」

「いや、俺だけど」

「なんだ、お兄ちゃんか。邪魔だから早くどいて」 

「いや、お前が邪魔なんだけど。入れないじゃん」

「いいから!ほら、初めが肝心でしょ?」


 呆れたような声と元気の良さそうな声が交互に響いてくる。前から妹の話が度々出ていたのでやはり兄妹仲はいいらしい。

 そう思っていると、彼が疲れたような顔で振り返り、私が前に行くように促してくる。
 
 少し、気合を入れ挨拶をしようとした私に、それを吹き飛ばすような勢いで目の前の女の子が近づいてきた。


「ようこそいらっしゃ……え!?すごい綺麗!!え?え?いくら積んだのお兄ちゃん!!」


 どうやら、素直な子のようだ。心の声と同時に言葉が出ている。

 中学生くらいだろうか?その年頃の女の子にしては背が高く、さらにとても明るい見た目をしているのでなかなか目立つ外見だ。
 だが、顔立ちは整っていてとても可愛い。それに、個人的にはその柔らかい目尻が彼にとてもよく似ているので尚更可愛く思えた。

 
「ありがとう?あの、誠君のクラスメイトの蓮見 透です。よろしくね」

「うわ!声も綺麗!!しかも、なんかいい匂いがする」

「え、ちょ、ちょっと」


 落ち着きを取り戻したのも束の間、急に彼女が抱きついてきて再び驚く。心の声と同時に動かれるので身構える時間が全くない。

 そして、予想外のことにそのまま硬直する私を見かねたのか誠君が彼女の頭にチョップを入れると、強引に引きはがした。


「やばい、あまりの綺麗さにトリップしてた」

「変態かお前は。ほら、話が進まないからまず挨拶しろ」

「あ、そうか。お兄ちゃんの妹の早希です。末永くよろしくお願いします」

 
 本当に仲の良い兄妹だ。それに、彼以上に裏表が無い面白い子。
 
 純粋にそう言ってくれていることがわかり、こちらも嬉しくなる。


「……ふふっ。こちらこそ、末永くよろしくね?」

「やった!ついにお姉ちゃんが我が家にきた」


 再び抱き着いてくる彼女の頭を撫でると、嬉しそうにはしゃいでいてとても可愛らしい。
 まるで、子犬みたいだと少し思う。


「お前なぁ。初対面から末永くって。まぁいいや」


 前を歩く彼を追いかけつつ、歩きながら二人で話をする。


「ねぇ、透ちゃんって呼んでいい?」

「いいよ。私も早希ちゃんって呼ぶね」

「うん!あっそう言えば透ちゃんって本とか読む?」

「読むよ」

「ばっちりだね!私、漫画描いてるんだけど後で読んでよ」


 まるで嵐のような子だ。だけど、全く嫌では無かった。むしろ、心から歓迎してくれていることが伝わって来てとても嬉しい。

 まぁ、本=漫画というのは少し苦笑してしまうが。






 そんなことを話しているとリビングについたらしい。中から彼の声と、それとは別の女性の声が聞こえてきた。

 私は、緩んでいた気持ちを再び引き締め深呼吸をした後、中に入る。




 
 そして、挨拶をしようとして彼の視線の先に目を向けると、背の高いとても綺麗な女性が立っていた。

 短く切りそろえられた黒い髪、切れ長の目、仮面のような無表情。


 怒っているようにも見えるその冷たい姿は、だが私には、不思議と優しそうに見えた。

 恐らく、その立ち姿が彼によく似ていたからだろう。

 

「すごく綺麗な子ね。はじめまして、誠の母の瑛里華(えりか)です。よろしくね」


 本当にとてもよく似ている。そう思っていると相手が挨拶していることに気づき少し焦ってしまった。


「あっはい!!誠君のクラスメイトの蓮見 透です、末永くよろしくお願いします!」

「ん?末永く?」

「え、あ、いや、その、えっと……ごめんなさい!どうか、忘れてください」


 先ほどそのフレーズを聞いたこともあってか、つい本音が漏れ出てしまう。完全に失言だ。

 外にいた時よりも顔が火照っているのが分かる。恐らく今の私の顔はリンゴよりも真っ赤だろう。


「いいえ。いつも、誠と仲良くしてくれてありがとう。この子、見た目には出づらいけど意外に良い子なのよ」


 しばらくの無言の後、彼女はゆっくりとした口調で私に語りかけた。私が落ち着けるように時間をかけてくれたことが心の声から伝わってきて、さり気ない優しさを感じる。

 彼は恐らく母親似だろう。雰囲気はもちろん、その性格も。

 父親にはまだ会っていないが、そう確信するほどには二人は似通っていた。



「そんな、こちらこそ!誠君には本当にお世話になっているので。それに、すごく優しいのはもう十分なほど分かってますから」

「そう?なら、よかったわ」

「はい。そういえば、これつまらないものですが」

 
 持ってきていたお土産を取り出すと、一瞬ではあるが誠君と瑛里華さんの表情が動いた。

 早希ちゃんはわかりやすいほどに見て分かるが、心が見える私としては二人も含め本当に面白い家族だと笑い出しそうになってしまった。



「あっ!水まんじゅう!!」

「早希?お客様の前でしょ?」

「ごめんなさい……」


 瑛里華さんも、涼し気な表情をしつつ、先ほどから箱を凝視している。
 気にいって貰えたようで本当に良かった。


「ありがとう。気を遣ってもらったみたいで」

「いえ、お気に召してもらえてよかったです」

「ありがとう。それより、ゆっくりしてってね。後で冷たい物持ってくから」

「あっ!手伝います」

「お客さんなんだからいいのよ。ゆっくりしてて」
 
「すみません。ありがとうございます」 


 あまりしつこく言ってもあれなのでとりあえず好意を受けることにする。
 でも、料理の時くらいはさすがに手伝おう。
 
 
 そう思っていると、誠君が今後の予定を立てるために声をかけてくる。


「何かしたいことある?といってもゲームとかしかないけど」

「ううん。大丈夫、何でも楽しめるから」


 別に話しているだけでも楽しいし。だから、特段何かしたいということは無かった。
 
 しかし、早希ちゃんはどうやら違ったらしい。それを聞くや否や私の腕を強く引っ張りながら自分の部屋に連れて行こうとする。


「やることないなら、漫画見てってよ。過去最高傑作だから」

「お前、いつもそう言ってるじゃないか」

「今回のは本当に過去最高傑作なの!」

「はいはい。透はそれでいいか?」

「うん。楽しみだね」


 私がそう伝えると、彼女は満面の笑顔になり、得意げな顔で誠君に絡んでいった。
 

「ほらーお兄ちゃんより透ちゃんのが全然分かってるじゃん!」


 とても嬉しそうでこちらまで楽しくなってくる。


「ほら、こっちだよ」

「うん」

 
 そう言って彼女に案内される途中、誠君が後ろにいないことにふと気づき振り返る。どうやら、彼はリビングで母親と話しているようだった。
 
 
「透ちゃん!早くー」

「あっごめん。すぐ行くよ」


 前から催促するような声が聞こえ、そちらを向く。
 
 すぐに彼も来るだろう。私はそう思って一人で彼女の後をついていった。

 目の前で輝くまるでお日様のような朗らかな笑顔に安心感を抱きながら。
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