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第三部

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 そんなある日、治が中也に電話をかけてきた。
「最近、大城さんの碁は安定されてきましたよね。国際フェスティバルの前は、何と言いますか、少し碁に迷いが見られましたが」
 治は、そんなことを言った。確かにあの頃は、潤一郎やみすずの件で、精神的に落ち着かなかった。それが碁にも表れていたのだろうかと、中也は思った。
「ありがとうございます。ホリ先生の方は、最近いかがですか」
「おかげさまで。来週は、実家に帰る予定にしています。父の月命日ですしね」
 それを聞いて中也は、ふと思いついた。
「ご迷惑でなければ、一緒にお参りさせて頂けませんか? 先生のお父様には、本当にお世話になりましたから」
「迷惑だなんて、とんでもない。父も喜びますよ。――そうだ」
 治は、不意に何かを思いついたようだった。
「よろしければ、墓に参った後、うちに遊びに来ませんか。大城さんに、アルバムを見せて差し上げようかと思いまして。子供の頃に、辰雄先生と一緒に撮って頂いた写真が、沢山あるんですよ」
「本当ですか? 是非見たいです」
 母が処分してしまったため、中也の手元に父の写真は一枚も無い。思いがけない治の提案に、中也は喜んだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔させて頂きます。楽しみにしていますよ」
「誰の家に行くって?」
 中也が電話を切った途端、白秋の声がした。驚いて振り返ると、不機嫌を隠さない表情で彼が立っている。いつの間にか、背後で話を聞いていたらしい。
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