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第二部
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「変わった?」
中也は、首を傾げた。
「ええ。白秋なんて、昔は鉄仮面みたいだったのに、最近は、ちらほら人間としての暖かみが出てきたって感じ」
「おい。本人を前にして、随分じゃないのか」
白秋は不満げに口を挟んだが、晶子は意外にも真面目な顔をしていた。
「本当のことでしょ。それに秋江だってそうよ。昔からあの人、白秋への対抗意識で、ずっとピリピリしてた。それが最近、雰囲気が柔らかくなった気がして。何より、白秋と少しずつ口をきくようになってきたでしょう?」
「確かに、それは僕も感じるな」
白秋は頷いた。逆に、昔はどれほど険悪だったのかと、中也は呆れた。
「だからね。私、大城さんにはむしろ感謝してるってこと」
「――晶子先生」
中也は、思わず叫んだ。
「秋江先生は僕にとって、尊敬する指導者で、これからも教えて頂きたいと思っています。だから、ネット指導、是非受けさせてください」
晶子は、にっこり微笑んだ。
「秋江先生は、今後どうなるんでしょうか」
病院からの帰り道、中也は白秋に尋ねた。すると彼は、苛立った声を上げた。
「いつまで人の心配をしてるんだ。君だってそれどころじゃないだろう。そもそもキスしたのは事実なんだから、秋江も自業自得なんだよ。大体、ただでさえ生徒を色仕掛けで集めている、なんて噂を立てられているんだから、もっと警戒すべきなんだ。まあ、その噂の出所も、潤一郎だがね」
中也は、晶子が以前言っていたことを思い出した。
「彼は、秋江先生にも恨みがあるんですか?」
「あいつにとって、自分より優秀な人間は全員、攻撃の対象なんだよ」
潤一郎は二十三歳と、秋江や中也よりも一つ年上だ。しかし、秋江の方が段位は高い。おまけに美人の妻がいて、教室でも人気講師、とくれば、潤一郎が妬んだとしても無理も無かった。それにしても、何と器の小さな人間なのかと、中也はため息を漏らした。
「とにかく、潤一郎から写真を取り上げて、君を守ることが優先だ。―まあ、ついでに秋江を助けてやらんこともない。あいつには、借りもあるしな」
「借り?」
「いや、何でもない。とにかく潤一郎の奴は、このままでは済ませんぞ。この件は、士郎にも協力を仰ごうと思う。あいつは、法学部を出ているんだ。頼りになると思うよ」
白秋は中也を安心させるかのように、力強く手を握った。
中也は、首を傾げた。
「ええ。白秋なんて、昔は鉄仮面みたいだったのに、最近は、ちらほら人間としての暖かみが出てきたって感じ」
「おい。本人を前にして、随分じゃないのか」
白秋は不満げに口を挟んだが、晶子は意外にも真面目な顔をしていた。
「本当のことでしょ。それに秋江だってそうよ。昔からあの人、白秋への対抗意識で、ずっとピリピリしてた。それが最近、雰囲気が柔らかくなった気がして。何より、白秋と少しずつ口をきくようになってきたでしょう?」
「確かに、それは僕も感じるな」
白秋は頷いた。逆に、昔はどれほど険悪だったのかと、中也は呆れた。
「だからね。私、大城さんにはむしろ感謝してるってこと」
「――晶子先生」
中也は、思わず叫んだ。
「秋江先生は僕にとって、尊敬する指導者で、これからも教えて頂きたいと思っています。だから、ネット指導、是非受けさせてください」
晶子は、にっこり微笑んだ。
「秋江先生は、今後どうなるんでしょうか」
病院からの帰り道、中也は白秋に尋ねた。すると彼は、苛立った声を上げた。
「いつまで人の心配をしてるんだ。君だってそれどころじゃないだろう。そもそもキスしたのは事実なんだから、秋江も自業自得なんだよ。大体、ただでさえ生徒を色仕掛けで集めている、なんて噂を立てられているんだから、もっと警戒すべきなんだ。まあ、その噂の出所も、潤一郎だがね」
中也は、晶子が以前言っていたことを思い出した。
「彼は、秋江先生にも恨みがあるんですか?」
「あいつにとって、自分より優秀な人間は全員、攻撃の対象なんだよ」
潤一郎は二十三歳と、秋江や中也よりも一つ年上だ。しかし、秋江の方が段位は高い。おまけに美人の妻がいて、教室でも人気講師、とくれば、潤一郎が妬んだとしても無理も無かった。それにしても、何と器の小さな人間なのかと、中也はため息を漏らした。
「とにかく、潤一郎から写真を取り上げて、君を守ることが優先だ。―まあ、ついでに秋江を助けてやらんこともない。あいつには、借りもあるしな」
「借り?」
「いや、何でもない。とにかく潤一郎の奴は、このままでは済ませんぞ。この件は、士郎にも協力を仰ごうと思う。あいつは、法学部を出ているんだ。頼りになると思うよ」
白秋は中也を安心させるかのように、力強く手を握った。
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