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第二部

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「はい、秋江先生の教室の生徒なんです。いつもお世話になっています」
 隠しておくわけにもいかず、中也は仕方なく挨拶した。晶子の方は、「ああ、そう」と、気に留めた様子は無い。今のところ、あの写真のことは何も知らないようだ。
「主人の教室はどうですか?」
 碁盤に向き合いながら、晶子は質問してきた。気さくで賢そうな雰囲気だ。
「とても分かりやすいです。ご講義が面白くて、生徒さんたちも皆、楽しみにしていますよ」
 そう答えると、晶子は、ほっとしたような笑みを浮かべた。
「それなら良かったわ。いえね、色々陰口を聞かされると、時々心配になるんです」
「陰口?」
「ええ。色仕掛けで女の生徒を集めているとか、中味の無い講義だとか。中にはもっとひどい噂を立てる人も」
「そんな……。先生はいつも、熱心にご指導して下さいますよ」
 キスの一件はともかくとして、さすがにそれは中傷が過ぎると、中也は思った。
「ありがとう。あの人、実はすごい努力家なんですよ。家でも、生徒さんの棋譜をずっと研究していて、どうやったら分かりやすく教えられるか、そんなことばかり考えているの。自分自身の勉強時間を削ってまで、頑張っているんですよ」
 そう言えば、白秋も似たようなことを言っていた。
「あの人には、いつも申し訳ないなと思っているんです。自分だって、棋士として上に行きたいだろうに、私や子供のために、犠牲になって。今度は、二人目までできてしまったし」
 中也は、聞いていて複雑な気分になった。
「でも、晶子先生は、育児を頑張っていらっしゃるじゃないですか。その分、先生だって、碁の勉強をする時間が減っているわけじゃないですか? だからそんな風に、思われなくても」
 白秋がかつて言っていたことの受け売りではあったが、中也は彼女を励まさずにはおれなかった。すると晶子は、目を丸くした。
「初対面の人に、そんな風に言ってもらえるとは思わなかったわ。でも別にいいのよ。好きな人の子供を産んで、育てるなんて、女にとってこれ以上の幸せは無いわ。私、院生時代からずっと秋江のことが好きだったから」
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