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第一部

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 それは、白秋が中也の打った碁について、逐一知りたがることだった。教わるのはマロンでの指導碁の時だけにしたいという中也の意向を、一応は白秋も尊重してくれる。しかし彼は、秋江の教室やマロンでの対局の棋譜を見たがった。一旦棋譜を見せれば、彼はあれこれと助言したがる。時には、実際に石を並べ出すことすらあった。
 勿論それは、勉強になる。しかしそれが続くと、中也の中には、やはり彼は自分の碁が好きなだけではないのか、という疑念が沸いてきた。いくら彼が優しくても、肌を合わせても、その不安が解消することは無かった。
 
 そんなある日、中也は、借りていた本を返しに、白秋のマンションを訪れた。
 エントランスでオートロックのインターフォンを鳴らすが、応答は無かった。珍しいな、と中也は思った。外に出て人と関わることを億劫がる白秋が、仕事以外で外出することは、滅多に無い。
 郵便受けに入れて帰ろうかとも思ったが、中也はふとあることを思いついた。実は少し前、中也は白秋から、合鍵をもらった。滅多に無い機会なので、使ってみたくなったのだ。
 しかし、部屋の前まで来て、鍵を差し込もうとしたところで、中也は違和感を覚えた。ドアノブに手をかけると、案の定、鍵は開いている。
 ――在宅しているのか。では何故、応答しなかった?
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