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第二章 自立
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(今日の夢は、いつもと違っていたな)
翌日の休憩時間、真凜はぼんやりと考えていた。もう馬で追われてはいなかった。本当にあれが前世なら、これまでの夢の続き、ということか。追われた挙げ句、捕まったということか。
やはり、あの追っ手が麻生なのだろうか。そうは思いたくない。だがそうだとすれば、余計関わってはいけない気もする。とはいえ、もう約束は取り付けてしまった。
真凜は、ふと今度の食事のことに思いを馳せた。前回はご馳走になったから、今度は自分が払いたいところだ。でも麻生は、素直に応じてくれるだろうか。二度も奢らせるはめになったら、さすがに申し訳ない。
そこで真凜は、名案を思いついた。食事の際、何かプレゼントを持参するのはどうだろうか。もし食事代を自分が払ったとしても、それならスカーフの礼ということにすればいい。さて、何がいいだろうか……。
「水瀬さん、昨日はごめんなさい! 遅くまで残ってくれたんですよね?」
そこへ、ミカが入って来た。
「別に構わないですよ」
「いえ、悪かったなって……。今度はあたしが残りますから。……あ、でも」
ミカは、悪戯っぽい微笑を浮かべた。
「麻生さんと接近できたんじゃないですか?」
「……べ、別に!? 彼とは、そういうんじゃないですし」
慌てて否定したが、ミカはまだにやにやしている。
「赤くなってるとこが怪しい~。麻生さん、水瀬さんに本気みたいですよ? あたしにも、あれこれ聞いてましたもん」
「……そうなんですか?」
そういえば、叶真の情報もミカから聞いたと言っていた。
「はい。それに麻生さん、今付き合っている人はいないんですって。水瀬さん、チャンスですよ」
ミカは力強く言った。
「で、本当に昨日は、何も進展なかったんですか?」
ミカが身を乗り出してくる。真凜は少し迷ってから、食事することになった、と告げた。
「それで、その時にプレゼントを持って行こうと思うんですけど。何がいいと思います?」
打ち明けたのは、自力ではとうてい良い案を思いつきそうになかったからだ。ミカなら流行にも詳しいし、洒落たアイデアを出してくれそうな気がした。
「えー、めちゃくちゃ進展したじゃないですか! よかったですね」
ミカは喜んでくれたものの、プレゼントに関しては考え込んだ。
「何といっても、デパートのバイヤーさんだからなあ。流行の最先端行ってる人だし、難しいですよね」
それは真凜も、真っ先に考えたことだった。
「そうだ! なら逆に、手作りの物はどうですか?」
ミカが、ぽんと手を叩く。なるほど、と真凜は思った。
「あ、でも食べ物となると、それこそ美味しい物は食べ飽きてるかも」
「いいんじゃないですか? 手料理って、また別の魅力があるし」
ミカはそう言ったが、真凜はためらった。
「いや、やっぱり食べ物系は止めときます。それ以外で手作りとなると……」
真凜はふと思いついた。手芸品はどうだろうか。昔から時々やっていたし、手先の器用さには自信がある。ミカに話すと、賛成してくれた。
「いいと思います! じゃあ次は、服ですね」
「服?」
「はい。もう決めました? 着て行く服」
全く考えていなかった、と真凜は愕然とした。フレンチ店なら、それなりの服装でないと。前回は面接帰りだったから、たまたまスーツ姿だったが……。
「ああ、そんなことじゃないかと思いました」
ミカはため息をついた。
「水瀬さん、次の定休日、空いてます? あたし付き合いますから、一緒に買いに行きましょう」
「……ありがとう」
協力する気満々らしいミカは、早速スマホでブティックを調べている。そこへ、エヴァが顔を覗かせた。
『マリン、トウマって人が来てるわよ。お友達?』
翌日の休憩時間、真凜はぼんやりと考えていた。もう馬で追われてはいなかった。本当にあれが前世なら、これまでの夢の続き、ということか。追われた挙げ句、捕まったということか。
やはり、あの追っ手が麻生なのだろうか。そうは思いたくない。だがそうだとすれば、余計関わってはいけない気もする。とはいえ、もう約束は取り付けてしまった。
真凜は、ふと今度の食事のことに思いを馳せた。前回はご馳走になったから、今度は自分が払いたいところだ。でも麻生は、素直に応じてくれるだろうか。二度も奢らせるはめになったら、さすがに申し訳ない。
そこで真凜は、名案を思いついた。食事の際、何かプレゼントを持参するのはどうだろうか。もし食事代を自分が払ったとしても、それならスカーフの礼ということにすればいい。さて、何がいいだろうか……。
「水瀬さん、昨日はごめんなさい! 遅くまで残ってくれたんですよね?」
そこへ、ミカが入って来た。
「別に構わないですよ」
「いえ、悪かったなって……。今度はあたしが残りますから。……あ、でも」
ミカは、悪戯っぽい微笑を浮かべた。
「麻生さんと接近できたんじゃないですか?」
「……べ、別に!? 彼とは、そういうんじゃないですし」
慌てて否定したが、ミカはまだにやにやしている。
「赤くなってるとこが怪しい~。麻生さん、水瀬さんに本気みたいですよ? あたしにも、あれこれ聞いてましたもん」
「……そうなんですか?」
そういえば、叶真の情報もミカから聞いたと言っていた。
「はい。それに麻生さん、今付き合っている人はいないんですって。水瀬さん、チャンスですよ」
ミカは力強く言った。
「で、本当に昨日は、何も進展なかったんですか?」
ミカが身を乗り出してくる。真凜は少し迷ってから、食事することになった、と告げた。
「それで、その時にプレゼントを持って行こうと思うんですけど。何がいいと思います?」
打ち明けたのは、自力ではとうてい良い案を思いつきそうになかったからだ。ミカなら流行にも詳しいし、洒落たアイデアを出してくれそうな気がした。
「えー、めちゃくちゃ進展したじゃないですか! よかったですね」
ミカは喜んでくれたものの、プレゼントに関しては考え込んだ。
「何といっても、デパートのバイヤーさんだからなあ。流行の最先端行ってる人だし、難しいですよね」
それは真凜も、真っ先に考えたことだった。
「そうだ! なら逆に、手作りの物はどうですか?」
ミカが、ぽんと手を叩く。なるほど、と真凜は思った。
「あ、でも食べ物となると、それこそ美味しい物は食べ飽きてるかも」
「いいんじゃないですか? 手料理って、また別の魅力があるし」
ミカはそう言ったが、真凜はためらった。
「いや、やっぱり食べ物系は止めときます。それ以外で手作りとなると……」
真凜はふと思いついた。手芸品はどうだろうか。昔から時々やっていたし、手先の器用さには自信がある。ミカに話すと、賛成してくれた。
「いいと思います! じゃあ次は、服ですね」
「服?」
「はい。もう決めました? 着て行く服」
全く考えていなかった、と真凜は愕然とした。フレンチ店なら、それなりの服装でないと。前回は面接帰りだったから、たまたまスーツ姿だったが……。
「ああ、そんなことじゃないかと思いました」
ミカはため息をついた。
「水瀬さん、次の定休日、空いてます? あたし付き合いますから、一緒に買いに行きましょう」
「……ありがとう」
協力する気満々らしいミカは、早速スマホでブティックを調べている。そこへ、エヴァが顔を覗かせた。
『マリン、トウマって人が来てるわよ。お友達?』
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