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第二章 自立

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 麻生は夕方にやってきた。エヴァが翌日の仕込みに入る前の、隙間時間である。三人は、控え室に集合した。
『このたびは、お引き受けいただき、本当にありがとうございました。全力でサポートさせていただきますので、ご安心くださいね』
 麻生は微笑んでエヴァと握手を交わすと、真凜の方を向き直った。
「真凜さん、お久しぶりですね。どうぞよろしくお願いします」
 手を差し出され、仕方なく真凜は応じた。真凜の小さな手が、すっぽりと麻生の手に覆われる。温かい感触に、真凜はドキリとした。彼の胸に抱かれた時のことが、蘇ったのだ。
(馬鹿か、僕は。握手くらいで……)
 はっと我に返った真凜は、よろしくお願いします、と慌てて返した。
『では早速ですが、スケジュールとご提出いただく書類についてです』
 麻生はテキパキと、当日までの流れを説明していく。彼の話はわかりやすく、真凜は頼もしさを覚えた。とはいえ、やることのあまりの多さに、真凜は気が遠くなってきた。実演販売の準備に、車の手配もしなければならない。そして何より大変と思われるのが、書類だった。各商品の説明書に、店舗紹介の文書、搬入車の許可申請書など、作成しなければならないものが山ほどあったのだ。
『特に重要なのが、アレルギー項目のチェックですね。表示対象となる食品も、最近増えましたし』
『ああ、大変そう。マリン、助けてちょうだいね』
 エヴァがため息をつく。もちろんです、と真凜は答えた。そこへ、ミカが顔を覗かせた。
『エヴァさん、ちょっといいですか。ウェディングケーキについてのお問い合わせが入ってるんですけど、あたしではわからなくて』
『わかったわ。麻生サン、ちょっと失礼してよろしいかしら』
 エヴァが腰を上げかける。真凜は、嫌な予感がした。案の定、麻生はこう言い出した。
『ええ、もう重要な説明は済みましたから。後は真凜さんにお伝えしておきましょうか』
『そうしてちょうだいな。マリン、よろしくね』
 解放されたとばかりに、エヴァがそそくさと出て行く。ドアが閉まったとたん、真凜は身がすくむ気がした。だがそこで、真凜はふと思い出した。
「そうだ、これ、お返しします。……ずっと借りっぱなしで、すみませんでした」
 真凜はポケットから、とっくの昔にクリーニング済みのスカーフを取り出した。麻生がこの店を訪れたら返そう、とずっと持ち歩いていたのだ。ところが麻生は、かぶりを振った。
「結構です。それ、あなたに差し上げますよ」
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