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第一章 出会い
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(やっぱり、関わるのは止めよう)
真凜は、自分に言い聞かせた。会いたいなどと考えたのは、間違いだった。『中世ヨーロッパ展』までは一緒に仕事をすることになるが、それ以外は極力接触を避けよう。もちろん、フェアが終わったらそれっきりだ……。
やがて、マンションに到着した。麻生は、自分がタクシー代を払うと言ってきかなかった。
「僕の責任ですから。飲ませすぎて、申し訳なかったです」
真凜は、仕方なく折れた。タクシーを降りると、真凜は彼に頭を下げた。
「送っていただいてありがとうございました。では、ここで」
ところが麻生は、なかなか立ち去ろうとしない。ややあって、彼は低い声で言った。
「ストレートにお聞きします。真凜さんには、決まった方がいるのですか」
ドキン、と心臓が跳ねる。麻生は、少し顔を赤らめた。
「最初は、ひょっとしてどなたかの番なのかな、とも思ったんです。首輪をされていなかったから。でも、匂いを感じ取れたということは、そうじゃないですよね?」
しまった、と真凜は唇を噛んだ。
「よろしければ、プライベートの連絡先を伺っても……」
「ダメです!」
自分でも驚くほど、きつい口調になってしまった。麻生が、傷ついたような表情を浮かべる。
「さっきのキスのことを、怒っているんですか。強引な真似をしたのは、謝ります。あなたに触れたら、我慢できなくなってしまって……」
「違います」
ひどい態度を取っているという自覚はあった。でも、流されて深入りするわけにはいかない。麻生には、もっとふさわしい相手がいるはずだ……。
「『中世ヨーロッパ展』には、できる限りご協力します。でもあなたと、プライベートで関わる気はありません。失礼します」
それだけ言い捨てると、真凜は麻生の顔を見ずに踵を返した。
真凜は夢を見ていた。追われる夢だ。背後から、パカッ、パカッという音が聞こえる。馬の蹄のようだった。
突如、鋭い声が聞こえて、真凜はドキリとした。男の声だ。自分を呼んでいるらしい。
――逃げ切らなくては……!
追っ手の気配は、次第に近づいてくる。おそるおそる後ろを振り返って、真凜はぎょっとした。すぐ近くに、馬に乗った大勢の男がいたのだ。
その時、中心にいた男と目が合った。男の眼差しは、ぎらぎらとした憎しみに満ちていた。真凜は、身を震わせた……。
真凜は、自分に言い聞かせた。会いたいなどと考えたのは、間違いだった。『中世ヨーロッパ展』までは一緒に仕事をすることになるが、それ以外は極力接触を避けよう。もちろん、フェアが終わったらそれっきりだ……。
やがて、マンションに到着した。麻生は、自分がタクシー代を払うと言ってきかなかった。
「僕の責任ですから。飲ませすぎて、申し訳なかったです」
真凜は、仕方なく折れた。タクシーを降りると、真凜は彼に頭を下げた。
「送っていただいてありがとうございました。では、ここで」
ところが麻生は、なかなか立ち去ろうとしない。ややあって、彼は低い声で言った。
「ストレートにお聞きします。真凜さんには、決まった方がいるのですか」
ドキン、と心臓が跳ねる。麻生は、少し顔を赤らめた。
「最初は、ひょっとしてどなたかの番なのかな、とも思ったんです。首輪をされていなかったから。でも、匂いを感じ取れたということは、そうじゃないですよね?」
しまった、と真凜は唇を噛んだ。
「よろしければ、プライベートの連絡先を伺っても……」
「ダメです!」
自分でも驚くほど、きつい口調になってしまった。麻生が、傷ついたような表情を浮かべる。
「さっきのキスのことを、怒っているんですか。強引な真似をしたのは、謝ります。あなたに触れたら、我慢できなくなってしまって……」
「違います」
ひどい態度を取っているという自覚はあった。でも、流されて深入りするわけにはいかない。麻生には、もっとふさわしい相手がいるはずだ……。
「『中世ヨーロッパ展』には、できる限りご協力します。でもあなたと、プライベートで関わる気はありません。失礼します」
それだけ言い捨てると、真凜は麻生の顔を見ずに踵を返した。
真凜は夢を見ていた。追われる夢だ。背後から、パカッ、パカッという音が聞こえる。馬の蹄のようだった。
突如、鋭い声が聞こえて、真凜はドキリとした。男の声だ。自分を呼んでいるらしい。
――逃げ切らなくては……!
追っ手の気配は、次第に近づいてくる。おそるおそる後ろを振り返って、真凜はぎょっとした。すぐ近くに、馬に乗った大勢の男がいたのだ。
その時、中心にいた男と目が合った。男の眼差しは、ぎらぎらとした憎しみに満ちていた。真凜は、身を震わせた……。
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