一年前の忘れ物

花房ジュリー

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幸福

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 ゆっくりと、アレンが入ってくる。
「レイ、その格好、とてもセンジョウテキだね……」
「言うなったら!」
 目を閉じたまま、玲は怒鳴った。自ら膝を抱えて、アレンに向かって開脚しているのだ。自分の姿を想像しただけで、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「でも、煽情的なんて言葉、よく知ってたね」
「そりゃ、優秀な日本語の先生が付いているから?」
 クスクス笑いながら、アレンはゆるゆると腰を動かす。先ほどとは打って変わった、まるで焦らすような動きだ。玲は、次第にもどかしくなってきた。
 ――気持ちいい、だけど……。
「ねえ、アレン……」
「何?」
「その、もっと……」
「もっと、何?」
 ――この! 分かってるくせに……。
 キッとアレンを睨み付けると、彼は余裕の表情で微笑む。悔しくなった玲は、ぎゅっと後ろに力を込めた。さすがに不意打ちだったのか、アレンがうっと呻く。
「――やったな」
 アレンは、辛うじて持ちこたえたらしかった。次の瞬間、アレンの目にきらりと勝ち気そうな光が宿る。彼は、体勢を立て直すと、両手で玲の足首をつかみ、肩に担ぎ上げた。一気に深く貫かれ、玲は思わず悲鳴を上げた。
「やあっ……」
「ふふ。仕返し……」
 アレンは、容赦なく腰を打ち付けてくる。最奥まで突かれて、玲は再び絶叫した。唇からは次々に、声にならない喘ぎがこぼれて、止まらない。
「やっ、も、止め……」
「止めちゃいけないよね? だって、レイは激しいのが好きなんでしょう?」
「んっ……。ア、アレン……」
 手を伸ばすと、アレンがそれに応えて、顔を寄せる。玲はアレンの首に腕を回すと、彼に口づけた。激しく互いの唇を貪り合いながら、玲は切れ切れに呟く。
「好き……」
「ん? ここが好きなの?」
 アレンが、抉るように一点を刺激する。しかし玲は、かぶりを振った。
「違う……。アレン、アレンが好きだ……」
 至近距離で互いの視線がぶつかる。その瞬間、アレンの動きが止まった。
「レイ。それ、反則……」
 その瞬間、玲の内部にじわりと熱いものが広がった。
 ――幸せだ……。
 ほぼ同時に、玲も欲を吐き出していた。どさりと倒れこんで来たアレンの身体をしっかりと抱きしめながら、玲は心の中で呟いた。
 ――思い出の場所で、思い出の日に、愛する人と二人きり。こんな幸せが、他にあるだろうか……。
 夏の日差しが差し込むホテルの一室で、玲はアレンの体温を感じながら、この上ない喜びを噛み締めていた。
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