一年前の忘れ物

幼馴染

「リタだよ」
　アレンは忌々しげに言った。
「カーターには口止めしていたんだが、リタが勝手に僕の住所をジュリアンにばらしたんだ」
　玲はそこで、あっと気が付いた。もしかして、あの時だろうか。
「アレン。先月の終わり頃、俺がこれから行っていいかって電話したら、駄目って言ったことがあっただろう？　あの時、アレンは否定してたけど、後ろで男の声がしてた。ジュリアンが初めて来たのって、あの日じゃない？」
　アレンははっと顔色を変えた。
「悪かった。確かにレイの言う通りだ。ジュリアンはあの日、来日して初めて僕の家に来た。取りあえず説得しようとして、家に上げたんだ。レイに嘘をついたのは、申し訳ないと思ってる」
「実は俺、あの日スクールでジュリアンに会ったんだ。彼、アレンの家に行くと言ってた」
「レイ、信じてくれ」
　アレンは身を乗り出すと、玲の手を握った。
「ジュリアンをこの家に上げたのは最初のあの日だけだし、その日だって彼とは何も無かった。ジュリアンとは、もう一度きちんと話をする。それでもこの家にやって来るようなら、引っ越すよ。不愉快な思いをさせたのは、謝る。だから、僕を信じてくれないか？」
　アレンの眼差しは真剣だった。
　――彼を、信じよう。
　玲は、黙って頷いた。アレンは少しほっとしたような表情を浮かべると、玲の手を強く握りしめた。
「でもどうしてリタは、住所をばらしたりしたんだろう？」
　するとアレンの顔が、再び曇った。
「前から思っていたんだ。リタ、俺に対して冷たいなって。俺が知らないだけで、彼女の恨みを買うようなことをしたのかな？　だからアレンの住所をジュリアンに教えて、俺とアレンがもめるように仕向けたんだろうか？」
「いや、それは違うね。リタが恨んでいるのは、レイじゃない」
　アレンはきっぱりと言った。
「彼女が嫌がらせしたかったとしたら、僕の方だろう」
「どうして？　アレンとカーターは、普通に仲良いんだよね？　アレンとリタって、一体どういう関係？」
「幼馴染だよ」
　アレンはぼそりと言った。
「家が近所でね。昔はよく、家に遊びに行ったりもしたものだけど……」
　アレンはそれきり口をつぐんでしまった。何らかのトラブルでこじれたのだろうということは予想されたが、それ以上詮索するのはためらわれた。
　しばし、沈黙が二人を包む。先に口火を切ったのは、アレンの方だった。彼は、思いがけない台詞を口にした。