一年前の忘れ物

花房ジュリー

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 出て来たアレンは、玲を見るとはっとした顔をした。
「何の用?」
「急にごめん。でも、どうしても話したいことがあって……」
「入れば?」
 アレンは、手を広げると玲を招き入れるような仕草をした。アレンの部屋は、几帳面な彼らしく整頓されていた。ローテーブルには、酒の瓶とグラスが並んでいる。どうやら、一人で飲んでいたようだ。よく見れば、顔も赤い。相当酔っているようだ。
 アレンに勧められるがまま、玲は床にぺたんと座り込んだ。薄いカーペットを通して、フローリングの冷たい感触が伝わってくる。
「七瀬……この前連れて来た女の子のことだけど。あの子は、ガールフレンドなんかじゃない。ただのバイト仲間なんだ。美月さんが、でたらめを言って回ったんだ」
 玲は、座るやいなや一気にまくしたてた。アレンは、少し驚いたような顔をしたものの、黙って聞いていた。
「とにかく、その誤解だけは解きたくて。あと、料理のこと。俺、アレンと料理の交換をするのが好きなんだ。だから止めたくなくて。我儘かもしれないけど……」
 言いながら、何て身勝手なのだろうと玲は思った。自分には、倉木がいるというのに。それでも玲は、言葉を止められなかった。
「レイ」
 アレンは、不意に玲の言葉を遮った。そのまま彼は玲の横に移動すると、玲の手を握った。
「それを言いに、わざわざ来てくれたの?」
「アレン……」
 避ける間も無く、玲はアレンに抱きすくめられた。酔っているとは思えないほど強い力だった。そのまま壁に押し付けられ、口づけられる。玲は半ば無意識に、アレンの舌を受け入れていた。絡められた舌からは強いアルコールの香りが漂い、玲はまるで自分まで酔っているような錯覚を起こした。
 ――だめだ、アレンは誤解してる。説明しなきゃ。七瀬とは何でもないけど、俺には恋人がいるんだって……。
 理性を振り絞ってアレンを押し退けると、彼は当惑したような顔をした。
「僕はレイのことが好きだよ。サキは恋人じゃないって言いに来てくれたってことは、レイも同じ気持ちじゃないの? 違うなら、どうして家まで来たの?」
 玲ははっとした。アレンは、これまで見たことも無いほど悲しそうな表情を浮かべていた。いつもは強い光をたたえている褐色の瞳は、心なしか潤んでいる。そんなアレンを見ているだけで、玲の胸は激しく痛んだ。
 ――ああ、そうか。
 玲は初めて気づいた。なぜ料理の交換にあれほど拘ったのか。倉木の存在を知られまいとしたのか。咲との誤解を解こうとしたのか……。
 ――俺は、アレンが好きなんだ。
 アレンが玲の手を引いて、立ち上がるよう促す。玲はもう、彼を拒まなかった。
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