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第十二章 価値観は、それぞれなんです

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 あれほど捜し求めて見つからなかった呪文が、この本に載っていたというのか。あの時、フィリッポのステッキからたまたま見つかったからいいものの……。

「あの、それほど重要な魔術書なのでしょうか?」

 コリーニが、恐る恐るといった様子で尋ねる。

「だとすれば、本当にご迷惑をおかけしました。私の方で、何かできることはありますでしょうか」
 
 事情を知らないコリーニは、おろおろしている。ルチアーノは、かぶりを振った。

「いや、必要無い。コリーニ殿、ご苦労だったな。もう下がってよい。そしてこの手紙は、預からせてくれ」
「はあ……? では、失礼いたします」

 怪訝そうにコリーニが退室すると、四人は思わず顔を見合わせていた。フィリッポが、吐き捨てる。

「まさか、ユリアーノが所持していたとは」
「回復呪文が載っていると知っていてのことでしょうか」

 ボネーラが、ルチアーノの顔を見る。ルチアーノは頷いた。

「そうであろう。奴は、フィリッポ殿宛てのベゲット殿の手紙を読み、私が禁呪にかけられていることを知っていた。それで敢えて、回復呪文が記されたこの本を隠し持つことにしたのだ。ここぞというタイミングで差し出そうと、算段を練っていたに違いない」

「二十年以上も……!」

 真純は、歯がみした。ルチアーノが、忌々しげに頷く。

「その『ここぞ』が、今だ。私が即位し、禁呪の噂が広まった今、この本を差し出せば恩を売れるとの判断だろう。はっ。あいにく、呪いは解けておるわ!」

 ルチアーノは、手紙を乱暴に叩きつけた。ボネーラが、顔をしかめる。

「どのような刑に処しましょうか。ユリアーノの罪といえば、赤子の遺体を置きにベゲット殿の家に侵入したことや、ニトリラ焼き討ちについて知りながら黙っていたことなど、小さなものばかりです。重い刑を科するのは困難かと……」

「小さくはないぞ?」

 ルチアーノは、ボネーラの言葉を遮った。顔には、意味ありげな微笑が浮かんでいる。

「ユリアーノは、を盗んだのだ。を盗んだ場合、単なる窃盗罪では無く、特別な重罪が適用される」

 ボネーラは、ははあという顔をした。フィリッポも、にやりとする。

「窃盗罪の中で最も重い刑は、終身刑でしたね」
「その通り。ご丁寧に自白の手紙まで書いてくれて、愚かなことだな。欲を出そうとして、永遠に牢獄の中だ」

 ルチアーノは、手紙をさっさと懐にしまった。チラとボネーラを見る。

「さて、話は変わるが。ボネーラ殿、例の件はどうなっている?」
「ああ……」

 ボネーラは、決まり悪そうな顔になった。

「少々、難儀しておりまして。特に、もう一人の方が。ですが近日中には、成功させられるはずです」
「頼むぞ」

 ルチアーノが、念を押す。真純は尋ねた。

「何のお話です?」
「間も無くわかる」

 ルチアーノは、答えようとしない。不審に思っていた真純だったが、ルチアーノの次の言葉に、心はパッと浮き立った。

「さて、マスミ。この後、時間は取れるか? 母の墓に参ろうと思うのだ。落ち着いたら一緒に行こうと、言っていただろう?」
「もちろんです」

 真純は、顔をほころばせて頷いていた。
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