上 下
188 / 242
第十一章 最強魔法対決!

10

しおりを挟む
(そういえば……)

 真純は、思い出していた。パッソーニは、宮廷で実権を握った際、ライバルになりそうな魔術師を全員国外追放したそうだ。それが、今目の前にいる彼らだというのか。

「こちらこそ、お目にかかれて嬉しい。ご協力、感謝申し上げる」

 ルチアーノは、魔術師たちに向かって微笑んだ後、セバスティアーノをじろりと見た。

「お粗末な魔術師ぞろいで、失礼した。たった今、新たな魔術師たちも到着したが、彼らと対決なさるか?」

 さすがに、セバスティアーノも青ざめた。

「い、いや……。これは、対等な戦いとは言えぬ。私はこれまで散々魔法を駆使してきたが、この者たちは今到着したばかりでは無いか。同じ条件で戦わせるなど、卑怯であるぞ!」

「卑怯は、どちら……」

 ジュダが口を挟みかけたが、ルチアーノは押し止めた。

「セバスティアーノ陛下の言い分も、もっともだ。では、どうすると?」
「一時、休戦を願いたい」

 セバスティアーノは、かすれた声で答えた。ルチアーノは少し思案すると、こう告げた。

「承知した。では三日後、同時刻にここで」
 
 セバスティアーノは黙って頷くと、ホーセンランド兵らに向かって、退却の合図をしたのだった。


 その後、アルマンティリア一行と魔術師たちは、トッティ兄弟の案内で領主城に入った。疲れ切った騎士らは、湯浴みもせずに与えられた部屋に引っ込み、爆睡し始めた。一方、真純とフィリッポ、ジュダの三人は、ルチアーノの部屋に集合した。

「なぜ、休戦に応じられたのです? それも、三日も猶予を与えるなんて」

 顔を合わせるなり、ジュダはそう言いだした。不満げに、頬を膨らませている。

「せっかく、魔術師たちが助っ人に来てくれたというのに!  あの状況なら、確実に勝てていましたよ」
「魔法で勝つのは本意ではないと、言ったであろう」

 ルチアーノは、厳しい声音で答えた。

「私が目指すのは、あくまで剣での勝利。その点、セバスティアーノ国王の申し出は、都合が良かった。国王の魔法に頼り切って楽をしていたホーセンランド兵たちよりも、アルマンティリアの騎士たちの方が、遥かに疲労していたからな。三日あれば、彼らも体力を回復できるだろう」

 騎士たちの様子を思い出したのか、ジュダは渋々といった様子で頷いた。

「それは、確かに」
「そして……、期間を取ったのには、他の理由もある。今は言えぬが」

 ルチアーノは意味ありげな笑みを浮かべると、三人の顔を順繰りに見つめた。

「とはいえ。皆の魔法には、本当に助けられた。私一人では、風しか操れぬからな。特に、フィリッポ殿は大活躍だった。心から、礼を言う」

 ルチアーノは、自分の剣を大切そうに撫でると、微笑んだ。フィリッポのおかげで、それは完全に元の形に戻っている。他の者たちの剣も、同様だ。

「いえ、とんでもない。もう少し速く修復できればよかったのですが。まだまだ修行が必要です」

 フィリッポは、悔しそうな表情を浮かべている。真純も恐縮した。

「僕も、水を出すくらいしかできなくて。もっと頑張りますね」
「あんたら、嫌味か?」

 うなるような声でそう言ったのは、ジュダだ。口をへの字に曲げて、真純とフィリッポを見つめている。

「二人とも、十分役に立っただろうが! 俺なんて、あんな小さい火しか出せなかったんだぞ? くそっ。セバスティアーノ国王にせせら笑われて!」

 ルチアーノは、そんなジュダを励ますように語りかけた。

「初回なのだから、仕方なかろう。それにそなたは、剣術で十分活躍してくれたではないか。両方こなせる者など、そうそうおらぬぞ?」
「そうですよ。さっき呪文を覚えたばかりなんですから」

 真純も、フォローした。一方フィリッポは、微妙な顔をしている。

「しかし、さすがにあの小ささは……。もしや、短縮詠唱を? 時間が足りないからと?」
「いや? 教わった呪文を、そのまんま詠唱したんだけど。大体、短縮のやり方なんて知るわけない」

 ジュダが、即座に答える。フィリッポは、頭を抱えてしまった。

「短縮ではないと!? 正規の呪文で、あの小ささ……。火の発生は、基本中の基本だというのに。『一番易しい魔術書』では難しかったでしょうか。『よいこのまほうずかん』を持って来るべきでしたかね」
「てめ……、馬鹿にしてんのか!」

 ジュダが、憤然と立ち上がる。真純は、慌ててフィリッポに話しかけた。

「追い打ちをかけるのは止めてください! せっかく三日あるんだから、ジュダさんだってその間に練習できますよ。他の魔術師さんたちだって、助けてくださるわけですし」

 折しも真純がそう言った時、ノックの音がした。先ほどの魔術師たちが、顔をのぞかせる。

「改めまして、ご挨拶をと思いまして」
「こちらこそ、礼を言いたいと思っていた。どうぞ、入られよ」

 ルチアーノは、機嫌良く答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される

ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ
BL
「くそっ!なんで俺が国外追放なんかに!」 卒業パーティーから戻った兄が怒り心頭になりながら歯軋りしている。 そんな兄に付き合って毒親を捨てて隣国に逃げ出したけど…。 これは恋人同士と思っていた第二王子と、友人兼セフレだと思っていた公爵令息のすれ違いのお話。 ※本編完結済みです。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

処理中です...