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第十一章 最強魔法対決!

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「フィリッポさん……」

   何と返してよいかわからず、真純は言葉に詰まった。そこへ、ボネーラとグレゴリオが現れた。

「おお、もう支度なさったのですか。では、お気を付けて行ってらっしゃいませ」

 二人が、神妙に頭を下げる。だが真純はおやと思った。出発するというのに、馬車がちっとも姿を見せないのだ。

「あの……」

 確認しようとしたその時、不意にパタパタという足音が聞こえた。振り返って、真純は驚いた。アントネッラが、走って来たのだ。あの後、ニトリラに帰るのは危険ということで王宮に留まった彼女だが、どうしたというのだろう。単なる見送りにしては、妙に焦った様子である。

「フィリッポ君……、いえ、フィリッポ様。聞きましたわ。セバスティアーノ国王の魔法に、立ち向かわれると?」

 息せき切って、アントネッラは尋ねた。そして、とんでもない言葉を続けるではないか。

「では、魔道具をお持ちしますわ!」
「魔道具!? あなたが持っておられると?」

 フィリッポが、目を剥く。アントネッラは、気恥ずかしそうな顔をした。

「フィリッポ様。あなたには、重ね重ね申し訳ないことをしましたわ……。実は、ニトリラ火災の後、ベゲット様のお家で一点だけ無事な魔道具を見つけましたの。指輪なのですけれど。それで、その……。ベゲット様の思い出になる物が欲しくて、こっそり持ち帰ってしまいました」

 フィリッポは、深いため息をついた。

「本当に、重ね重ね迷惑をかけてくれますね」
「ごめんなさい!」

 アントネッラは、平身低頭といった様子で謝罪した。

「ですので私、今からニトリラへ急ぎ戻りますわ。自室にある、秘密の小箱に入っているのです」
「夫人が、自ら戻られるのですか? それは危険ですぞ」
 
  ボネーラは、眉をひそめた。

「戦場でないとはいえ、今国内をみだりに動き回るのは危ない。ニトリラへ伝達して、そこからギルリッツェへ送らせては?」
「小箱は、鍵付きです。その鍵は、私が持っているのです」

 アントネッラは、懐から小さな鍵を取り出した。

「ですから、私が参らねばなりません。……それに、フィリッポ様にお詫びがしたいのです。あの指輪は、きっとお役に立ちましょう」

 アントネッラの表情からは、固い決意が読み取れた。フィリッポが頷く。

「確かに、ベゲット様の魔道具なら、高い効果が期待できそうですね。では、お願いしても?」
「ええ、もちろん。すぐに行って参りますわ!」

 アントネッラは、即座に踵を返すと、去って行った。ボネーラは、微苦笑を浮かべた。

「夫人なりに、罪滅ぼしがしたいのでしょうな」
「せいぜい、早く届けてくださることを期待しますよ」
 
  フィリッポは肩をすくめると、真純に向かって「行きましょう」と告げた。

「はい……。あの、でも、馬車がまだなのでは?」

 するとフィリッポは、思いがけないことを言い出した。

「馬車なんて使いませんよ。あちらは急を要するというのに、ちんたら向かっている場合ですか」
 
  そしてフィリッポは、マントを広げた。真純に向かって、にっこり笑う。

「飛行魔法を用います」
「え……、えええ!?」

 あれよあれよという間に、真純はフィリッポのマントに包み込まれた。フィリッポが、真純の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。

「しっかり、つかまっていてくださいね。ふふ、役得だな。ルチアーノ殿下が、歯ぎしりして怒りそうです」
「あのあの、でも……」

 とりあえずフィリッポの肩にしがみつきながら、真純は尋ねた。

「これまで、飛行魔法を試したことって?」
「初体験ですね」

 しれっと、フィリッポが答える。抗議しようとした真純だったが、それより早く彼が呪文を唱えた。とたんに、足が地から離れる。

「行ってらっしゃいませー!」

 ボネーラとグレゴリオの明るい声に見送られ、真純はフィリッポと共に、空へと舞い上がったのだった。
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