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第十一章 最強魔法対決!

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「――何でですか!」

 一拍の後、意味を理解した真純は、大声を上げていた。

「僕は、ルチアーノ殿下に誓ったんですよ!? ずっと、この国に残ると。殿下は、僕を伴侶と言ってくださいました!」
「落ち着いてください、マスミ殿」

 ボネーラの声音は冷静だった。

「このままいなくなれ、と仰っているのではありません。ルチアーノ殿下のお考えは、こうです。戦争が終わるまでの間、マスミ殿には元の世界で過ごしていただきたいと。そしてこの国に平和が戻ったら、あなたには戻って来ていただき、再び一緒に過ごそうと。今回は、それをお伝えしに参りました。もう準備は整ってございます」

 ボネーラは真純の手を引き、今にも部屋を連れ出す勢いだ。フィリッポも頷いた。

「そうですね、私もそれがよろしいかと……」
「嫌です。そんなことはできません」

 真純は、ボネーラの手を振り払った。彼が眉をひそめる。
 
「マスミ殿……」
「僕はこの国で、ルチアーノ殿下と生死を共にする覚悟です」
 
  二人が息を呑むのがわかった。

「僕は、殿下の伴侶なんですよね? それって、ミケーレ二世陛下にとってのエリザベッタ王妃陛下と同じ、ということでしょう。王妃様が、戦争状態になった自国を見捨てて、よそへ逃げますか!? 皆が危険な時に、自分だけちゃっかり逃げて、平和になったら戻って来るなんて、そんな卑怯な真似はできません!」

 ボネーラとフィリッポは、目を見張った。

「マスミ殿……」

 ボネーラは、しばらく思案する素振りを見せたが、やがて頷いた。 

「ルチアーノ殿下のご命令ではありますが、それほどまでのお覚悟なら、仕方ありませんな。……さすがは、殿下の選ばれたお方だ。肝が据わっておられる」

 そう言うとボネーラは、ちょっと微笑んだ。すみません、と真純は頭を下げた。

「殿下のお叱りなら、僕が受けますから。ボネーラさんのせいじゃない、僕がごねたんだとご説明します」
「ルチアーノ殿下がマスミさんをお叱りになることなんて、無いでしょうよ」

 フィリッポも、クスリと笑った。

「エリザベッタ王妃陛下の比喩はともかく、マスミさんは筋が通っていらっしゃる。また惚れ直しそうですね」

 フィリッポがそんな軽口を叩いたその時、激しいノックの音が聞こえた。扉を開けると、そこには血相を変えたグレゴリオが立っていた。

「おお、坊ちゃま……、いえ、ボネーラ様。ここにおいででしたか。大変でございます」

 グレゴリオは、慌ただしく走り込んで来た。

「ルチアーノ殿下より、緊急のご伝達です。セバスティアーノ国王は、攻撃魔法でアルマンティリアの土地と国民を襲っているとのこと。ついては、フィリッポ様に大至急協力を頼みたい、とのことでございます」

「魔法!?」

 ボネーラは、愕然とした表情になった。

「戦争において魔法を用いることは、禁忌。ホーセンランド・アルマンティリア間だけでなく、周辺諸国全てにおける、暗黙の了解だというのに。セバスティアーノ国王は、それを破られたと!?」

「クシュニアがあっという間に制圧されたのは、どうやらそれが原因だったようです」

 沈痛の表情で、グレゴリオが補足する。フィリッポは、蒼白な表情で頷いた。

「セバスティアーノ殿下が国王になられたと聞いた時から、嫌な予感がしていたのです。彼は、高い能力を持つ魔術師でもあられる……。わかりました、すぐに向かいましょう」

 それでフィリッポは、やけに動揺していたのか。戦いに魔法が加わった光景を想像して、真純はぞっとした。すると、ボネーラがこんなことを言い出した。

「フィリッポ殿。差し出がましいようですが、魔道具はお持ちではありませんか? セバスティアーノ国王に対抗するには、頼れる物は多い方がいいでしょう」

 だがフィリッポは、残念そうにかぶりを振った。

「ベゲット様がお持ちだった魔道具は、ニトリラの火災時に全て燃えてしまいました。魔術書は神殿に隠されましたが、魔道具類はご自宅に置かれたままだったので」

 恐らくは、王妃がニトリラを守ると約束したため、ベゲットは安心してしまったのだろう。真純は内心歯がみした。

「仕方ないですね。では、ご武運をお祈りします」

 緊張した面持ちで、ボネーラがフィリッポを見つめる。真純は、そんな二人に声をかけた。

「あの。僕も、同行させてください」
「はい!? 何を仰います」

 ボネーラは、顔色を変えた。

「この世界に残るのは、百歩譲って許可しましたがね。戦闘が繰り広げられている地域に、マスミ殿を行かせられるわけが無いでしょう。ルチアーノ殿下が、何と仰るか!」
「僕だって、水の魔術師なんです」

 真純は主張したが、今度はフィリッポもかぶりを振った。

「お止めなさい。前回の魔物退治とは、わけが違います。失礼ですが、あなたにできることは無いでしょう」
「風火水土がそろうと良いのではなかったですか」

 真純は、じっとフィリッポを見つめた。彼が、虚を突かれた表情になる。

「戦地には、風属性の魔術師である殿下と、火属性のジュダさんがいます。土属性のフィリッポさんと、さらに水属性の僕が加われば、風火水土が完成するじゃないですか!」

 フィリッポは、数秒間思案した後、ボネーラの方を見た。

「マスミさんの言う通りのような気がしてきました。ご同行いただいても?」
「フィリッポ殿まで!」

 ボネーラは悲鳴のような声を上げたが、フィリッポはこう言い張った。

「絶対に、私がマスミさんをお守りしますから」
「ああ、もう、あなた方は無茶ばかり仰る……。このままでは私、口ひげが無くなりそうです」

 ボネーラが、乱暴に数回口ひげを撫でる。確かに、以前よりも薄くなっている様子だ。

「……はあ、仕方ありませんね。ではフィリッポ殿、マスミ殿のこと、くれぐれもよろしくお願いしますぞ」

 根負けしたように、ボネーラが首を縦に振る。フィリッポは即答した。

「もちろんです。私の命に替えても、お守りしますとも」
「本当に、頼みますよ!?」

 ボネーラが念を押す。フィリッポは頷くと、踵を返した。真純も、大急ぎで出かける支度を始める。ボネーラはため息をつくと、口ひげを大切そうに撫でながら出て行った。
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