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第七章 殿下、あなたを信じていいのですか
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翌日の夜。真純は勇気を振り絞って、ルチアーノの部屋を訪れた。
(これは、賭けだ)
今日、ルチアーノは本当に離宮を訪れるのか。疚しい所が無いのなら、正直に語ってくれるはずだった。
(そうでないなら……、いや、そんなことを考えるな)
パッソーニの追放にあれだけの意気込みを見せていた、ルチアーノのことだ。彼の妻に近付くのは、計画の一環に決まっている。
(……でも)
昨日、広間で見たラウラの顔を思い出して、真純はやや弱気になった。華やかで美しく、円熟した大人の女性の色気を醸し出していた。心を惹かれる男性は、数多くいることだろう。今日一日、真純はそのことばかり考えていた。フィリッポから魔術書を借り、水の浄化魔法を練習したが、まるで身が入らなかったくらいだ。
ノックをして名乗ると、ルチアーノはすぐに開けてくれた。だが、その姿を見て、真純は心が陰るのを感じた。彼は、外出姿だったのだ。
「出かけられるのですか」
思い切って尋ねると、ルチアーノは微笑みながら頷いた。
「ああ。少し用があってな」
「大事なご用なのでしょうか」
「いや。大したことでは無い」
深く落胆するのを、真純は感じていた。ルチアーノは、なぜ本当のことを言ってくれないのだろう。それとも、ラウラと会うというのはデマで、娼館の方へ行くのだろうか。だとすれば、真純に目的を伏せるのも納得だ。
「何か話があったのだろう? すまぬな」
ルチアーノは、相変わらず微笑を浮かべている。いつもの魅力的な笑顔だというのに、それは急に、作り笑いのように思えてきた。
「いえ……」
少し思案した後、真純はこう頼んでみた。
「殿下。お戻りになるまで、この部屋で待たせていただけませんか? お時間がかかっても、構いませんから」
「いや」
ルチアーノは、即座にかぶりを振った。
「いつになるかわからぬのだ。自分の部屋へ戻って、休みなさい」
「殿下……」
目の前が真っ暗になる気がした。大した用でないなら、どうしてそんなことを言うのだ。部屋で待たれるのを嫌がるのは、情事の痕跡を悟られたくないからか。
「いかがした? さびしいのか」
ルチアーノは、真純の髪を優しく撫でた。
「明日になったら、ちゃんと話を聞いてやるゆえ、今夜は辛抱してくれ。ああそれから、キキョウだが。すでに、モーラントとクオピボに送らせた。早馬ゆえ、すぐに届くぞ。よかったな」
礼を述べながらも、真純はため息をつきたくなった。ルチアーノの口調は、不自然に早口だったのだ。もう間違い無い。彼は何かを隠し、誤魔化そうとしている……。
「お忙しい時に、失礼しました」
真純は、ぺこりと頭を下げて、踵を返した。
「うむ。早く休めよ」
そんなルチアーノの言葉を背後に、真純は部屋を出た。自室に戻ると、廊下の前でペサレージが待機していた。ルチアーノには内緒で離宮まで付き添ってもらうよう、依頼していたのである。
「どうされます?」
ペサレージは尋ねた。確実に行くかはわからない、と真純は話していたのだ。もしルチアーノが本音を語ってくれたら、尾行などするつもりは無かった。
「行きます」
真純は、ペサレージの目を見て告げた。
(これは、賭けだ)
今日、ルチアーノは本当に離宮を訪れるのか。疚しい所が無いのなら、正直に語ってくれるはずだった。
(そうでないなら……、いや、そんなことを考えるな)
パッソーニの追放にあれだけの意気込みを見せていた、ルチアーノのことだ。彼の妻に近付くのは、計画の一環に決まっている。
(……でも)
昨日、広間で見たラウラの顔を思い出して、真純はやや弱気になった。華やかで美しく、円熟した大人の女性の色気を醸し出していた。心を惹かれる男性は、数多くいることだろう。今日一日、真純はそのことばかり考えていた。フィリッポから魔術書を借り、水の浄化魔法を練習したが、まるで身が入らなかったくらいだ。
ノックをして名乗ると、ルチアーノはすぐに開けてくれた。だが、その姿を見て、真純は心が陰るのを感じた。彼は、外出姿だったのだ。
「出かけられるのですか」
思い切って尋ねると、ルチアーノは微笑みながら頷いた。
「ああ。少し用があってな」
「大事なご用なのでしょうか」
「いや。大したことでは無い」
深く落胆するのを、真純は感じていた。ルチアーノは、なぜ本当のことを言ってくれないのだろう。それとも、ラウラと会うというのはデマで、娼館の方へ行くのだろうか。だとすれば、真純に目的を伏せるのも納得だ。
「何か話があったのだろう? すまぬな」
ルチアーノは、相変わらず微笑を浮かべている。いつもの魅力的な笑顔だというのに、それは急に、作り笑いのように思えてきた。
「いえ……」
少し思案した後、真純はこう頼んでみた。
「殿下。お戻りになるまで、この部屋で待たせていただけませんか? お時間がかかっても、構いませんから」
「いや」
ルチアーノは、即座にかぶりを振った。
「いつになるかわからぬのだ。自分の部屋へ戻って、休みなさい」
「殿下……」
目の前が真っ暗になる気がした。大した用でないなら、どうしてそんなことを言うのだ。部屋で待たれるのを嫌がるのは、情事の痕跡を悟られたくないからか。
「いかがした? さびしいのか」
ルチアーノは、真純の髪を優しく撫でた。
「明日になったら、ちゃんと話を聞いてやるゆえ、今夜は辛抱してくれ。ああそれから、キキョウだが。すでに、モーラントとクオピボに送らせた。早馬ゆえ、すぐに届くぞ。よかったな」
礼を述べながらも、真純はため息をつきたくなった。ルチアーノの口調は、不自然に早口だったのだ。もう間違い無い。彼は何かを隠し、誤魔化そうとしている……。
「お忙しい時に、失礼しました」
真純は、ぺこりと頭を下げて、踵を返した。
「うむ。早く休めよ」
そんなルチアーノの言葉を背後に、真純は部屋を出た。自室に戻ると、廊下の前でペサレージが待機していた。ルチアーノには内緒で離宮まで付き添ってもらうよう、依頼していたのである。
「どうされます?」
ペサレージは尋ねた。確実に行くかはわからない、と真純は話していたのだ。もしルチアーノが本音を語ってくれたら、尾行などするつもりは無かった。
「行きます」
真純は、ペサレージの目を見て告げた。
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