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第七章 殿下、あなたを信じていいのですか

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 解散後、帰って行くクオピボ騎士団を見送ると、真純とフィリッポはルチアーノの部屋に呼ばれた。コッサート、ペサレージも一緒である。

「先ほどは、感謝する。真実を伏せておいてくれたことだ」

 ルチアーノが、ペサレージを見やる。右腕を切り落とした際の状況を、微妙に脚色したことだろう。

「とんでもない」

 ペサレージは、恐縮した。

「私こそ、お二人を守り切れないどころか、ヘマでジュダさんを傷つけてしまったというのに……。お許しいただけた上、近衛騎士団への門戸まで開いてくださって。感謝しても、しきれません」

「これから精進すればよかろう」

 ルチアーノは、励ますように微笑むと、下がって休むよう指示した。ペサレージとコッサートが出て行くと、フィリッポが苛立たしげに尋ねた。

「それより。パッソーニの指示だということを、なぜ伏せさせたのです?」
「今は言えぬのだよ」

 ルチアーノは、短く答えた。

「優先すべき最重要事項は、私の出生問題だ。それを明らかにするまでは、パッソーニを糾弾できぬ……。だから、指揮官にはあえてああ語らせた。見返りは、死罪の回避だ。誰が命じたにせよ重罪は免れぬだろうが、とりあえず私の指示通りに語れば、幽閉で済ませられると唆した」

 フィリッポは、ぴくりと片眉を上げた。

「とりあえず? では、いずれは真実を語らせると?」
「さよう。時期が来たら、ニトリラ焼き討ちの証拠とも併せ、一気に奴を追い込むつもりだ。それも見越して、彼らを生かした」

 なるほど、と真純は頷いた。

「欠員を利用して、騎士団の改革もできそうですし、コッサートさんペサレージさんの希望も叶いますね。一挙両得です」

 全て順調ではないかと思った真純だったが、ルチアーノは険しい表情をしていた。

「マスミ殿。喜んでばかりはいられぬぞ。最大の敵は、王妃陛下だ。今日も、私を一見持ち上げつつ、残忍な印象を皆に植え付けた」
「強かなお方、という印象ですね」

 フィリッポも同意した。

「モーラントにいた頃は、王妃陛下といえば、良い噂しか伺いませんでしたが。国王陛下をしっかりお支えになっているとか」
「国王陛下が、あのようなお方だからな。比較の問題だろうよ」

 ルチアーノが、フンと鼻を鳴らす。さすがに、一緒になって国王を批判するわけにもいかず、フィリッポと真純は黙り込んだ。

「……まあ、しかし。王妃陛下が、国内のために尽力なさってこられたのは確かだ。たとえ人気取りの一環だとしても、慈善事業には特に熱心であられた。救貧院や孤児院を頻繁に訪問されては、運営に意見なさっているとか。その点は、私もお認め申し上げている」

 いささか取って付けたように付け加えると、ルチアーノは席を立った。

「さて。そなたらも、ご苦労であった。しばらくは、王宮でゆっくりと過ごすといい。何かしてみたいことはあるか? 遠慮無く申してみよ」
「そうですね……」

 真純は、考え込んだ。まずは、水魔法をもっと学びたい。図書館から借りた薬学書も、まだ手つかずなので、読みたいところだ。

(……そうだ。薬といえば)

 真純は、思いついた。

「殿下。離宮に行かせてもらっても? ほら、あのキキョウという草を、もっと採集したいのです」
「ああ、あれか。モーラントへ送ってやるのか?」

 以前にチラと漏らしたのだが、ルチアーノは覚えていたようだった。

「はい。あと、クオピボにも。領主様に良くしていただいたお礼の意味もありますが、あそこは空気が乾燥しているので。ああいう気候の場所は、喉がやられやすいんです」

 肝心な場面で失敗したのを思い出したのか、フィリッポは気まずそうな表情になった。一方ルチアーノは、思案顔になっている。

「なるほど。マスミ殿の思いやりはわかるが。出歩くとなると……」
「危険でしょうか?」
「それはそうだろう。パッソーニの主な標的はフィリッポ殿だが、王妃陛下は確実にそなたを狙っているはず」

 ダメだろうかと諦めかけた真澄だったが、ルチアーノはぽんと膝を叩いた。

「では、こうしよう。これから、例の近衛騎士らを離宮へ護送するのだ。今度こそ信頼できる者で固めているゆえ、マスミ殿も同行すればよい」
「わあ、ありがとうございます」

 真純は、顔を輝かせた。ルチアーノは満足げに頷くと、今度はフィリッポを見やった。

「フィリッポ殿は?」

 するとフィリッポは、意外なことを言い出した。

「私も、外出したく存じます」
「そなたもか」

 ルチアーノは、眉をひそめた。

「マスミ殿に同行すると?」
「いえ」

 フィリッポは、きっぱりと否定した。

「僭越ながら、今度王妃陛下が慈善活動をなさる際、同行させてはいただけないでしょうか。特に……、孤児院を訪ねたいと思っております」

 ルチアーノは、面食らったような顔をした。

「一体、何ゆえだ?」
「今後、宮廷魔術師として活動するためには、まずは王都のことをよく知らねばなりません。私は、ニトリラ、モーラントしか住んだことがありませんので、色々と見て回りたいのです」

 ルチアーノは、また考え込んだ。

「気持ちはわかるが。わざわざ王妃陛下に同行すると?」
「今日の陛下の態度から推察するに、彼女はパッソーニの味方とは思えません。もし奴を追い出したいと思っているなら、陛下にとって私は都合良い存在では? 少なくとも、呪いを解く能力のあるマスミさんよりは、危険度は低いかと」

 ルチアーノは、頷いた。

「そこまで望むのなら、話をつけよう。警護は、十分に付ける。そなたの予想が当たるかはわからぬが、少なくとも共に居る時に何かあれば、疑われるのは王妃陛下だ。そのような真似はなさらぬであろう」
「感謝いたします」

 フィリッポは、深々と礼をした。
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