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第六章 魔物なんて狩れません!

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「パッソーニなど、インチキ魔術師です! 属性など、でたらめを申しているに決まっております」
 
  ジュダがわめく。だがルチアーノは、首をかしげた。

「そうであろうか。いくら適当に言ったとしても、全く素養の無い属性を自己申告するとは思えぬ。恐らくパッソーニは、多少なりとも風属性を持っているのだろう」

 ルチアーノの横顔は、陰ったままだ。真純、ジュダ、フィリッポの三人は、再び顔を見合わせていた。誰も、かける言葉を見つけられない。ルチアーノは、そんな皆の気配を察したらしかった。三人に向かって微笑む。

「おお、ずいぶん長居をしてしまったな。ジュダ、怪我に障らぬよう、早く休め。フィリッポ殿とマスミ殿もだ。魔法を使って、疲れたであろう」
 
 そう言うとルチアーノは、さっさと部屋を出て行った。決まり悪そうに、フィリッポも席を立つ。

「では、私も失礼を。今日は、確かにくたびれました……。ジュダさん、お大事に」

 フィリッポが出て行く。真純も続いて席を立とうとしたが、思いがけずジュダが引き留めてきた。

「何です?」
「殿下の所へ行って差し上げてくれ」

 ジュダの眼差しは真剣だった。

「風属性だとわかったことで、パッソーニが父親である可能性は高くなった。さぞ、落ち込んでおられることだろう。お前なら、殿下を支えて差し上げられる」
「僕が、ですか?」

 真純はためらった。

「そりゃ、殿下が心配なのはやまやまですが。その役割なら、ジュダさんの方が適任なのでは? 一の家臣だ、と今日も仰っていたではないですか」

 幼い時から一緒に過ごしているジュダの方が、ルチアーノの気持ちを理解してあげられるだろうと思ったのだが、ジュダはなぜか微苦笑を浮かべた。

「ああ、確かに一の家臣だ。つまり、家臣だ。お前とは違う」
「それって……」
「馬鹿」

 ジュダは、大きくため息をついた。

「お前、あの森に脳みそを落っことして来たのか? 今日あった出来事を、もう忘れたのかよ? どうして俺が、フィリッポでなくお前を守ったか、だ。宮廷魔術師になろうかという優秀な魔術師よりも、お前を優先した理由がわからないか?」
「……あ」

 真純は、思い出していた。二手に分かれて逃げていた時、ジュダはこう言わなかったか。

 ――お前が死んだら、殿下が悲しむだろうが……。

「殿下は、お前を愛しておられる」

 ジュダは、ぽつりと呟いた。その横顔は、苦しげに歪んでいた。

「辛い時に寄り添ってもらいたいのは、家来じゃなくて愛する人だろう。ここまで言わせんなよ!」

(殿下が、僕を……?)

 真純は、ぽかんと口を開けていた。自分は、ただの回復魔術師ではなかったのか。ルチアーノが真純を抱くのは、呪いを解くため。良くしてもらっている自覚はあるが、そこにそれ以上の感情があるとは思わなかった。

(でも……)

 真純は、ジュダをチラと見た。彼は黙りこくったままだ。

「行きます」

 そう返事をして、真純は踵を返していた。ジュダの言うことが当たっているかはともかく、ルチアーノの元へは行かねばならない。そんな気がしたのだ。
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