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第六章 魔物なんて狩れません!
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「どうしてここに?」
気のせいではなく不機嫌な口調で、フィリッポが尋ねる。ジュダは、けろりと答えた。
「あんたら二人の護衛のために、決まってんだろ? まったく、殿下も過保護だよなあ。いくらニトリラがクオピボに近いからって、すぐに向かえだなんて。せっかく、順調に調査してたとこだったのにな」
ジュダは、ずかずかと入って来ると、二人の向かいに腰かけた。調査を中断させたのは申し訳なかったが、真純はほっとしていた。ルチアーノの気遣いもありがたいし、フィリッポと二人きりになるのを回避できた。
(一時的な逃げに過ぎないのは、わかってるけど……)
「二人の護衛じゃなくて、マスミさんの護衛じゃないんですか。色んな意味でね」
棘のある口調で言い捨てると、フィリッポは立ち上がった。部屋にあったブランデーの瓶と、グラスを出して来る。
「領主様からの差し入れです。私は明日、万全の体調で魔法を使いたいので、飲みませんが。ジュダさんは、お疲れでしょうから」
「お、これは嬉しいな」
ジュダは、笑みを浮かべてセットを受け取った。チラと真純を見る。
「確かに、お前限定の護衛かもな。弱っちいくせに、何でまた、魔物退治に駆り出される羽目になったんだよ?」
「いや、それがですね……」
フィリッポの含みのある言葉に、ジュダは気付かなかったようだった。そのことに安堵しつつ、真純は一連の経緯を語った。水魔法を成功させたことも、一応付け加えておく。
「けど、その程度じゃ、魔物は狩れないわな。仕方ない。俺が警護してやるよ」
一刀両断に切り捨てられ、真純は頭を下げるしかなかった。
「すみません」
「ところで、ジュダさんの方は? 何かわかりましたか?」
フィリッポが尋ねる。ジュダは、にんまりと笑った。
「二人とも、よく聞け。さすがはジュダ様だぞ? この短期間で、興味深い事実を得た」
真純とフィリッポは、身を乗り出した。
「焼き討ちの証拠ですか?」
フィリッポは勢い込んだが、ジュダは否定した。
「いや、それは残念ながらまだだ。だが、神官ユリアーノから話を引き出すことができた。火災前、ベゲット宅周辺をうろついていた理由だ」
ジュダは、ベゲットの偽手記を作成したのだと語った。以前収集した、彼の手紙やメモを元にして、筆跡を徹底的に真似たのだという。
「ベゲット様のふりをして、こう書いたんだ。ユリアーノが、自宅近辺に出没している。息子の命を狙い、村に火を放つつもりだろう、と」
「鎌をかけたんですね?」
その通り、とジュダは頷いた。
「ベゲット様の死因は、禁呪の跳ね返りだ。となると、うろついていた理由は恐らく、ご子息狙いだろう。つまりユリアーノは、パッソーニの手先ということになる。だとすれば、火を放ったのも奴の可能性が高い。火事の際、冷静な対応ができた理由も、奴が犯人なら納得だ。だから、揺さぶりをかけてみた。ああ、すまん。勝手にベゲット様を騙ってしまって」
「いえ。それで真相がわかるなら構いませんよ」
フィリッポは、真剣な表情で頷いた。ほっとした様子で、ジュダが話を続ける。
「ユリアーノは、手記を本物と信じ込んだようだった。それで俺は、王太子の代行権限をちらつかせて、素直に白状すれば罪は減免されると伝えた。だが……、奴は否定した。焼き討ちも息子殺しも、やっていないと」
「何です、それ。何も収穫が無いじゃないですか」
フィリッポはがっくりとうなだれたが、ジュダは平然としていた。グラスにブランデーを注ぎ、一気にあおる。
「まあ、聞けって。ベゲット宅付近にいたこと自体は、ユリアーノは認めたんだ。その上で奴は、妙なことを言い出した。それは、息子殺しのためではない。自分がそこに行ったのは、赤子の遺体をベゲット宅に置くためだ、と」
気のせいではなく不機嫌な口調で、フィリッポが尋ねる。ジュダは、けろりと答えた。
「あんたら二人の護衛のために、決まってんだろ? まったく、殿下も過保護だよなあ。いくらニトリラがクオピボに近いからって、すぐに向かえだなんて。せっかく、順調に調査してたとこだったのにな」
ジュダは、ずかずかと入って来ると、二人の向かいに腰かけた。調査を中断させたのは申し訳なかったが、真純はほっとしていた。ルチアーノの気遣いもありがたいし、フィリッポと二人きりになるのを回避できた。
(一時的な逃げに過ぎないのは、わかってるけど……)
「二人の護衛じゃなくて、マスミさんの護衛じゃないんですか。色んな意味でね」
棘のある口調で言い捨てると、フィリッポは立ち上がった。部屋にあったブランデーの瓶と、グラスを出して来る。
「領主様からの差し入れです。私は明日、万全の体調で魔法を使いたいので、飲みませんが。ジュダさんは、お疲れでしょうから」
「お、これは嬉しいな」
ジュダは、笑みを浮かべてセットを受け取った。チラと真純を見る。
「確かに、お前限定の護衛かもな。弱っちいくせに、何でまた、魔物退治に駆り出される羽目になったんだよ?」
「いや、それがですね……」
フィリッポの含みのある言葉に、ジュダは気付かなかったようだった。そのことに安堵しつつ、真純は一連の経緯を語った。水魔法を成功させたことも、一応付け加えておく。
「けど、その程度じゃ、魔物は狩れないわな。仕方ない。俺が警護してやるよ」
一刀両断に切り捨てられ、真純は頭を下げるしかなかった。
「すみません」
「ところで、ジュダさんの方は? 何かわかりましたか?」
フィリッポが尋ねる。ジュダは、にんまりと笑った。
「二人とも、よく聞け。さすがはジュダ様だぞ? この短期間で、興味深い事実を得た」
真純とフィリッポは、身を乗り出した。
「焼き討ちの証拠ですか?」
フィリッポは勢い込んだが、ジュダは否定した。
「いや、それは残念ながらまだだ。だが、神官ユリアーノから話を引き出すことができた。火災前、ベゲット宅周辺をうろついていた理由だ」
ジュダは、ベゲットの偽手記を作成したのだと語った。以前収集した、彼の手紙やメモを元にして、筆跡を徹底的に真似たのだという。
「ベゲット様のふりをして、こう書いたんだ。ユリアーノが、自宅近辺に出没している。息子の命を狙い、村に火を放つつもりだろう、と」
「鎌をかけたんですね?」
その通り、とジュダは頷いた。
「ベゲット様の死因は、禁呪の跳ね返りだ。となると、うろついていた理由は恐らく、ご子息狙いだろう。つまりユリアーノは、パッソーニの手先ということになる。だとすれば、火を放ったのも奴の可能性が高い。火事の際、冷静な対応ができた理由も、奴が犯人なら納得だ。だから、揺さぶりをかけてみた。ああ、すまん。勝手にベゲット様を騙ってしまって」
「いえ。それで真相がわかるなら構いませんよ」
フィリッポは、真剣な表情で頷いた。ほっとした様子で、ジュダが話を続ける。
「ユリアーノは、手記を本物と信じ込んだようだった。それで俺は、王太子の代行権限をちらつかせて、素直に白状すれば罪は減免されると伝えた。だが……、奴は否定した。焼き討ちも息子殺しも、やっていないと」
「何です、それ。何も収穫が無いじゃないですか」
フィリッポはがっくりとうなだれたが、ジュダは平然としていた。グラスにブランデーを注ぎ、一気にあおる。
「まあ、聞けって。ベゲット宅付近にいたこと自体は、ユリアーノは認めたんだ。その上で奴は、妙なことを言い出した。それは、息子殺しのためではない。自分がそこに行ったのは、赤子の遺体をベゲット宅に置くためだ、と」
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