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第四章 時に愛は、表現を間違えがち

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「こんな……、嘘です!」

 真純は、反射的に手紙をジュダに突き返すと、首を振っていた。だが、強く言い切ることはできなかった。手紙の筆跡は、フィリッポに見せられた一枚目のそれと、一致していたからだ。

(それに、禁呪の内容も、納得できる……)

 確かに、ルチアーノの『長所』は『害悪』に変わった。その美しさで、人を死に至らしめたのだ。『関わった全ての人間に不幸をもたらす』結果になったのも、その通りである。

「俺だって、嘘だと思いたかったさ。ルチアーノ殿下が、あのパッソーニの子供だなんて」

 ジュダが、辛そうに下を向く。

「けど、全部辻褄は合ってる。憎いパッソーニの子が王位を継ぐかもしれない、なんて。そりゃベゲットからしたら、禁呪をかけてでも止めたかっただろうさ」
「だから、殿下には伏せたんですね」

 真純は、ぽつりと言った。ジュダが、黙って頷く。

「お見せするわけにはいかないだろ、こんなの。ベゲットが禁呪の犯人では、と殿下が言い出された時は、ドキッとしたぜ。手紙の内容に感付かれたかってな」

 だからあの時、ジュダは挙動不審だったのか、と真純は合点した。

「手紙を見せることはできない。でも、殿下に秘密を抱えたままお仕えし続けることも、俺にはできなかったんだ……」
  
 ジュダが、頭を抱える。その時、バンと扉が開いた。真純とジュダは、ぎょっとした。そこに立っていたのは、ルチアーノだったのだ。

(聞かれた……!?)

「全て聞かせてもらった」

 ルチアーノが、静かに告げる。ジュダは、手紙を手にしたまま、わなわなと震え始めた。

「で、殿下……。その、私は……」
「そのようなことではないかと思っていた」

 真純とジュダは、思わずルチアーノの顔を見上げた。ルチアーノは、後ろ手で扉を閉めると、つかつかと部屋に入って来る。ジュダの前まで来ると、ルチアーノはなぜか、ふっと笑った。

「何年の付き合いになると思っている? お前が嘘をつく時は、すぐわかる」

 そう言ってルチアーノは、ジュダの頭をぽんぽんと撫でた。

「隠し事がある時、お前は私の目を見ない。それに、知っていたか? お前は、必ず髪をかきむしるのだ。手紙を持ち帰ったであろうことは、容易に想像できた」

 そういえばジュダはそんな仕草をしていた、と真純は思い出した。ルチアーノが、穏やかに続ける。

「お前は優しい人間だな、ジュダ。私を傷つけまいと、慮った。さりとて、嘘を突き通しながら私に仕えることもできぬ、と。お前のそういう潔い性格は、昔から評価しておる」
「お許しいただけるのですか……?」

 ストンと床にへたり込みながら、ジュダがか細く呟く。ああ、とルチアーノは頷いた。

「また、嘘をついてしまったのに……でございますか?」
「前回の嘘は、そなた自身のためのもの。今回は、私を守るため。まるで違うではないか」

 ルチアーノは微笑んだ。

「マスミ殿は、こう言ったな。そなたは愛情表現を間違えた、でもやり直せるはずだと。その通りではないか」

 ジュダの瞳に、涙が浮かぶ。その時だった。ドンドンと、激しく扉を叩く音がした。真純は、走り寄って扉を開けた。そこに立っていた人物を見て、思わず目を見張る。

「ボネーラさん! お久しぶりです」

 王都にいるはずの彼が、なぜ急に訪ねてきたのか。ルチアーノは、急いで仮面を装着すると、ボネーラの方に向き直った。

「急に、いかがした?」
「突然の訪問にて、失礼を」

 ボネーラは、うやうやしく礼をした。

「ですが、国王・王妃両陛下の、緊急のご命令です。国王陛下のご体調は、悪化される一方。つきましては、呪いが解けていなくても構わないので、早急に王都へ戻るようにとのことです。恐らくは、ルチアーノ殿下に宮廷入りさせ、正式に次期王位継承者と発表なさるおつもりかと」

 真純とジュダは、呆然と顔を見合わせ合った。この状況で、ルチアーノは一体どう答えるつもりだろう。恐る恐る、ルチアーノの顔を見つめる。ややあって、彼は頷いた。

「承った」
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