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第四章 時に愛は、表現を間違えがち

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 それから一時間後。湯浴みを終えた真純は、ルチアーノとベッドの上にいた。

「久々だ。慎重にいたそう」

 ヘッドボードにもたれた状態で、背後から真純を抱きしめながら、ルチアーノが囁く。真純は、こくりと頷いた。確かに、モーラントへ来てから一週間が経つが、本格的に抱かれるのは初めてだ。前回は、互いに口淫をし合っただけだった。

「んっ……」

 寝間着の隙間から入って来た手に、胸の飾りを摘ままれて、真純は軽い喘ぎを漏らした。ルチアーノは、そこを揉んだり撫でたりしながら、首筋に吸い付いてくる。慎重を通り過ぎて、焦れったいほどのゆっくりとした動きだった。

「痕……、消えてしまったようだな」

 ねっとりと真純のうなじを舐め上げながら、ルチアーノが呟く。真純は、ハッとした。身をよじって、背後を振り返る。エメラルドグリーンの瞳と目が合った。

「殿下! あのっ……。その、もう痕は付けないでいただけませんか? 大変なんです。ラフで隠さないといけませんし……」

 前回ルチアーノに付けられた赤い名残が、ようやく消えたばかりなのだ。また付けられては大変と慌てた真純だったが、ルチアーノは軽く目を吊り上げた。

(怒った……?)

 だがルチアーノは、意外なことを言い出した。

「ラフ、と言えば。思い出したぞ。先ほどフィリッポが着けていたラフ、どうも見覚えがあると思っていたのだが。マスミ、そなたも以前、よく似た物を着けていなかったか?」
「は? ええと……」

 さっきフィリッポがどんなラフを身に着けていたかなんて、思い出せない。記憶を辿っていたその時、両胸に鋭い刺激が走った。胸の突起に、ルチアーノが爪を立てたのだと気付く。思わず躰をよじったが、抵抗はルチアーノの脚で封じられた。

「マスミ?」

 ルチアーノは、真純の胸の飾りを執拗に揉み転がしては、押し潰す。痺れは、次第に快感に変わりつつあった。
 
「あっ……、それは、多分……」

 真純は、必死に考えを巡らせた。おぼろげな記憶だが、フィリッポがまとっていたのは、マルコの母親がくれた品だったように思う。見覚えのある品だとルチアーノが言ったのは、真純も着用したことがあったからだろう。それにしても記憶力がいい、と真純は感心した。

「フィ、リッポさんの教え子のお母さんが、あっ、くれた、ものだと……。んっ、僕ら二人に、くださったんです。お礼、だと仰って……」

 途切れ途切れの返答になってしまったのは、ルチアーノが胸への悪戯を止めないからだ。そういえばかまどは直ったのだろうか、と真純はぼんやり思った。

「……おそろいということか」

 低く呟くと、ルチアーノは不意に唇を離した。真純は、どうにか振り返った。

「何か……?」
「いや。そなたの言う通りだ。見える所に痕跡を残すのは、止そう。常にラフを着けねばならないのでは、窮屈であろう」

 一瞬安心した真純だったが、次の瞬間、ひゃっと悲鳴を上げていた。ルチアーノが、今度は耳に口づけたからだ。味わうように、ゆっくりと食む。

「んんっ……」
「マスミは、どこもかしこも敏感だな」

 からかうように言われて、真純は赤くなった。股間のものはすっかり勃ち上がり、蜜を垂らしている。いくら久々とはいえ、準備はもう十分すぎるくらい整っていると思うのだが……。

「あっ、ああっ、あっ……」

 肝心な場所にはまったく触れられていないというのに、これほど反応してしまうのが恥ずかしい。せめて声を抑えたいと思うものの、淫らな喘ぎは止まらなかった。ルチアーノは、そんな真純を抱きしめながら、含み笑いをしている。

「可愛らしい声だ……」
「あっ……、で、ルチアーノ……」

 せめてキスでもしてもらえれば、少しは声を抑えられるのに。だが、もう一度振り返ったものの、ルチアーノにその気配は無かった。

「口づけたいのは、やまやまだが。魔力を取り込んでしまうであろう? 久々なのだから、送り込む魔力量は控えたいのだ」

 気遣ってくれているのだろうか。それにしても、いい加減に次の段階へ進んでくれないものだろうか。腰に当たる硬い感触からして、ルチアーノの方も、十分準備は整っているように見えるのだが。
 
「……さて。そろそろよいだろうか」

 ようやく、耳と胸への攻撃が止む。ルチアーノは拘束を解くと、真純を仰向けに寝かせた。両脚を大きく開かせ、蕾へと指を滑らせる。そこは、真純の垂らした先走りで潤っていて、ルチアーノはくすりと笑った。

「さすがは、水の魔術師だ。盛大なことよ」
「そんなっ……」

 そんな風に例えられるのは、恥ずかしすぎる。真純は反射的にぎゅっと目を閉じたが、ルチアーノに頬を撫でられた。恐る恐る目を開けると、ルチアーノは真純の両手を取った。

「のう、マスミ。協力してくれぬか」

 言いながらルチアーノは、真純の両脚を持ち上げ、それぞれに真純自身の手を添えさせる。ルチアーノの意図を察した真純は、カッと頬を熱くした。

「でっ、ルチアーノ! どうして……」
「今宵は久々ゆえ、丁寧にほぐさねばならないであろう? 私は、そちらに集中せねばならぬ。だから、自身で脚を開くようにと言っておる」

 真純に、自身の両足首を持たせると、ルチアーノは蕾にゆっくりと指を沈めた。確かに、間が空いただけあって、きつい感じはするが。とはいえ……。

「あのっ。もう片方の手は、空いてらっしゃいますよね!?」
  
  真純は、必死に叫んだ。自分で自分の脚を持って、ルチアーノに向かって開脚するなんて、羞恥で目がくらみそうだ。だがルチアーノは、平然と答えた。

「こちらの手か? こちらでは、そなたの胸を可愛がってやらねばならないだろう? ……ああ、そうだ。そなたは、このやり方が好みであったかな」

 ルチアーノはクスリと笑うと、ベッドサイドから扇を取った。扇骨の先端で、ちょいちょいと真純の乳首をつつく。

(この前の……。やっぱり、わざとだったんだ……)

 とはいえ、冷静に思考している余裕は無かった。潜り込んできたルチアーノの指が、器用に襞をかき分けて奥へ侵入していくからだ。蜜液の助けも借りて、それは自由自在に蠢いては、真純の内部を刺激する。胸への愛撫も相まって、真純はだんだん耐え難くなってきた。股間のものは完全に張り詰め、痛いくらいだ。

「あっ……、もう……」

 ルチアーノの指が、真純の最も敏感な部分に到達する。あと一押しされたら、爆発してしまうだろう。そう思った、その時だった。指は、唐突に引き抜かれた。

「マスミ。思い出したのだが。コッサートに関してだ」
「は……、い?」

 真純は、ぼんやりした瞳でルチアーノを見上げた。ジュダが見張っていた、近衛騎士団の男だ。確かにルチアーノは、何かに気付いたようだったが。なぜ今、その話が出て来るのか。

「後で話すと言っていたであろう? 思い出した時に、告げておかねばな。私は、何分忘れっぽいゆえ」

(十分、記憶力はよろしいですけど!?)

 真純は、内心盛大にツッコミたくなった。ラフのデザインまで、覚えていたくらいだ。第一、この状況でする話題だろうか。

(自分で脚をおっぴろげて、もうちょっとでイキそうって時に? 違うでしょう、殿下~!)

 にこにこと微笑んでいるルチアーノに、真純は本気で怒りを覚えたのであった。
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