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第四章 時に愛は、表現を間違えがち
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案の定ルチアーノは、ある部屋の前で止まった。彼にしては乱暴な仕草で、ノックする。扉は、すぐに開いた。中ではジュダが、無表情で立ち尽くしていた。
「あいにくであったな。魔術書は、無事入手したぞ。マスミ殿が体を張ってくれたおかげでな」
火傷を負った真純の手を取って、ルチアーノが皮肉っぽく言う。ジュダはため息をつくと、二人を部屋に通した。ルチアーノは、ジュダの目をじっと見すえた。
「フィリッポに、この宿へ来るよう手紙を書いて送ったのは、そなただな?」
「はい」
ジュダは、静かに答えた。
「宿が分散し、伝達係を務めるようになったのを利用して、私は度々、フィリッポ宅の様子を窺いに行きました。思いがけなくも今日彼が帰宅したと知り、あの手紙を書いて、子供に届けさせたのです」
それをしていたから、ジュダは今日、剣の稽古に一時間遅れたのかと真純は悟った。
「ジュダ」
ルチアーノが、低く呟く。
「そなたは、これまで私に尽くしてくれた。私を幽閉したアルマンティリア王室に憤る気持ちも、わからなくはない。だが、この手紙は何だ。策を弄してまで、私の呪いが解けるのを防ぐつもりか。過去は過去として、国のために尽くしたいという私の王子としての思いが、そなたにはわからぬか!」
手紙をジュダの顔面に叩きつけるようにして、ルチアーノが怒鳴る。真純は、いつか盗み聞いた二人の会話を思い出していた。確かに、今さらルチアーノを王位継承者にしようという国王の判断は身勝手だと、ジュダは不満を漏らしていたが……。
「殿下。ジュダさんの思いは、違うと思います」
真純は、思わず口を挟んでいた。ルチアーノとジュダが、驚いたように真純を見る。真純は、思い切って告げた。
「ジュダさんは、ルチアーノ殿下を独り占めしたいのではありませんか」
「なっ……」
ジュダの顔が、真っ赤に染まる。彼は真純につかみかかろうとしたが、ルチアーノは素早くそれを制止した。
「おかしいと思っていたんです。最初ジュダさんは、交接ではなく回復呪文で呪いを解くべきだ、と主張し続けていました。けれど、いざフィリッポさんに出会っても、ジュダさんからは呪文を突き止めようという意思が感じられませんでした。どうしてだろうって思い続けて……、ふと思ったんです」
真純は、ジュダの瞳を見つめた。
「ジュダさんは、九歳の頃からずっとあの離宮で、殿下と一緒に過ごしてこられたんですよね。しかもジュダさんは、殿下のお顔を見ても平気な唯一の存在。だから仰ってましたよね、運命を感じるって。でも、もし殿下の呪いが解けたら、ジュダさんは殿下の特別ではなくなる。もしかしてジュダさんは、それを防ぎたくて……」
ルチアーノは、呆然とジュダの顔を見つめた。
「ジュダ……」
ジュダは、崩れ落ちるように床に座り込んだ。
「ずっと、お慕いしてまいりました」
「あいにくであったな。魔術書は、無事入手したぞ。マスミ殿が体を張ってくれたおかげでな」
火傷を負った真純の手を取って、ルチアーノが皮肉っぽく言う。ジュダはため息をつくと、二人を部屋に通した。ルチアーノは、ジュダの目をじっと見すえた。
「フィリッポに、この宿へ来るよう手紙を書いて送ったのは、そなただな?」
「はい」
ジュダは、静かに答えた。
「宿が分散し、伝達係を務めるようになったのを利用して、私は度々、フィリッポ宅の様子を窺いに行きました。思いがけなくも今日彼が帰宅したと知り、あの手紙を書いて、子供に届けさせたのです」
それをしていたから、ジュダは今日、剣の稽古に一時間遅れたのかと真純は悟った。
「ジュダ」
ルチアーノが、低く呟く。
「そなたは、これまで私に尽くしてくれた。私を幽閉したアルマンティリア王室に憤る気持ちも、わからなくはない。だが、この手紙は何だ。策を弄してまで、私の呪いが解けるのを防ぐつもりか。過去は過去として、国のために尽くしたいという私の王子としての思いが、そなたにはわからぬか!」
手紙をジュダの顔面に叩きつけるようにして、ルチアーノが怒鳴る。真純は、いつか盗み聞いた二人の会話を思い出していた。確かに、今さらルチアーノを王位継承者にしようという国王の判断は身勝手だと、ジュダは不満を漏らしていたが……。
「殿下。ジュダさんの思いは、違うと思います」
真純は、思わず口を挟んでいた。ルチアーノとジュダが、驚いたように真純を見る。真純は、思い切って告げた。
「ジュダさんは、ルチアーノ殿下を独り占めしたいのではありませんか」
「なっ……」
ジュダの顔が、真っ赤に染まる。彼は真純につかみかかろうとしたが、ルチアーノは素早くそれを制止した。
「おかしいと思っていたんです。最初ジュダさんは、交接ではなく回復呪文で呪いを解くべきだ、と主張し続けていました。けれど、いざフィリッポさんに出会っても、ジュダさんからは呪文を突き止めようという意思が感じられませんでした。どうしてだろうって思い続けて……、ふと思ったんです」
真純は、ジュダの瞳を見つめた。
「ジュダさんは、九歳の頃からずっとあの離宮で、殿下と一緒に過ごしてこられたんですよね。しかもジュダさんは、殿下のお顔を見ても平気な唯一の存在。だから仰ってましたよね、運命を感じるって。でも、もし殿下の呪いが解けたら、ジュダさんは殿下の特別ではなくなる。もしかしてジュダさんは、それを防ぎたくて……」
ルチアーノは、呆然とジュダの顔を見つめた。
「ジュダ……」
ジュダは、崩れ落ちるように床に座り込んだ。
「ずっと、お慕いしてまいりました」
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