上 下
53 / 242
第四章 時に愛は、表現を間違えがち

6

しおりを挟む
  案の定ルチアーノは、ある部屋の前で止まった。彼にしては乱暴な仕草で、ノックする。扉は、すぐに開いた。中ではジュダが、無表情で立ち尽くしていた。
 
「あいにくであったな。魔術書は、無事入手したぞ。マスミ殿が体を張ってくれたおかげでな」

 火傷を負った真純の手を取って、ルチアーノが皮肉っぽく言う。ジュダはため息をつくと、二人を部屋に通した。ルチアーノは、ジュダの目をじっと見すえた。

「フィリッポに、この宿へ来るよう手紙を書いて送ったのは、そなただな?」
「はい」

 ジュダは、静かに答えた。

「宿が分散し、伝達係を務めるようになったのを利用して、私は度々、フィリッポ宅の様子を窺いに行きました。思いがけなくも今日彼が帰宅したと知り、あの手紙を書いて、子供に届けさせたのです」

 それをしていたから、ジュダは今日、剣の稽古に一時間遅れたのかと真純は悟った。

「ジュダ」

 ルチアーノが、低く呟く。

「そなたは、これまで私に尽くしてくれた。私を幽閉したアルマンティリア王室に憤る気持ちも、わからなくはない。だが、この手紙は何だ。策を弄してまで、私の呪いが解けるのを防ぐつもりか。過去は過去として、国のために尽くしたいという私の王子としての思いが、そなたにはわからぬか!」

 手紙をジュダの顔面に叩きつけるようにして、ルチアーノが怒鳴る。真純は、いつか盗み聞いた二人の会話を思い出していた。確かに、今さらルチアーノを王位継承者にしようという国王の判断は身勝手だと、ジュダは不満を漏らしていたが……。

「殿下。ジュダさんの思いは、違うと思います」

 真純は、思わず口を挟んでいた。ルチアーノとジュダが、驚いたように真純を見る。真純は、思い切って告げた。

「ジュダさんは、ルチアーノ殿下を独り占めしたいのではありませんか」
「なっ……」

 ジュダの顔が、真っ赤に染まる。彼は真純につかみかかろうとしたが、ルチアーノは素早くそれを制止した。

「おかしいと思っていたんです。最初ジュダさんは、交接ではなく回復呪文で呪いを解くべきだ、と主張し続けていました。けれど、いざフィリッポさんに出会っても、ジュダさんからは呪文を突き止めようという意思が感じられませんでした。どうしてだろうって思い続けて……、ふと思ったんです」

 真純は、ジュダの瞳を見つめた。
 
「ジュダさんは、九歳の頃からずっとあの離宮で、殿下と一緒に過ごしてこられたんですよね。しかもジュダさんは、殿下のお顔を見ても平気な唯一の存在。だから仰ってましたよね、運命を感じるって。でも、もし殿下の呪いが解けたら、ジュダさんは殿下の特別ではなくなる。もしかしてジュダさんは、それを防ぎたくて……」

 ルチアーノは、呆然とジュダの顔を見つめた。

「ジュダ……」

 ジュダは、崩れ落ちるように床に座り込んだ。

「ずっと、お慕いしてまいりました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される

ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ
BL
「くそっ!なんで俺が国外追放なんかに!」 卒業パーティーから戻った兄が怒り心頭になりながら歯軋りしている。 そんな兄に付き合って毒親を捨てて隣国に逃げ出したけど…。 これは恋人同士と思っていた第二王子と、友人兼セフレだと思っていた公爵令息のすれ違いのお話。 ※本編完結済みです。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)! 友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。 【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…? 【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編 【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編 【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場 【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ 【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る 【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい 【第8章 終章】 短編詰め合わせ ※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

処理中です...