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第四章 時に愛は、表現を間違えがち

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 その夜二十時、真純はジュダの手引きで、ルチアーノが泊まっている宿を訪れた。「目立たない方がいい」というジュダのアドバイスに従い、護衛の騎士は連れていない。彼は、裏口から建物内に真純を通すと、中庭に連れて行った。前の宿より環境は悪く、手入れしていないと思われる木々が、鬱蒼と生い茂っている。

「殿下なら、もう湯浴みを終えられて、部屋にいらっしゃる」

 ジュダは、ルチアーノの部屋だという窓を指さした。この宿は平屋なので、一階だ。

「あの窓から入れてもらえ。じゃあな」

 短く指示すると、ジュダはあっという間に姿を消した。真純は、固唾を呑んで窓を見上げた。寒波は過ぎ去ったが、相変わらずの寒さに、思わずマントをかき合わせてしまう。

(目立たないようにしなくちゃな……)

 勇気を出して、軽くノックする。やがて、カーテンが細く開いた。隙間から、仮面姿のルチアーノが顔を見せる。彼は真純を見て、目を見張った。程なくして、窓が開く。

「急にいかがした?」

 そう尋ねかけたルチアーノだったが、寒そうに縮こまる真純を見て、話は後だと判断したらしい。手を差し伸べた。

「とにかく、早く入れ。今にも凍えそうではないか」

 真純は、ルチアーノの手を取った。そのぬくもりにほっとしつつ、もう片方の手を窓枠にかける。よじ登り、窓から彼の部屋に入ろうとしたその時。真純は、おやと思った。背後で、物音がした気がしたのだ。

(誰かいるのか……?)

 振り返った瞬間、真純は心臓が止まりそうになった。大木の陰に、一人の男が佇んでいたのだ。フィリッポだった。ぶ厚い本を手にしている。

「フィリッポさ……、何で!?」

 帰りは、明日ではなかったのか。そもそも、なぜこの宿を知っているのか。すると、ルチアーノが低く呟いた。

「フィリッポだと? 彼が?」

 真純は、ハッとした。ルチアーノとの関わりは、決して知られてはいけなかったのに。真純は、窓から手を放すと、フィリッポの方へ向き直った。

「フィリッポさん! 聞いてください。実は……」

 そこまで言いかけて、真純は言葉に詰まった。どう言い訳すればいいのか。そんな真純を見て、フィリッポは目を吊り上げた。途切れ途切れに、呟く。

「か、め、おう……。ま、あな、う、ら……」

 断片だけであったが、真純には彼の言いたいことが痛いほどわかった。「仮面の王子と通じていた真純、あなたは裏切り者」、きっとそうだ。

「……」

 フィリッポが、さらにぼそぼそと何か呟く。聞き取れないほどの早口で、かつ小声だった。
 
(何……?)

 だが、彼の元へ駆け寄ろうとした瞬間、ルチアーノの鋭い声が響いた。

「マスミ、危ない!」

 そのとたん、信じられないことが起きた。庭の中央に、巨大な炎が出現したのだ。真純は、目を疑った。

(まさか、魔法? でも、土魔法しか使えないはずじゃ……。それに、呪文てあんなに短いのか?)

 フィリッポが、キッと真純を見すえる。そして次の瞬間、彼は、手にした本を振りかざした。その意図を悟って、真純は戦慄した。

「フィリッポさん、止めて!」

 フィリッポは、真純の言葉を無視して、本を炎の中に投げ込んだ。
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