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第三章 君の声を、取り戻したい

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 翌朝、真純はルチアーノに目通りを願い出た。真純の顔を一目見たとたん、ルチアーノは目を見張った。

「マスミ殿。その顔は、いかがした?」

 真純の瞳は、充血しきっている。ルチアーノが驚くのも無理は無かった。

「この宿は、居心地が悪いであろうか。早速、他を手配……」

 労るように頭を撫でてくるルチアーノを、真純は押し止めた。何だか、無性に気恥ずかしかったのだ。

「違うんです。実は、徹夜でこの本を読んでいまして」

 薬学書を見せれば、ルチアーノはおやという顔をした。

「マスミ殿は、元の世界では神官だったのか」

 エレナと同じことを言うな、と真純は思った。薬学に通じる、イコール聖職者というのは、やはりこの世界での共通認識らしい。

「神官ではありませんが、薬の勉強をしていました。それで、思いついたんです。この本に載っているこの植物……キキョウというのですが。喉の炎症を抑える作用があるのです。フィリッポさんの、お役に立てるのではないかと」

 大学の薬草園で見かけた記憶を頼りに、一晩中本を読みふけったところ、ついに目的の植物を見つけたのだ。ほう、とルチアーノは興味深げに相づちを打った。

「確かに、有効かもしれぬが。だが、それはそなたの世界の植物であろう?」
「はい。ですが」

 真純は、身を乗り出した。

「実は、離宮の庭で、これによく似た植物を見かけました。もう一度確認しないと、断定はできませんが……。それで殿下、お願いがあります。これを採集しに、離宮へ戻ってはダメでしょうか? フィリッポさんとの交渉は、ジュダさんに任せることになりますが……」

「俺が、何だって?」

 コンコンというノックの音と共に、ジュダが顔をのぞかせる。真純は、同じ話をジュダに語ったが、彼は一笑に付した。

「薬草を探すくらいなら、優秀な聖女を探して治療させる方が真っ当だ。病気や怪我を治すのは聖女の役目と、この国では決まってるからな。あの親戚の男は、相当がめつそうだから、恐らくはロクに治療を受けさせなかったんじゃないか?」
「いえ。治療は受けさせてもらったはずです」

 真純は、きっぱりと答えた。

「あの男性が、がめつそうだからこそ、です。彼は、フィリッポさんが魔術師として稼ぐことを期待していた様子でした。そのためには、何としても彼の喉を治そうとしたはずです」

 腑に落ちるところがあったのか、ジュダは考え込んだ。

「……しかし、だからといって薬草を探しに、また離宮へ戻るって? 俺たちが求めているのは、呪文や魔術書なんだから、フィリッポの喉が治ろうが治らまいが関係無いだろう」
「そんな言い方って……」

 思わず反論しかけた真純を、ルチアーノは制した。

「二人とも、落ち着くように。薬草探しは、悪いことではないと私は思う。呪文を探り出すためには、フィリッポの心を開くに越したことは無い。とはいえ、ここから離宮までは片道五日。往復していては、時間がかかり過ぎる」

 やはりダメか、と真純はしゅんとうなだれた。だがルチアーノは、こう続けた。

「だがそれは、マスミ殿が自身で向かう場合の話だ。マスミ殿、その植物のページを破っても構わぬか? 誰かにそれを持たせて、早馬を飛ばさせればよい。文字は読めずとも、写真と同じ植物をと言えば、探せるだろう」

「もちろんです!」

 真純は、顔をほころばせた。

「これが生えていた場所も、お伝えしますね。そうすれば、探しやすいと思います!」

 うむ、とルチアーノが微笑む。ジュダは、やれやれといった様子で肩をすくめた。

「じゃあ、俺たちはフィリッポの家へ行くぞ。今日は、もう少し本題に踏み込んでみようと思う」

 真純は、大きくうなずいた。胸は、期待でいっぱいだった。
   

 

 
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