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第二章 呪文探しの旅に出よう!
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それから三日が経過した。真純は、与えられた部屋で一人、読書にふけっていた。
(鞄を持って来ていて、よかったああ)
突然異世界へ連れて来られるわ、同性と初体験をさせられるわ、とんでもないことだらけだったが、唯一の救いは、鞄を持ったままこちらへ来たことだ。ちょうど、大学帰りのバイトを終えた後だったため、授業に使うテキストを入れたままだったのだ。こちらにいる間、遅れを取らないよう、真純は暇を見つけては予習に励んでいるのである。
(てか、暇な時間の方が多いんだけど)
真純は、ルチアーノの顔を思い浮かべた。時間が無いと聞かされた割には、彼の寝所に呼ばれることは、あれ以来無いのだ。弟子とやらが見つかるかも、彼が魔術書を持っているかも、まだわからないというのに。
(いや、別にしたいってわけじゃないけど!? でも、ちっともお召しが無いというのも……)
「わあ、難しそうなご本ですね!」
突然の呼びかけに、真純はわっと飛びのいた。見ればエレナが、興味津々といった様子で薬学書をのぞき込んでいるではないか。いつの間にか、部屋に入って来ていたらしい。
「あ、驚かせてすみません。これ、何が書いてあるんです?」
もちろん本は日本語で書かれているので、エレナにはちんぷんかんぷんだろう。
「薬の研究に関する本だよ」
手短に説明すると、エレナはなぜか目を見張った。
「薬ですって!?」
叫ぶなりエレナは、飛びすさった。スカートの裾をつまんで、うやうやしく礼をする。その緊張ぶりは、真純がここへ来た当初と同じくらいで、真純は戸惑った。
「ど、どうしたの!?」
「私、やっぱりマスミ様に馴れ馴れしくし過ぎでしたわ」
エレナは、ぷるぷると首を振った。
「だってマスミ様は、神官でいらっしゃるのでしょう?」
「は? どうして」
話の飛躍に、真純はきょとんとした。
「僕は確かに、向こうで薬について学んでいたけど。それは、将来薬剤師……、ええと、薬師と言ったら通じるかな? とにかく、それを目指すためで。何でそこに神官が出てくるの?」
すると今度は、エレナが首をかしげた。
「薬師といえば、神官でございましょう?」
よくよく話を聞くと、このアルマンティリア王国では、薬を用いて病人を治すのは、神官などの聖職者に限られるのだという。真純の世界では関連は無いと説明すると、エレナはようやく納得した。
「私、そそっかしかったですわ。異世界というのは、ずいぶん習慣が異なるものなのですね」
「そうだね」
うなずきながらも、真純はチラと思った。関連は無いといっても、真純の祖父は神主だったではないか。どこかで共通する部分があるのかと考えると、真純は何だか、この国に親しみを感じてしまった。
「けれど、こちらにいらっしゃる間も学ばれているなんて、すごいです。それに何より、字がお読みになれるなんて。私たち使用人は、さっぱりですから」
エレナは、真純を心底尊敬している様子だ。どうやら、読み書きができるというのは、この国ではすごいことらしい。無邪気に憧れの眼差しを向ける彼女を見ていると、真純は少し気の毒になった。
「でも、本で学べることって、限界があるからさ。実地で勉強するのが一番だよ」
フォロー半分、本音半分だ。真純は、窓の外に目を向けた。庭には、数多くの草花が見られる。中には、大学の薬草園にあったものとよく似た草もあり、前から気になっていた。
「たとえば、ああいうのを採集して研究するとかね。頼んだら、ダメかなあ?」
ちょうど庭では、庭師らしき若い男が手入れをしている。彼を指して尋ねると、エレナは眉をひそめた。
「ダメ、ではないと思いますが。でもマスミ様、直接彼とお話しに? 止めた方がいいですわ。きっと、警戒されます」
「はあ……。やっぱり、僕が異世界の人間だから? 別に、悪用はしないけどなあ」
するとエレナは、意外な返答をした。
「そうではなくて。あの者は、普通に女性が好きな男ですもの。たとえマスミ様がそのおつもりでなくても、彼はそうは受け取りませんわ」
「はあ!?」
真純はあぜんとした。
「何か、誤解されてない? 確かに僕は、殿下と、その……だけど。別に僕は、同性が好きってわけじゃ……」
エレナは、おやという顔をした。
「異世界の方は、皆様同性好きなのではないのですか?」
「まさか! 違うって」
どうしてまた、そんな誤解をされたのか。ルチアーノと寝所を共にしたのは、あくまで呪いを解くためだというのに。もう一度念を押そうとしたその時、エレナがあっと声を上げた。庭に、一台の馬車が入って来たのだ。
「ボネーラ様がお越しですわ!」
真純は、緊張が走るのを感じた。いよいよ、弟子の居場所がわかったのだろうか。
(鞄を持って来ていて、よかったああ)
突然異世界へ連れて来られるわ、同性と初体験をさせられるわ、とんでもないことだらけだったが、唯一の救いは、鞄を持ったままこちらへ来たことだ。ちょうど、大学帰りのバイトを終えた後だったため、授業に使うテキストを入れたままだったのだ。こちらにいる間、遅れを取らないよう、真純は暇を見つけては予習に励んでいるのである。
(てか、暇な時間の方が多いんだけど)
真純は、ルチアーノの顔を思い浮かべた。時間が無いと聞かされた割には、彼の寝所に呼ばれることは、あれ以来無いのだ。弟子とやらが見つかるかも、彼が魔術書を持っているかも、まだわからないというのに。
(いや、別にしたいってわけじゃないけど!? でも、ちっともお召しが無いというのも……)
「わあ、難しそうなご本ですね!」
突然の呼びかけに、真純はわっと飛びのいた。見ればエレナが、興味津々といった様子で薬学書をのぞき込んでいるではないか。いつの間にか、部屋に入って来ていたらしい。
「あ、驚かせてすみません。これ、何が書いてあるんです?」
もちろん本は日本語で書かれているので、エレナにはちんぷんかんぷんだろう。
「薬の研究に関する本だよ」
手短に説明すると、エレナはなぜか目を見張った。
「薬ですって!?」
叫ぶなりエレナは、飛びすさった。スカートの裾をつまんで、うやうやしく礼をする。その緊張ぶりは、真純がここへ来た当初と同じくらいで、真純は戸惑った。
「ど、どうしたの!?」
「私、やっぱりマスミ様に馴れ馴れしくし過ぎでしたわ」
エレナは、ぷるぷると首を振った。
「だってマスミ様は、神官でいらっしゃるのでしょう?」
「は? どうして」
話の飛躍に、真純はきょとんとした。
「僕は確かに、向こうで薬について学んでいたけど。それは、将来薬剤師……、ええと、薬師と言ったら通じるかな? とにかく、それを目指すためで。何でそこに神官が出てくるの?」
すると今度は、エレナが首をかしげた。
「薬師といえば、神官でございましょう?」
よくよく話を聞くと、このアルマンティリア王国では、薬を用いて病人を治すのは、神官などの聖職者に限られるのだという。真純の世界では関連は無いと説明すると、エレナはようやく納得した。
「私、そそっかしかったですわ。異世界というのは、ずいぶん習慣が異なるものなのですね」
「そうだね」
うなずきながらも、真純はチラと思った。関連は無いといっても、真純の祖父は神主だったではないか。どこかで共通する部分があるのかと考えると、真純は何だか、この国に親しみを感じてしまった。
「けれど、こちらにいらっしゃる間も学ばれているなんて、すごいです。それに何より、字がお読みになれるなんて。私たち使用人は、さっぱりですから」
エレナは、真純を心底尊敬している様子だ。どうやら、読み書きができるというのは、この国ではすごいことらしい。無邪気に憧れの眼差しを向ける彼女を見ていると、真純は少し気の毒になった。
「でも、本で学べることって、限界があるからさ。実地で勉強するのが一番だよ」
フォロー半分、本音半分だ。真純は、窓の外に目を向けた。庭には、数多くの草花が見られる。中には、大学の薬草園にあったものとよく似た草もあり、前から気になっていた。
「たとえば、ああいうのを採集して研究するとかね。頼んだら、ダメかなあ?」
ちょうど庭では、庭師らしき若い男が手入れをしている。彼を指して尋ねると、エレナは眉をひそめた。
「ダメ、ではないと思いますが。でもマスミ様、直接彼とお話しに? 止めた方がいいですわ。きっと、警戒されます」
「はあ……。やっぱり、僕が異世界の人間だから? 別に、悪用はしないけどなあ」
するとエレナは、意外な返答をした。
「そうではなくて。あの者は、普通に女性が好きな男ですもの。たとえマスミ様がそのおつもりでなくても、彼はそうは受け取りませんわ」
「はあ!?」
真純はあぜんとした。
「何か、誤解されてない? 確かに僕は、殿下と、その……だけど。別に僕は、同性が好きってわけじゃ……」
エレナは、おやという顔をした。
「異世界の方は、皆様同性好きなのではないのですか?」
「まさか! 違うって」
どうしてまた、そんな誤解をされたのか。ルチアーノと寝所を共にしたのは、あくまで呪いを解くためだというのに。もう一度念を押そうとしたその時、エレナがあっと声を上げた。庭に、一台の馬車が入って来たのだ。
「ボネーラ様がお越しですわ!」
真純は、緊張が走るのを感じた。いよいよ、弟子の居場所がわかったのだろうか。
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