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第一章 コウセツって何だろう
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最初に感じたのは、柔らかいカーペットの感触だった。おそるおそる瞳を開ければ、高い天井が目に飛び込んで来る。同時に、こんな会話が聞こえてきた。
「勝負はそなたの負けであるな、ボネーラ殿」
若い男性の声だった。心なしか、笑っているように聞こえる。
「いいえ、殿下。召喚は、決して失敗してはおりませぬ」
「潔く、認めぬか。どう見ても、これは男であろう」
(殿下? 召喚?)
真純は、目をぱちぱちさせた。ゆっくりと周りを見回せば、三人の男の姿が視界に飛び込んで来る。そのうちの一人に、真純の目は釘付けになった。というのも、男が、極めて人目を引く容貌だったからだ。百九十センチはあろうかという背丈に、均整の取れた体つき、輝くような金色の長髪。……そして、顔のほとんどを覆う、黒い仮面。殿下と呼ばれていたのは、その男らしかった。
(これって、もしかして)
いわゆる異世界召喚というやつではないか、と真純は思った。真純は読まないが、渡辺がその種の読み物を好んでいたので、話はよく聞かされていた。確か、勇者として召喚されて、魔王と戦うのがお決まりのパターンだとか。日本語を話しつつも、三人が中世ヨーロッパの貴族風の服装をしていることからも、そう思えた。特に仮面の男は、殿下と呼ばれるだけあって身分が高いのか、上質そうな毛皮のマントをまとっている。
(けどまさか、現実に起こるとはなあ……)
トラックに轢かれるのが定番だった気もするが、きっと様々なパターンがあるのだろう。他の二人は、家臣のようだった。一人は、口ひげが特徴的ないかめしい雰囲気の男で、もう一人は比較的若く、真っ赤な髪をしている。仮面の男と言い争っているのは、口ひげの男の方だった。ついに、仮面の男が、苛立ったような声を上げる。
「いい加減にせよ。聖女を召喚するはずであろうが」
すると口ひげの男は、ふっと笑った。
「ルチアーノ殿下。私は、聖女を召喚するとは、一言も申しておりません。私は、『殿下の問題を解決する者』を召喚するとお伝えしました」
真純は、きょとんとした。
(聖女って言った?)
どういうことだ。自分は、勇者として呼ばれたのではないのか。すると、赤毛の男がチラとこちらを見た。
「殿下、ボネーラ様。目を覚ましたようですが?」
彼の言葉に、残りの二人もいっせいにこちらを見る。ボネーラと呼ばれた口ひげの男は、パッと目を輝かせた。
「お目覚めでございますか、回復魔術師殿!」
「はい!? かいふくまじゅつし?」
わけがわからないまま、真純はそのフレーズをリピートした。ボネーラが、仮面の男の方を得意げに見やる。
「私は、ルチアーノ殿下はご病気ではなく、呪い……それも禁呪がかけられたのではないかと考えております。それゆえ、回復魔術を使える者を、異世界より呼び寄せたのでございます」
「禁呪ですと!?」
大声を上げたのは、赤毛の男だった。
「一体、誰がそのような……。いやそれよりも、勝手に異世界から召喚などしてよいのですか。宮廷魔術師たるパッソーニ様を差し置いて……」
「控えよ」
びしりとした声が響いた。先ほどから殿下と呼ばれている、仮面の男だった。彼は、真純の元へ、つかつかと歩み寄って来た。
「ボネーラ殿、そなたの推理は後ほど聞く。ジュダ、みだりに騒ぐな。まずなすべきは、彼への挨拶であろう。こちらの都合で召喚しておきながら、いつまでも床に放置するなど、あまりに非礼というもの」
そう言うと仮面の男は、真純に手を差し出した。
「お初にお目にかかる。アルマンティリア王国第二王子、ルチアーノだ」
心地良い低音の声だった。
「勝負はそなたの負けであるな、ボネーラ殿」
若い男性の声だった。心なしか、笑っているように聞こえる。
「いいえ、殿下。召喚は、決して失敗してはおりませぬ」
「潔く、認めぬか。どう見ても、これは男であろう」
(殿下? 召喚?)
真純は、目をぱちぱちさせた。ゆっくりと周りを見回せば、三人の男の姿が視界に飛び込んで来る。そのうちの一人に、真純の目は釘付けになった。というのも、男が、極めて人目を引く容貌だったからだ。百九十センチはあろうかという背丈に、均整の取れた体つき、輝くような金色の長髪。……そして、顔のほとんどを覆う、黒い仮面。殿下と呼ばれていたのは、その男らしかった。
(これって、もしかして)
いわゆる異世界召喚というやつではないか、と真純は思った。真純は読まないが、渡辺がその種の読み物を好んでいたので、話はよく聞かされていた。確か、勇者として召喚されて、魔王と戦うのがお決まりのパターンだとか。日本語を話しつつも、三人が中世ヨーロッパの貴族風の服装をしていることからも、そう思えた。特に仮面の男は、殿下と呼ばれるだけあって身分が高いのか、上質そうな毛皮のマントをまとっている。
(けどまさか、現実に起こるとはなあ……)
トラックに轢かれるのが定番だった気もするが、きっと様々なパターンがあるのだろう。他の二人は、家臣のようだった。一人は、口ひげが特徴的ないかめしい雰囲気の男で、もう一人は比較的若く、真っ赤な髪をしている。仮面の男と言い争っているのは、口ひげの男の方だった。ついに、仮面の男が、苛立ったような声を上げる。
「いい加減にせよ。聖女を召喚するはずであろうが」
すると口ひげの男は、ふっと笑った。
「ルチアーノ殿下。私は、聖女を召喚するとは、一言も申しておりません。私は、『殿下の問題を解決する者』を召喚するとお伝えしました」
真純は、きょとんとした。
(聖女って言った?)
どういうことだ。自分は、勇者として呼ばれたのではないのか。すると、赤毛の男がチラとこちらを見た。
「殿下、ボネーラ様。目を覚ましたようですが?」
彼の言葉に、残りの二人もいっせいにこちらを見る。ボネーラと呼ばれた口ひげの男は、パッと目を輝かせた。
「お目覚めでございますか、回復魔術師殿!」
「はい!? かいふくまじゅつし?」
わけがわからないまま、真純はそのフレーズをリピートした。ボネーラが、仮面の男の方を得意げに見やる。
「私は、ルチアーノ殿下はご病気ではなく、呪い……それも禁呪がかけられたのではないかと考えております。それゆえ、回復魔術を使える者を、異世界より呼び寄せたのでございます」
「禁呪ですと!?」
大声を上げたのは、赤毛の男だった。
「一体、誰がそのような……。いやそれよりも、勝手に異世界から召喚などしてよいのですか。宮廷魔術師たるパッソーニ様を差し置いて……」
「控えよ」
びしりとした声が響いた。先ほどから殿下と呼ばれている、仮面の男だった。彼は、真純の元へ、つかつかと歩み寄って来た。
「ボネーラ殿、そなたの推理は後ほど聞く。ジュダ、みだりに騒ぐな。まずなすべきは、彼への挨拶であろう。こちらの都合で召喚しておきながら、いつまでも床に放置するなど、あまりに非礼というもの」
そう言うと仮面の男は、真純に手を差し出した。
「お初にお目にかかる。アルマンティリア王国第二王子、ルチアーノだ」
心地良い低音の声だった。
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