マーガレットを、私に

五味千里

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最終話

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 こうして、私の恋は儚く散っていきました。私は振られたのです。奴の最後の独白は、私の心を酷くなじりました。これまでの愛情も、ロマンも、瞬時垣間見えたあの可憐な花々も、全てが遥か遠い空想の世界に押しやられました。今あるのは、ただ哀しみと惨めさのみです。

 あの独白は、奴が私ではなく、奴を否定する奴自身をとったことを示していました。愛される覚悟や、愛し返す勇気なんて言ってましたが、結局のところ奴は、私との陽だまりの生活から、孤独と脆弱の自意識の檻へと逃げたのです。

 私の愛はついぞ届きませんでした。奴の孤独さと脆弱さは、私だけではなく奴自身も魅了し、狂わせたようです。奴は寂しさと弱さに溺れて、人の愛すら拒否しました。私はそれが哀しく、惨めです。

 西浦君。貴方は酷い人です。貴方を心から愛する女がいたのに、その愛を拒否しました。愛し返すことなんて、貴方が貴方でいれば良かったのに。その微笑みを一度返してさえくれれば、私の愛は満たされたのに。私は既に沢山の愛をもらっていたのに……
 あれから一ヶ月後、貴方は自殺未遂をしました。どこからか情報が流れて、周りの人たちはにやけ面で噂をしています。あの教授先生は、貴方が父子家庭の出身であることを使って、貴方がさも愛されなかった人間のように話しています。あの時、手に血を滲ませて私は聞いていました。
 
 私は、悔しく、惨めです。私があんなにも愛した人が、自らの手であの愛を否定したのです。私は確かに愛されていました。貴方も確かに愛されていました。その二つに優劣はありません。
 どうか、あの幸福な空間を否定しないでください。愛を否定するもう一つの声に屈しないでください。そして、気付いてください。貴方の寂しさと弱さの源は、愛と優しさです。人と触れ合ってこそ、その美しさを表すのです。

 西浦君。もう春の季節ですよ。マーガレットが咲き誇る最も可憐な季節です。温かな日差しと香りに包まれると、あの幸せな時間がありありと思いだせます。もし私の願いが届いて、貴方が愛を信じられるようになったら、マーガレットを一輪携えて会いに来てください。

 私はいつまでも、待っています。


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