10 / 14
十話 弟
しおりを挟む
私とカズは少し似ている。何がどうとは言えないけども、こう、根の暗さと曲がり方が一緒なのだ。いちいちしょうもないことの不満が溜まって吐き出したくなる性質なのだ。しかし、そうであるには自分が強くあるべきで、強くなければ愚痴や文句はすべて自分に帰る刃になる。
これは勝手な妄想だけど、カズは上手くいっていない。根拠は感覚に過ぎないのだけれど、口数の多さとか、猫背の具合で察するものがある。
カズは今度はすらっと立ち上がり、右ポケットからマルボロをだした。そして荒っぽくタバコを取り出したかと思えば、今度は博物館の展示に触れるように慎重に火をつけた。タバコは最近らしい。
「か、かす姉はいつからタバコ吸いだしたのさ」
臆病気味にカズは訊いた。言葉に若干の吃りがあって、特に「かす姉」という懐かしい単語に躊躇したようだった。
「私は、社会人になってから。会社の先輩がタバコ吸っているのを見て、それがかっこよくってさ」
素直に答えるとまたカズは黙り込んだ。短く切った黒髪が夜に溶けて、不健康な白い肌が強調されている。心なしか風が湿って、雨の心配で家内を覗く。父とユリ姉が仲睦まじくテレビで笑っていた。
「ユリ姉はうまいよね、人と打ち解けられるというか懐に入るのが。前に東京で会った時も、商店街のおばちゃんとかと冗談言い合ったりしてて。天性の人たらしなのかも。憧れてもしょうがないんだけどね、私は私だし」
手探りに話題を提示した。たった一言、何かあった? と訊けばいいものの、そういう言葉が人を苛立たせることを私は知っている。
カズの吸う速度は遅かった。低温調理のようにじわじわと巻紙に火が通っていく。紫煙もどこかなよなよしていた。
「あれは、そういうもんじゃないよ。自分に芯がある、とか自分を持っている、とかじゃなくて、ただ単に甘やかされただけ。……甘やかされて、否定されたことがないからあんな風に堂々とできるんだ……甘やかされたから」
カズは行き場のない悲しい眼をしていた。よく見ると目の下に深いクマもある。カズの言い分には少し疑問もあったけれど、内容よりも彼の溜まったヘドロの混じりが印象に残った。
沈黙が続いて、たまらずタバコを地面に押し付ける。捻ってポケット灰皿にしまう。カズはもう火の弱いマルボロを飾りのように口に咥えたままだった。
これは勝手な妄想だけど、カズは上手くいっていない。根拠は感覚に過ぎないのだけれど、口数の多さとか、猫背の具合で察するものがある。
カズは今度はすらっと立ち上がり、右ポケットからマルボロをだした。そして荒っぽくタバコを取り出したかと思えば、今度は博物館の展示に触れるように慎重に火をつけた。タバコは最近らしい。
「か、かす姉はいつからタバコ吸いだしたのさ」
臆病気味にカズは訊いた。言葉に若干の吃りがあって、特に「かす姉」という懐かしい単語に躊躇したようだった。
「私は、社会人になってから。会社の先輩がタバコ吸っているのを見て、それがかっこよくってさ」
素直に答えるとまたカズは黙り込んだ。短く切った黒髪が夜に溶けて、不健康な白い肌が強調されている。心なしか風が湿って、雨の心配で家内を覗く。父とユリ姉が仲睦まじくテレビで笑っていた。
「ユリ姉はうまいよね、人と打ち解けられるというか懐に入るのが。前に東京で会った時も、商店街のおばちゃんとかと冗談言い合ったりしてて。天性の人たらしなのかも。憧れてもしょうがないんだけどね、私は私だし」
手探りに話題を提示した。たった一言、何かあった? と訊けばいいものの、そういう言葉が人を苛立たせることを私は知っている。
カズの吸う速度は遅かった。低温調理のようにじわじわと巻紙に火が通っていく。紫煙もどこかなよなよしていた。
「あれは、そういうもんじゃないよ。自分に芯がある、とか自分を持っている、とかじゃなくて、ただ単に甘やかされただけ。……甘やかされて、否定されたことがないからあんな風に堂々とできるんだ……甘やかされたから」
カズは行き場のない悲しい眼をしていた。よく見ると目の下に深いクマもある。カズの言い分には少し疑問もあったけれど、内容よりも彼の溜まったヘドロの混じりが印象に残った。
沈黙が続いて、たまらずタバコを地面に押し付ける。捻ってポケット灰皿にしまう。カズはもう火の弱いマルボロを飾りのように口に咥えたままだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる