夢ノ瀬日記

夢ノ瀬 日和

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7月15日

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 母方の祖父が俺を膝の上に乗せる。骨ばった脚から小気味の悪い音が鳴った。大きな宴会場で数年前になくなった親戚たちが笑いながら好きに過ごしている。祖父は俺に唐揚げやらきゅうりやらを食べさせようとする。

「日和は細いからなぁ。もっと食べなじぃじらみたいに死んでまうで」

 俺の頭上でビールを煽りながら、面白可笑しく呟く。夢の中や写真でしか見た事のない親戚が近づいてくる。

「お兄ちゃんもアンタも頑張りすぎやからな。ちゃんと寝て、食べな」

 取り皿に彩りを無視した料理が並べられていく。何か食べるなら、薬を飲まなきゃ。面倒だな。じゃあ、何も食べなくていいや。

「どんな美人さんでもな、骨より豚の方がモテるんやど」

「お薬なんかな、飲みたないんやったら飲まんくてええわ。でも、食べな元気出んからな」

 昨年、亡くなったばかりの父方の祖母がため息混じりに盆を持ってくる。湯気立つ綺麗な白米とじゃこ、お野菜と肉団子のスープに唐揚げやさつまいもと南瓜の天ぷら。ほかにもきゅうりの塩漬けやピーマンを炒めたもの、ピザが二切れ。俺の好きな物ばかりがそこに載っていた。くるる、とお腹が鳴る。最近は強い空腹感なんて消え去っていたのに。疲労と懐古の赴くままに口を開く。もう食べられない祖母の味。醤油で炒めたピーマン。長く漬けたきゅうり。甘い天ぷら。スープは熱くてまだ食べれない。ホクホクの白米にポン酢で浸したじゃこを乗せる。おいしい。ここ数日、だんだんと味覚が曖昧になっていたのに、これは本当においしくて。懐かしくて。水の膜が視界を遮る。

「もう今日は休み。パパとママにも言うとくわ。な?」
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