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最終章 さくら
(10) 『誇り』の花
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もう既に、島は春満開。
中央公園の桜も、少し前から徐々に蕾が開き始め、今では枝一杯に暖かな桃色を湛えている。
一枚一枚濃さが違う花びらが、風に吹かれてはらはらと舞い落ちる。
本当は滅多にすることではないけど、やっぱりお母さんが一命を取り留めたのが非常に大きかった。
だから、誰が提案するでもなく、家族揃ってお花見に行くことになった。
ブレスのみんなには前もってそのことを話しておき、昼過ぎ頃、公園に集まって一緒に遊ぶ約束をする。
もちろん、友達同士で過ごす時間は大好きだ。
でも、彼女たちがやって来るまでの間くらいは、こうして家族とゆっくり時間を共有するのも悪くない。
お母さんやお父さん、桃萌といつお別れする時が来るのかなんて、島にいる神様でさえわからないのだから。
桃萌はわたしとのジャンケンに負けて、渋々お父さんと一緒に追加の買い出しに行っている。
いよいよ、彼女も春から高校生。
もう子供じゃないんだから、少しくらいは聞き分けが良くなってくれてもいいのに……。
そして、今シートに座っているのは、わたしとお母さんの二人だけ。
お母さんは何かを食べるでも、手を動かすでもなく、ただじっと桜の木の方ばかり見ていた。
ふと、花びらが静かに鼻の上まで落ちる。
それを優しく摘まんで微笑むと、お母さんはいつもの優しい声でわたしに語り掛けてきた。
「コンサート、成功してよかったわね」
黙って頷くと、お母さんは指の間の花びらに視線を落とし、しみじみと話し始めた。
「お母さんね、この間運よく目を覚まして、そして退院した後に、桜良のコンサートを観に行くことができた。それでね、会場に入った時、お客さんの多さに思わず驚いちゃったの。そして、桜良たちが裏から出て来て、時間一杯演奏して、最後にお客さんみんなが大きな拍手をしてたのを見て、強く感じたことがあるの。
ああ、この子はやっぱり、『さくら』なんだって」
最後の言葉の意味がさっぱりわからず、どういうこと、と尋ねる。
少しして、お母さんはわたしが今まで知らなかったことを教えてくれた。
「どうして桜良に、さくら、って名前を付けたか、わかる? 桜の木はね、春の訪れとともに花を咲かせて、冬の間冷たくなったみんなの心をじんわりと温めるのよ。ただのピンク色の花なのに、不思議よね。でも、それだけすごい力を秘めているのよ、桜って。
コンサートの時の貴女は、メンバーのみんなと協力しながら、お客さん全員の心を掴んで離さなかった。そして、私も含めてみんなが、貴女たちの演奏にきっと暖かい気持ちになった。それを感じながら、同時に安心したの。私の目の前で精一杯歌う娘に、『さくら』って名前を付けて良かった、って。
ほら、見てご覧なさい。お花見に来ている人たちを。みんな、さくらのおかげで笑っているわ。桜良の周りにはいつも笑顔が広がる。そして貴女の元気に感化された人は、どんどん人生がより『良く』なっていく。貴女が生まれた時から、そうなるよう願っていたの。
だから、今の貴女は私たち家族にとっての『誇り』なのよ。これまでの間よく頑張ったわね、お疲れ様」
顔がまた段々と熱くなっていく。
油断すればもう泣いてしまいそうだ。
でも、『誇り』だなんて言ってくれた大好きなお母さんには、やっぱり泣き顔よりもとびきりの笑顔を見せたい。
そう思って、わたしはニコッと微笑み返した。
二つの微笑みが、春の公園に咲き零れた。
もう既に、島は春満開。
中央公園の桜も、少し前から徐々に蕾が開き始め、今では枝一杯に暖かな桃色を湛えている。
一枚一枚濃さが違う花びらが、風に吹かれてはらはらと舞い落ちる。
本当は滅多にすることではないけど、やっぱりお母さんが一命を取り留めたのが非常に大きかった。
だから、誰が提案するでもなく、家族揃ってお花見に行くことになった。
ブレスのみんなには前もってそのことを話しておき、昼過ぎ頃、公園に集まって一緒に遊ぶ約束をする。
もちろん、友達同士で過ごす時間は大好きだ。
でも、彼女たちがやって来るまでの間くらいは、こうして家族とゆっくり時間を共有するのも悪くない。
お母さんやお父さん、桃萌といつお別れする時が来るのかなんて、島にいる神様でさえわからないのだから。
桃萌はわたしとのジャンケンに負けて、渋々お父さんと一緒に追加の買い出しに行っている。
いよいよ、彼女も春から高校生。
もう子供じゃないんだから、少しくらいは聞き分けが良くなってくれてもいいのに……。
そして、今シートに座っているのは、わたしとお母さんの二人だけ。
お母さんは何かを食べるでも、手を動かすでもなく、ただじっと桜の木の方ばかり見ていた。
ふと、花びらが静かに鼻の上まで落ちる。
それを優しく摘まんで微笑むと、お母さんはいつもの優しい声でわたしに語り掛けてきた。
「コンサート、成功してよかったわね」
黙って頷くと、お母さんは指の間の花びらに視線を落とし、しみじみと話し始めた。
「お母さんね、この間運よく目を覚まして、そして退院した後に、桜良のコンサートを観に行くことができた。それでね、会場に入った時、お客さんの多さに思わず驚いちゃったの。そして、桜良たちが裏から出て来て、時間一杯演奏して、最後にお客さんみんなが大きな拍手をしてたのを見て、強く感じたことがあるの。
ああ、この子はやっぱり、『さくら』なんだって」
最後の言葉の意味がさっぱりわからず、どういうこと、と尋ねる。
少しして、お母さんはわたしが今まで知らなかったことを教えてくれた。
「どうして桜良に、さくら、って名前を付けたか、わかる? 桜の木はね、春の訪れとともに花を咲かせて、冬の間冷たくなったみんなの心をじんわりと温めるのよ。ただのピンク色の花なのに、不思議よね。でも、それだけすごい力を秘めているのよ、桜って。
コンサートの時の貴女は、メンバーのみんなと協力しながら、お客さん全員の心を掴んで離さなかった。そして、私も含めてみんなが、貴女たちの演奏にきっと暖かい気持ちになった。それを感じながら、同時に安心したの。私の目の前で精一杯歌う娘に、『さくら』って名前を付けて良かった、って。
ほら、見てご覧なさい。お花見に来ている人たちを。みんな、さくらのおかげで笑っているわ。桜良の周りにはいつも笑顔が広がる。そして貴女の元気に感化された人は、どんどん人生がより『良く』なっていく。貴女が生まれた時から、そうなるよう願っていたの。
だから、今の貴女は私たち家族にとっての『誇り』なのよ。これまでの間よく頑張ったわね、お疲れ様」
顔がまた段々と熱くなっていく。
油断すればもう泣いてしまいそうだ。
でも、『誇り』だなんて言ってくれた大好きなお母さんには、やっぱり泣き顔よりもとびきりの笑顔を見せたい。
そう思って、わたしはニコッと微笑み返した。
二つの微笑みが、春の公園に咲き零れた。
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