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最終章 さくら

(4) 特別なチカラ

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 ここで、早百合はふと何か思い出したような顔をすると、わたし以外の四人を集めてひそひそと話し始めた。

 何の相談をしているんだろう、とすごく気になったけれど、やがてみんなは示し合わすように互いを見回し、先に野薔薇が口を開いた。

「なあ。実はもう一つ、長い時間かけて話し合ったことがあるんだ。もちろん、これはあくまで桜良がよければなんだが、私たち──」

「桜良には、ユラを続けてほしい、って思ってるの!」

 美樹に割り込まれ少しふて腐れた表情をする野薔薇。
 その後ろから恐る恐る梢や椿が喋り出した。

「あの! 桜良先輩が、神障りで辛い思いをしているのはわかります。具合が悪くなったり、家族を巻き込んでしまったり、その苦しみは計り知れません」

「でも、実を言えば少しだけ羨ましさも感じているんです。私の家は代々神職だけど、ちょっと霊感が強いだけで、神様とは喋れません。けど、桜良先輩は私とは違って、生まれもって神様と話せて、そして困った人を苦しみから救うことのできる能力を持っている、言うなれば選ばれた人間なんです。
 ……だから、その力をできれば捨ててほしくないな、とも感じます」

「それで……、だ。もし、仮に私たちのことを気にしてるのなら、今すぐそんな考えは捨てろ。なあに、大丈夫。天からの試練くらい、みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられるさ。
 だから、桜良。この間は『軽率なことをするな』なんて言ったが、あれはやっぱナシだ。お前は何も考えずに、がむしゃらに突き進め。その馬鹿みたいなパワーで、私たちを引っ張っていってくれよ。そんで、行き詰まったら、その時は一人で悩むな。全員で悩もうじゃないか。困った時には、一人じゃなく互いに支え合っていくのが、ここにいる全員が好きな、合唱ってやつなんだろ? ま、私も最近その良さがちょっとはわかるようになったというか……。とにかく、そういうことだ、以上!」

 野薔薇が強引に最後を締めると、すごく真面目な話なのに、思わず笑いが込み上げそうになった。
 そうしてわたしが吹き出すよりも先に、周りのみんなが笑い始める。

 そして、早百合がにこやかな表情で語り掛けてきた。

「ね。みんな面白いでしょ。それぞれ性格も、考え方もバラバラ。そんな人たちが集まって、一つの音楽をやってる。私たちって、実は凄く個性的なグループなんだよ。そんなみんなを集めて、ここまでまとめてくれたのが桜良。桜良が私たちみんなを変えてくれた。だから、その力を今度はもっと多くの人の為に使ってほしい。その笑顔と包容力で、島中の人たちを幸せにしてあげてほしい。そう思うんだ。
 もちろん、おばさまの事とかとても心配だと思うし、最終的には桜良が決めて。でも、たとえ桜良がどんな決断をしたとしても、私たちは必ず離れないで、そっと支えるから。だから、安心して。これが、私たちの決断」

 さっきからずっと堪えていた瞼のダムが、再び決壊する。
 次から次にどんどん溢れてくる涙は、海辺の時と比べるとそこまでしょっぱさを感じなかった。


 わたしはユラで、神様と話せ人を助けられるような力を持っている。
 未だに疑わしい気持ちはあったけど、少しだけ、そのことを信じてみてもいいかな、と思った。

 それは、かけがえのない仲間たちが心から想いを伝えてくれたというのもあったし、何よりその姿形も思い出せない女神様のことを、なぜかまるで懐かしい友達のように感じ始めたからだった。

 神様ということは最早関係なく、一人の『友達』が寂しい思いをしている。
 それだけで、今から行動を起こすには十分な理由になった。

 わたしは早百合たちにある提案をし、朝早くから協力してくれた管理人さんにもう一度お礼をすると、北平町の方に急いで向かった。
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