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第五章 さけび

(4) グループ名は?

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 菫さんの前で曲を披露するにあたって、一応現時点での一番の勝負曲で臨んだつもりでいた。
 でも、演奏が終わるやいなや、菫さんは身じろぎ一つせず淡々と喋りだす。

「……うーん。色々言いたいことはあるけど、第一、バラバラね。全然まとまってない」

 そして黙り込むわたしたちに対し、冷たく言い放った。

「別に、出なくてもいいんじゃない、コンテスト。こんな感じじゃ、ビデオも通んないでしょ」

 何人かのメンバーが思わず反論しようとするのを、わたしはきっ、と睨んで止める。
 そして一歩だけ前に進むと、両方の拳をぎゅっと握りしめながら深く頭を下げた。

「貴重なご意見、ありがとうございます。もの凄く心に沁みました。
 ……でも、わたしたち、まだ諦めません。たとえどんな結果になろうとも、精一杯最後まで頑張ります。だって、折角こうして出会えた仲間たちですから」

 最後まで言い終えると、わたしはじっと目を閉じて唇をかみしめる。

 そのままどれだけの時間が経っただろうか。
 菫さんが穏やかな声で、顔を上げるように言った。

 ゆっくり身体を起こしてから前を見ると、その表情にさっきまでの冷たさはもうなかった。

「ふーん。さっすが、早百合の救世主なだけあるね。案外しっかりしてる。
 貴女たちも、桜良ちゃんと同じ意見?」

 恐る恐る後ろを見ると、みんなはわずかに顔をこわばらせながら、それでもはっきりと頷いてくれた。
 菫さんはそれを確認すると、椅子からすっと立ち上がり笑顔で言った。

「わざわざ音美から来てくれたから、一つだけ課題を出してあげる。私、今度大体お盆が過ぎた辺りで、島に帰省するつもりなの。
 だからその時に、少しでも成長した姿を見せてちょうだい。楽しみにしてるわ」

「……ありがとうございます!」

 わたしが叫ぶのと同時に、後ろからみんなの声も聞こえてきた。
 うんうん、と菫さんは満足そうに頷くと、机に軽く腰掛けた。

「それで、その課題だけど。そうねえ……。よし、決めたわ」

 そして、わたしたちを再びぐるりと見渡すと、声高らかに叫んだ。

「引き続き練習に励みつつ、何か一つ、奉仕活動に取り組みなさい!」

 沈黙が、一瞬部屋中を包みこむ。
 思わず尋ねてしまった。

「……あの。技術的なことじゃないんですか?」

 菫さんが手を横に振りながら無言で否定すると、後ろから椿が声を上げた。

「奉仕活動、って。一応毎週、練習後に活動場所の掃除をしているんですけど」

 その意見に、菫さんは突然、きりっとした表情をすると、すぐさま大声で檄を飛ばした。

「お黙り!」

 その圧に怯んだ椿を、横で梢がそっと支える。
 菫さんは、忙しなく脚を組み替えながら諭した。

「あのね。活動場所の掃除なんて、そんなの当たり前のこと。
 そうじゃなくて、みんなで何か一つ、力を合わせて成し遂げなさい、って言いたいの。わかる?」

「はい、すみませんでした」

 軽く涙目になりながら俯く椿を、早百合がそれとなくフォローしていた。

「とにかく、ただでさえ他のグループより遅れているんだから、精一杯やるだけ頑張ってみなさい。
 そうしたら、少しはマシな感じになれるんじゃない?」

 そう言って、菫さんは壁時計をちらっと見る。
 そろそろ音楽室の方も騒がしくなってきた。

 わたしたちは最後に全員で礼をすると、そのまま並んで準備室を出る。
 その後、駐車場に向かう途中で、菫さんがふと思い出したように呟いた。

「そういえば。貴女たち、グループ名はなんていうの?」

 グループ名……?
 あっ。

 当然ながら、誰も口を開けなかった。
 菫さんはため息をつきながら、追加の課題を指定した。
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