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第三章 ささえ
(終) ハミングバード
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しばらくして、店内にはお客さんが増えてきた。
大人の世界に段々と居心地が悪くなってきて、やっぱり早いうちに帰ろうかと思い始める。
でもシオリさんから、七時半に演奏するからぜひ聴いてって、と誘われたために、今こうして隅っこの方で五人縮こまって座っているのだ。
やがて時間になり、ステージの袖の方から六人の女性が、それぞれ着飾って登場した。
列の中から、シオリさんが前に出てきて喋り始める。
「どうもー! 今日もわざわざ来て下さってありがとうございまーす。
初めてあたしたちの演奏を聴くという方も、既に何度も聴いてるよー! って方も、どうぞ楽しんでいって下さいね!」
その後、隣にいた長い髪の女性が、「アー」と声を出す。
それに合わせて他のメンバーもそれぞれの音を出していく。
やがて全ての音が綺麗に重なった時、店内の空気がわずかに震えたような気がした。
そうして会場が静まった後、小気味いいスナップに合わせて曲が始まった。
彼女たちの演奏は、全くの無伴奏だった。
二人が高音と低音のコーラスを担当し、それにシオリさんと長い髪の女性がボーカルを重ねていく。
二人のボーカルはそれぞれすれ違ったり、時に交差したりして、変幻自在に絡み合っていた。
残りの二人のうち、一人は低い声でリズムを取っている。
そして最後の一人は、まるで打楽器のような音を口から出していた。
スネアドラム、シンバルを一定のリズムで交互に鳴らすその人は、さながら本物のドラマーみたいだ。
この六人が奏でる音楽は、楽器など最早必要ない、正真正銘歌声だけのアンサンブルだった。
曲が進むにつれてお客さんも次第にノッてきたようで、手拍子をしたり身体を揺らしたりしている。
わたしたちも、気づけば手を叩きながら目の前の六人に夢中になっていた。
最早店内は彼女たちの独壇場となり、ほとんどすべての人たちが目の前のステージに釘付けになった。
楽しい時間はあっという間に終わり、拍手と喝采に包まれながらシオリさんたちが袖へと下りていく。
それからしばらくの間、わたしたちは全員ともただただ茫然としていた。
しかし、最初に沈黙を破ったのは意外にも梢ちゃんだった。
「……凄い。凄い演奏でした、みなさん!」
それにつられ、わたしも思わずはしゃぎ出す。
「そうだよ! わたしたち、凄いもの見ちゃったね。みんな、まるで楽器みたいだった!」
残りのみんなも、後から口々に感想を言い始めた。
いつもはクールな野薔薇でさえ、この時ばかりは興奮を抑え切れないようだ。
そんな四人に、意を決し提案してみる。
「ねえ。今からやってみようよ、アカペラバンド!
それぞれパートを割り振って、自由に楽しく演奏するの。シオリさんたちみたいにさ!」
最後まで喋り終える前に、すぐさま返事がきた。
「いいね! 私も丁度考えてたの」
「うちも、うちも! 賛成だよ!」
「ああ。それに、うちらのグループは、すでにメンバーが五人もいるしな」
そして、みんなで梢ちゃんの方を見る。
彼女は最初だけ驚いていたけれど、やがて全員の顔を見回すと、自信に満ちた顔でぺこりと頷いた。
こうしてゴールデンウイークの小旅行は、途中色々とあったものの(反省)、梢という新しい仲間の加入と、素敵な先輩グループとの出会い、そして思わぬ方向性の決定、といった様々なイベントを経て、無事に終了した。
翌日、島に帰ってきたわたしたちは、何となくそのまま家に帰る気も起きずに、全員がそのまま部室へと寄るのだった。
第三章 ささえ 終
第四章につづく…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Shooterです。
第三章までお読みいただきありがとうございました!
新年度が始まり、後輩が増えて、さらにはアカペラバンドという一つの活動目標ができた桜良たち。
次の章ではアカペラに欠かせないあるパートが得意な人の勧誘に励みますが…。
是非、お楽しみに!
大人の世界に段々と居心地が悪くなってきて、やっぱり早いうちに帰ろうかと思い始める。
でもシオリさんから、七時半に演奏するからぜひ聴いてって、と誘われたために、今こうして隅っこの方で五人縮こまって座っているのだ。
やがて時間になり、ステージの袖の方から六人の女性が、それぞれ着飾って登場した。
列の中から、シオリさんが前に出てきて喋り始める。
「どうもー! 今日もわざわざ来て下さってありがとうございまーす。
初めてあたしたちの演奏を聴くという方も、既に何度も聴いてるよー! って方も、どうぞ楽しんでいって下さいね!」
その後、隣にいた長い髪の女性が、「アー」と声を出す。
それに合わせて他のメンバーもそれぞれの音を出していく。
やがて全ての音が綺麗に重なった時、店内の空気がわずかに震えたような気がした。
そうして会場が静まった後、小気味いいスナップに合わせて曲が始まった。
彼女たちの演奏は、全くの無伴奏だった。
二人が高音と低音のコーラスを担当し、それにシオリさんと長い髪の女性がボーカルを重ねていく。
二人のボーカルはそれぞれすれ違ったり、時に交差したりして、変幻自在に絡み合っていた。
残りの二人のうち、一人は低い声でリズムを取っている。
そして最後の一人は、まるで打楽器のような音を口から出していた。
スネアドラム、シンバルを一定のリズムで交互に鳴らすその人は、さながら本物のドラマーみたいだ。
この六人が奏でる音楽は、楽器など最早必要ない、正真正銘歌声だけのアンサンブルだった。
曲が進むにつれてお客さんも次第にノッてきたようで、手拍子をしたり身体を揺らしたりしている。
わたしたちも、気づけば手を叩きながら目の前の六人に夢中になっていた。
最早店内は彼女たちの独壇場となり、ほとんどすべての人たちが目の前のステージに釘付けになった。
楽しい時間はあっという間に終わり、拍手と喝采に包まれながらシオリさんたちが袖へと下りていく。
それからしばらくの間、わたしたちは全員ともただただ茫然としていた。
しかし、最初に沈黙を破ったのは意外にも梢ちゃんだった。
「……凄い。凄い演奏でした、みなさん!」
それにつられ、わたしも思わずはしゃぎ出す。
「そうだよ! わたしたち、凄いもの見ちゃったね。みんな、まるで楽器みたいだった!」
残りのみんなも、後から口々に感想を言い始めた。
いつもはクールな野薔薇でさえ、この時ばかりは興奮を抑え切れないようだ。
そんな四人に、意を決し提案してみる。
「ねえ。今からやってみようよ、アカペラバンド!
それぞれパートを割り振って、自由に楽しく演奏するの。シオリさんたちみたいにさ!」
最後まで喋り終える前に、すぐさま返事がきた。
「いいね! 私も丁度考えてたの」
「うちも、うちも! 賛成だよ!」
「ああ。それに、うちらのグループは、すでにメンバーが五人もいるしな」
そして、みんなで梢ちゃんの方を見る。
彼女は最初だけ驚いていたけれど、やがて全員の顔を見回すと、自信に満ちた顔でぺこりと頷いた。
こうしてゴールデンウイークの小旅行は、途中色々とあったものの(反省)、梢という新しい仲間の加入と、素敵な先輩グループとの出会い、そして思わぬ方向性の決定、といった様々なイベントを経て、無事に終了した。
翌日、島に帰ってきたわたしたちは、何となくそのまま家に帰る気も起きずに、全員がそのまま部室へと寄るのだった。
第三章 ささえ 終
第四章につづく…
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Shooterです。
第三章までお読みいただきありがとうございました!
新年度が始まり、後輩が増えて、さらにはアカペラバンドという一つの活動目標ができた桜良たち。
次の章ではアカペラに欠かせないあるパートが得意な人の勧誘に励みますが…。
是非、お楽しみに!
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